幼女となった社畜は異世界の救世主となる

藤原遊

文字の大きさ
上 下
24 / 74
第2部

1章 疑惑の兆し

しおりを挟む
塔の調査から戻った一行は、それぞれ王城内での報告作業に追われていた。ミユはルイスたちが手分けして記録をまとめる様子を眺めながら、頭の片隅に引っかかる感覚に囚われていた。

塔の文字――どこかで見たことがある気がする。でも、それがどこだったのか思い出せない。

「何か気になることでもあるのか?」

ルイスが記録用のペンを動かしながら、ちらりと彼女を見た。

「はい……塔で見た文字が、何か引っかかっていて……」

ミユは少し迷いながらも、正直に答えた。

「思い出せそうで思い出せないんです」

エリオットが顔を上げ、軽く肩をすくめた。

「文字なら、王城の図書室にある本で調べてみるのが早いかもな。意外とこういう時、古い本が役に立つもんだぜ」

「図書室……!」

ミユの顔がぱっと明るくなった。

「そうですね、調べてみたいです!」

「じゃあ、案内するよ。暇だしな」

エリオットは軽い調子で立ち上がると、杖を肩に乗せた。

「ありがとう、エリオット様!」

ミユは小さく頭を下げて、彼の後を追った。

広大な図書室に入ると、埃っぽい香りと静寂が漂っていた。壁一面を覆う高い書棚には、王国の歴史を刻む膨大な書物が整然と並んでいる。

「さあて、塔の文字っぽい内容がありそうな本はどこだ?」

エリオットは背の高い書棚を見上げながら、いくつかの本を手早く引き抜いた。

ミユも手近な本を手に取り、ページをめくる。塔の文字を必死に思い出しながら、似たような記号や模様を探していた。

しばらくして、ミユは一冊の古びた本を開いた瞬間、息を呑んだ。

「これ……!」

そのページには、塔で見たものと同じ文字が並んでいた。ミユは本を持ち上げ、エリオットの方へ駆け寄る。

「エリオット様、これです! 塔の文字と同じものが書かれています!」

エリオットは彼女から本を受け取り、表情が一瞬硬くなった。しかし、すぐにいつもの軽い調子を取り戻し、短く頷いた。

「確かに一致してるな。これ、他国の文字だろうな」

「この本……一体どこから来たんでしょうか?」

ミユは疑問を口にした。

エリオットは本の表紙を調べるふりをしながら、視線をそらす。

「さあな。とりあえず、これをルイスたちに見せた方がいいだろう」

彼の態度に微妙な違和感を覚えたミユだったが、その場で深く考えることはなかった。

その夜、ミユは自室のベッドで横になりながら、図書室での出来事を思い返していた。塔の文字を見つけた瞬間のエリオットの反応――彼が本を手に取ったときの一瞬の硬い表情が、どうしても心に引っかかっている。

「気のせい……だったのかな?」

ミユは枕に顔をうずめ、疲れた頭を休めようとしたが、胸のざわめきは消えない。

一方、エリオットもまた、自室で独り杖を握りしめていた。その瞳には焦燥の色が浮かび、何度も繰り返すように低く呟く。

「……もうすぐバレるかもしれない。でも……どうしろって言うんだ……」

その言葉は誰にも届かず、静かな夜の中に吸い込まれていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

傷心令嬢と氷の魔術師のスパイス食堂

ゆちば
恋愛
【スパイスオタク令嬢×傲慢魔術師×歪んだ純愛】 王国の男爵令嬢フィーナは、薬師業の傍ら、大好きなスパイス料理の研究をしているスパイスオタク。 ところが、戦地に遠征中の婚約者の帰りをひたすら待つ彼女を家族は疎み、勝手に縁談を結ぼうとしていた。 そのことを知ったフィーナは家出を計画し、トドメに「婚約者は死んだのよ!」という暴言を吐く義妹をビンタ!! そして実家を飛び出し、婚約者がいるらしい帝国を目指すが、道中の森で迷ってしまう。 そこで出会ったのは、行き倒れの魔術師の青年だった。 青年を救うため、偶然見つけた民家に彼を運び込み、フィーナは自慢のスパイス料理を振る舞う。 料理を食べた青年魔術師は元気を取り戻し、フィーナにある提案をする。 「君にスパイス料理の店を持たせてあげようってコトさ。光栄だろ?」 アッシュと名乗る彼は、店を構えれば結婚資金を稼ぎながら、行方知れずの婚約者の情報を集めることができるはずだと言う。 甘い言葉に釣られたフィーナは、魔術師アッシュと共に深夜限定営業の【スパイス食堂】をオープンさせることに。 じんわりと奥深いスパイス料理、婚約者の行方、そして不遜で傲慢で嫌味でイケメンなアッシュの秘密とは――? ★全63話完結済み

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

一日5秒を私にください

蒼緋 玲
恋愛
1.2.3.4.5… 一日5秒だけで良いから この胸の高鳴りと心が満たされる理由を知りたい 長い不遇の扱いを受け、更に不治の病に冒されてしまった少女が、 初めて芽生える感情と人との繋がりを経て、 最期まで前を向いて精一杯生きていこうと邁進するお話。 その他外部サイトにも投稿しています

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...