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第1部
19章 王都への帰還
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塔の戦いを終えた一行は、疲労に足を重くしながら王都へと戻っていた。辺りには鳥の鳴き声や風の音が戻り、塔周辺の異様な気配が消え去ったことを実感できる。
「静かになったな……」
ライアンが周囲を見渡しながら呟いた。
「結晶が壊れたことで、あの禍々しい力も消えたようだ」
エリオットが杖を肩に乗せて応じる。
「だけど、これで終わったとは思えないね」
ミユは仲間たちの会話を聞きながらも、塔で感じた恐怖と囁き声の記憶が頭から離れなかった。手をぎゅっと握りしめて歩く彼女を、ルイスが横目で見ながら静かに声をかけた。
「ミユ、疲れてないか? 無理をするな」
彼女は少し驚いた様子で顔を上げたが、小さく首を振った。
「大丈夫です……でも、あの結晶に何が隠されていたのか、ずっと気になります」
ルイスは短く頷き、険しい表情で言った。
「そうだな。王都に戻ったらセドリック卿やオーウェンに報告し、手掛かりを探す必要がある。これ以上の被害を防ぐためにも、迅速に動こう」
その言葉に全員が頷き、一行はさらに歩を進めた。
王都の門を通り抜け、王城に戻った一行をセドリック卿とオーウェンが出迎えた。広間に集まった彼らは、それぞれが塔での出来事を報告した。
「塔の中心にあった結晶を破壊したことで、周辺の異常な魔物の動きは収まったようです」
ルイスが口火を切る。
「ただ、結晶は壊れたが、その背後に何か……意思を持つ存在がいた気配があった」とエリオットが続けた。
セドリック卿は腕を組みながら眉をひそめた。
「結晶の存在そのものが異常だ。塔といい、誰かが意図的に作り出したものであることは間違いない。だが、その目的が何なのかが分からないな」
オーウェンは深く頷きながら、手元の杖を軽く振った。
「塔のような建造物を作るには、膨大な労力と魔力が必要だ。それを成し遂げた者がいる以上、今回の一件が偶発的なものではないのは確かだろう」
ミユは勇気を出して口を開いた。
「あの……塔の結晶に囚われている間、私をじっと見ている“目”のようなものを感じました。その存在が……私たちを監視していたような気がして……」
「監視か……」
セドリック卿は難しい顔をした。
その言葉に、オーウェンの表情が一層険しくなった。セドリック卿が低い声で答える。
「もしその目が結晶を操った者だとすれば、黒幕は既に我々の動きを把握している可能性が高いな」
「監視されていた可能性があるなら、急いで塔を再調査する必要があります。ただ、すぐに出発しても疲労で戦力が低下するだけだ。一度休息を取り、万全な状態で向かいましょう」とルイスが冷静に提案し、全員がそれに同意した。
その夜、一行は王城に用意されたそれぞれの部屋で休むことになった。ミユは柔らかなベッドに身を沈め、目を閉じたものの、すぐには眠れなかった。塔で感じた囁き声や、囚われたときの恐怖が何度も頭をよぎり、胸が締め付けられる。
彼女はベッドから身を起こし、膝を抱えるようにして呟いた。
「……私、本当に役に立てたのかな……」
塔での戦いを振り返ると、仲間たちが自分を守ろうと必死だった姿ばかりが浮かぶ。それに比べて、自分の力はまだ足りないのではないかという思いが胸を占めた。
その時、静かにノックの音が聞こえた。ドアを開けると、そこにはルイスが立っていた。
「起きていたのか?」
ルイスが微笑みながら言う。
「ルイス様……どうして?」
ミユは驚きながら尋ねた。
「君の部屋の前を通ったら、明かりが漏れていたからね。少し話せるかな?」
ミユは頷き、二人で部屋の中に入った。ルイスは窓辺に腰掛けると、外の夜景を見つめながら話し始めた。
「塔での戦い、大変だったな。君が戻ってきてくれて、本当に良かったよ」
その言葉に、ミユは俯きながら答えた。
「でも……私は、皆さんに守られてばかりで……。足手まといだったんじゃないかって……」
ルイスは彼女の顔を覗き込み、柔らかく微笑んだ。
「そんなことはない。君がいなければ、僕たちはあの戦いに勝つことはできなかった。君が光の力を使ってくれたおかげで、僕たちは道を切り開けたんだ」
ミユは涙を浮かべながら、小さな声で言った。
「ありがとうございます。私……もっと強くなりたいです」
「その気持ちがあれば、君はもっと強くなれるよ」とルイスは優しく答えた。
「僕も、君と一緒に成長していきたいと思っている」
その言葉にミユは胸がじんと熱くなるのを感じ、深く頷いた。
翌朝、王城の庭に集まった一行は、塔の再調査に向けて準備を整えていた。セドリック卿とオーウェンが見送る中、ルイスが全員に向かって声をかける。
「結晶の残骸や塔の跡地には、きっと黒幕に繋がる手掛かりが残されているはずだ。それを掴むために、もう一度向かおう」
「行くからには、全力でやります」
ライアンが力強く言う。
「調査しながら、何か危険な兆候があればすぐに知らせます」とエリオットが補足した。
ミユもまた、小さく拳を握りながら言った。
「私も……皆さんの力になれるように頑張ります!」
一行は決意を胸に王城を後にし、再び塔の跡地へと向かった。その背中には、新たな希望と使命感が込められていた。
「静かになったな……」
ライアンが周囲を見渡しながら呟いた。
「結晶が壊れたことで、あの禍々しい力も消えたようだ」
エリオットが杖を肩に乗せて応じる。
「だけど、これで終わったとは思えないね」
ミユは仲間たちの会話を聞きながらも、塔で感じた恐怖と囁き声の記憶が頭から離れなかった。手をぎゅっと握りしめて歩く彼女を、ルイスが横目で見ながら静かに声をかけた。
「ミユ、疲れてないか? 無理をするな」
彼女は少し驚いた様子で顔を上げたが、小さく首を振った。
「大丈夫です……でも、あの結晶に何が隠されていたのか、ずっと気になります」
ルイスは短く頷き、険しい表情で言った。
「そうだな。王都に戻ったらセドリック卿やオーウェンに報告し、手掛かりを探す必要がある。これ以上の被害を防ぐためにも、迅速に動こう」
その言葉に全員が頷き、一行はさらに歩を進めた。
王都の門を通り抜け、王城に戻った一行をセドリック卿とオーウェンが出迎えた。広間に集まった彼らは、それぞれが塔での出来事を報告した。
「塔の中心にあった結晶を破壊したことで、周辺の異常な魔物の動きは収まったようです」
ルイスが口火を切る。
「ただ、結晶は壊れたが、その背後に何か……意思を持つ存在がいた気配があった」とエリオットが続けた。
セドリック卿は腕を組みながら眉をひそめた。
「結晶の存在そのものが異常だ。塔といい、誰かが意図的に作り出したものであることは間違いない。だが、その目的が何なのかが分からないな」
オーウェンは深く頷きながら、手元の杖を軽く振った。
「塔のような建造物を作るには、膨大な労力と魔力が必要だ。それを成し遂げた者がいる以上、今回の一件が偶発的なものではないのは確かだろう」
ミユは勇気を出して口を開いた。
「あの……塔の結晶に囚われている間、私をじっと見ている“目”のようなものを感じました。その存在が……私たちを監視していたような気がして……」
「監視か……」
セドリック卿は難しい顔をした。
その言葉に、オーウェンの表情が一層険しくなった。セドリック卿が低い声で答える。
「もしその目が結晶を操った者だとすれば、黒幕は既に我々の動きを把握している可能性が高いな」
「監視されていた可能性があるなら、急いで塔を再調査する必要があります。ただ、すぐに出発しても疲労で戦力が低下するだけだ。一度休息を取り、万全な状態で向かいましょう」とルイスが冷静に提案し、全員がそれに同意した。
その夜、一行は王城に用意されたそれぞれの部屋で休むことになった。ミユは柔らかなベッドに身を沈め、目を閉じたものの、すぐには眠れなかった。塔で感じた囁き声や、囚われたときの恐怖が何度も頭をよぎり、胸が締め付けられる。
彼女はベッドから身を起こし、膝を抱えるようにして呟いた。
「……私、本当に役に立てたのかな……」
塔での戦いを振り返ると、仲間たちが自分を守ろうと必死だった姿ばかりが浮かぶ。それに比べて、自分の力はまだ足りないのではないかという思いが胸を占めた。
その時、静かにノックの音が聞こえた。ドアを開けると、そこにはルイスが立っていた。
「起きていたのか?」
ルイスが微笑みながら言う。
「ルイス様……どうして?」
ミユは驚きながら尋ねた。
「君の部屋の前を通ったら、明かりが漏れていたからね。少し話せるかな?」
ミユは頷き、二人で部屋の中に入った。ルイスは窓辺に腰掛けると、外の夜景を見つめながら話し始めた。
「塔での戦い、大変だったな。君が戻ってきてくれて、本当に良かったよ」
その言葉に、ミユは俯きながら答えた。
「でも……私は、皆さんに守られてばかりで……。足手まといだったんじゃないかって……」
ルイスは彼女の顔を覗き込み、柔らかく微笑んだ。
「そんなことはない。君がいなければ、僕たちはあの戦いに勝つことはできなかった。君が光の力を使ってくれたおかげで、僕たちは道を切り開けたんだ」
ミユは涙を浮かべながら、小さな声で言った。
「ありがとうございます。私……もっと強くなりたいです」
「その気持ちがあれば、君はもっと強くなれるよ」とルイスは優しく答えた。
「僕も、君と一緒に成長していきたいと思っている」
その言葉にミユは胸がじんと熱くなるのを感じ、深く頷いた。
翌朝、王城の庭に集まった一行は、塔の再調査に向けて準備を整えていた。セドリック卿とオーウェンが見送る中、ルイスが全員に向かって声をかける。
「結晶の残骸や塔の跡地には、きっと黒幕に繋がる手掛かりが残されているはずだ。それを掴むために、もう一度向かおう」
「行くからには、全力でやります」
ライアンが力強く言う。
「調査しながら、何か危険な兆候があればすぐに知らせます」とエリオットが補足した。
ミユもまた、小さく拳を握りながら言った。
「私も……皆さんの力になれるように頑張ります!」
一行は決意を胸に王城を後にし、再び塔の跡地へと向かった。その背中には、新たな希望と使命感が込められていた。
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