幼女となった社畜は異世界の救世主となる

藤原遊

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第1部

15章 塔の深淵

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塔の広間を抜けた先は、薄暗く長い回廊が続いていた。壁に刻まれた奇妙な文字が、時折青白く光りながら一行の足元を照らしている。ミユは不安を隠せないまま、ルイスの後ろを歩いていた。

「この道……まるでこちらを誘い込むような感じがするね」とエリオットが軽い調子で言ったが、その声には緊張が滲んでいた。

「罠が仕掛けられている可能性もある。油断するな」とライアンが短く答えた。

その言葉にミユは小さく息を呑んだ。戦いの疲れが残る体を引きずるようにしながら、それでも足を止めることはなかった。

「ミユ、大丈夫か?」

ルイスが振り返り、気遣うような目を向けてきた。

「はい……大丈夫です」と彼女は小さく頷いた。だが、その声にはわずかに震えが混じっていた。

ルイスは一瞬考え込むような表情を見せた後、少しだけペースを緩めた。

「君の力が頼りだ。でも無理はしないでいい。僕たちが君を守るから」

その言葉にミユの胸がじんと熱くなった。自分が守られているだけでなく、必要とされていることを改めて感じた。

一行が進む中、次第に空気が重くなり始めた。視界が薄暗い霧で覆われ、遠くから何かを引きずるような音が微かに響いてきた。その音が次第に大きくなると同時に、壁の文字が赤く染まり始めた。

「来るぞ!」

ライアンが剣を構え、全員が緊張を高めた。

霧の中から現れたのは、これまで見たことのない異形の魔物だった。その姿は半分人間、半分獣のようで、鋭い爪と真っ赤な目が特徴的だった。さらに、その背後には多数の同種の魔物が控えていた。

「数が多い……!」

エリオットが呟き、すぐに杖を構えて呪文を唱え始めた。

「全員、防衛を固めろ! ミユ、後ろに下がれ!」

ルイスが鋭い声で指示を飛ばす。

ミユはその声に従いながらも、自分が何もせずに守られるだけではいけないという気持ちが強まっていった。彼女は胸の奥から光を呼び覚まし、その輝きが仲間たちを包み込むと、仲間たちの怪我と疲れが癒されていった。

「ありがとう、ミユ! これで持ちこたえられる!」

エリオットが笑みを浮かべながら魔法を放ち、前方の魔物たちを一掃した。

その間にも、ルイスとライアンは前線で次々に魔物を斬り伏せていった。ミユはその姿を見つめながら、仲間たちが自分を守ろうと必死になっていることを改めて感じた。

(私も……もっと力を出さなきゃ)

彼女がそう思った瞬間、霧の中から新たな魔物が現れた。その体は他の個体よりも大きく、腕には黒い鎖のようなものを巻きつけている。その魔物は一行を見下ろしながら、低く唸り声を上げた。

「厄介そうだな……」

ライアンが剣を握りしめ、緊張した声で言う。

その魔物は一気に前進し、大きな腕を振り下ろしてきた。ルイスが剣を掲げて受け止めたが、その衝撃で彼の体が一瞬揺らいだ。

「強い……!」

ルイスが苦しそうに言いながらも、剣を振り払い、魔物の腕を弾き返した。

エリオットがその隙に魔法を放ち、魔物の動きを封じ込めようとするが、相手の力が強すぎて完全には止められなかった。

「ミユ! 君の力で弱点を探ることはできるか?」

ルイスが彼女に問いかけた。

ミユは一瞬戸惑ったが、すぐに目を閉じ、集中した。彼女の光が魔物を包み込むと、その体の一部が一瞬だけ輝きを失った。

「右肩だ……!」

ミユが叫ぶと、ルイスがその肩を目指して剣を振り下ろした。

剣が魔物の右肩を切り裂くと、その体が一気に崩れ始めた。周囲の霧が晴れる中、魔物の群れも次第に退いていった。

戦いが終わり、再び静寂が訪れた。ミユは疲れ切った体を支えながら、周囲を見回した。仲間たちの無事を確認すると、ようやくほっとした表情を浮かべた。

ルイスが彼女のそばに歩み寄り、そっと手を差し伸べた。

「お疲れ様。君がいなければ、きっと危なかった」

ミユは彼の手を取って立ち上がり、少しだけ照れたように微笑んだ。

「でも、皆さんが守ってくれたから……私も頑張れたんです」

その言葉にルイスは小さく笑い、「君は本当に強いな」と静かに言った。

エリオットが後ろから声を上げた。

「さぁ、まだ塔の半分だろう? 次はもっと大変かもしれないよ」

ライアンが真面目な声で付け加えた。

「気を抜くな。これまで以上の危険が待っているはずだ」

ミユはその言葉に頷きながら、胸の奥で自分の力と仲間たちへの信頼を再確認した。そして、一行はさらに塔の奥へと進み始めた。
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