幼女となった社畜は異世界の救世主となる

第1部

9章 真面目な戦士と自由な魔法使い

王城の庭園を歩くミユのそばには、セドリック卿の部下であるライアンが控えていた。背筋をまっすぐに伸ばし、真剣な表情を崩さない彼の態度に、ミユは少しだけ緊張していた。

「どうして私の散歩に、わざわざライアンさんがついてくれるんですか？」

ミユは小さな声で尋ねた。

「王都の中にも、すべてが安全とは言えない場所があります。ましてや、君は光の力を持つ存在だ。君に何かあれば、それだけで重大な問題になる」と、ライアンは即座に答えた。

その端的で真面目な答えに、ミユは少し困惑しながらも、「ありがとうございます。でも、ちょっと過保護な気がします」と呟いた。

「守るべき者を守るのが、私たちの役目です」と、ライアンは短く言った。真剣そのものの態度に、ミユはそれ以上何も言えなくなり、視線を前に向けた。

庭園の中心に差し掛かると、ミユは足を止めた。噴水が柔らかく水音を立て、風に揺れる花々が目の前で静かに色を輝かせている。その美しい光景に、彼女は少しだけ緊張を解いた。

「ライアンさんは、ずっとセドリック卿のそばにいるんですか？」ミユは話題を変えるように声をかけた。

「そうです。もう数年、卿の指導のもとで任務にあたっています」とライアンは答えた。「卿は厳しい方ですが、公平で、理に適った指揮を取られる。部下として誇りに思っています」

「そうなんですね……ライアンさんも、とても真面目な人なんですね」

ミユは感心したように言った。

「真面目であることは重要です。軽率な行動は、時に全てを台無しにする」と、ライアンはきっぱりと言い切った。

その言葉を聞いて、ミユの頭にエリオットの姿が浮かんだ。彼の自由奔放な態度とライアンの堅実さを思い比べ、つい笑みをこぼした。

「エリオットさんとは、全然違いますね」

ライアンは少し眉をひそめた。

「エリオットは悪い人間ではありませんが、あの軽率さはしばしば問題を引き起こします。師匠であるオーウェン様が苦労されている理由も理解できます」
「でも、エリオットさん、すごく楽しそうでいい人だと思います。ライアンさんと全然違うから面白いです」

ミユが楽しげに言うと、ライアンは少し渋い表情を浮かべながら、「そうかもしれませんね」と答えた。

噴水の近くのベンチに腰掛け、ミユが静かに花々を眺めていると、遠くからエリオットの声が聞こえてきた。

「おーい、ミユ！」

振り返ると、エリオットが手を振りながらこちらに向かってきた。その無邪気な笑顔を見たライアンは、深くため息をついた。

「また余計なことをしに来たのでしょうね」
「おいおい、余計なことなんてひどいなぁ！ 僕はただ、ミユの様子を見に来ただけだよ。それに、この花が咲き誇る庭園で話すのも楽しいじゃないか」とエリオットが軽快な調子で言う。

「お前が来ると、騒がしくなるだけだ」とライアンが冷たく言い返すと、エリオットは肩をすくめながらミユに向き直った。

「ほら見てよ、ミユ。このライアンの真面目さ。まるで歩く教科書だろ？」

ミユはくすりと笑いながら、「でも、ライアンさんがいると安心しますよ」と返した。その言葉にライアンは驚いたように彼女を見たが、すぐに咳払いをして目を逸らした。

「ミユ、こういうことを真面目な奴に言うと調子に乗るんだよ」とエリオットがからかい半分に言うと、ライアンは低い声で「黙れ」と返す。

二人のやりとりを見ていたミユは、どこか懐かしいような気持ちを抱いた。自分には兄弟はいなかったが、もし家族がいたらこんな風に賑やかな関係だったのかもしれないと、ふと思う。

ミユが笑顔を浮かべているのを見たエリオットは、急に真面目な顔になった。

「まあ、冗談は置いといて。ミユ、オーウェン師匠が君の力についてもっと詳しく調べたいって言ってた。今度、もう少し深い話をすることになるかもしれない」

ミユはその言葉に少し緊張しながらも、小さく頷いた。

「わかりました……よろしくお願いします」

エリオットが「それじゃあ、また後でね！」と言い残し、軽やかに去っていった後、ライアンは深いため息をついた。

「あいつがもう少し真面目なら、こちらの負担も減るのですが」

その言葉に、ミユはまた笑いながら「でも、エリオットさんがいると楽しいです」と答えた。ライアンはしばらく考えるような顔をした後、「君がそう思うなら、それも悪くはないかもしれません」と呟いた。