幼女となった社畜は異世界の救世主となる

第1部

5章 王都の輝き

馬車が石畳の街道を進むと、周囲の景色が少しずつ変わり始めた。なだらかな丘陵を越え、視界に広がったのは、広大な城壁に囲まれた壮大な都市だった。その中心には、白く輝く高い城がそびえ立っている。青空を背にしたその姿は威厳に満ちていて、ミユは思わず息を呑んだ。

「……あれが、王都……？」

窓の外を夢中で眺める彼女に、隣で書類を整理していたルイスが目を向けた。

「そうだよ。この国の、エルフィナスの心臓とも言える場所だね」

ミユは頷きながら目を輝かせた。城壁の外には市場や畑が広がり、多くの人が行き交っている。その景色は、彼女にとってこれまで見たことのないものだった。

馬車が城門をくぐると、中はさらに賑やかだった。石畳の通りには屋台が並び、商人たちの活気ある声が響く。色とりどりの商品が並ぶ中、行き交う人々の笑顔が印象的で、ミユは自然と微笑んだ。

「すごい……こんなにたくさんの人がいるんですね」

ルイスは彼女の反応に小さく笑みを浮かべながら、「これが王都の普通の日常だよ」とだけ答えた。その声にはどこか深い意味が込められているようだったが、ミユは気づかず、目に映る光景に夢中になっていた。

馬車はやがて王城へ続く大通りに入り、大きな門の前で止まった。門の前では鋭い目をした衛兵たちが控えており、馬車から降りたセドリック卿を見て、一斉に敬礼をした。

「お帰りなさいませ、セドリック卿。そして……お連れの方も」

衛兵の言葉にミユがルイスを見やると、彼は軽く会釈を返すだけだった。その仕草にはどこか洗練された品格が感じられたが、ミユにはそれ以上のことを考える余裕はなかった。

「王都での調査を進めるために戻った。君たちも警戒を怠るな」

セドリック卿の命令に衛兵たちは敬礼し、門がゆっくりと開かれる。その先に広がる王城の敷地は驚くほど広く、美しい庭園や石造りの建物が整然と並んでいた。

ミユはその壮大な光景に圧倒されながら、小さな体で馬車から降り、セドリック卿とルイスの後をついて歩き出した。

王城の中に入ると、広々とした廊下に美しい装飾が施されており、床には磨き上げられた石が光を反射している。ミユはその贅沢な空間に気圧されながらも、興味深そうに周囲を見回していた。

やがて案内された部屋に到着すると、セドリック卿が振り返り、「ここで少し待っていてくれ」とミユに言った。

「王都にいる専門家に君の力を調べてもらう手配を進める。それまでは自由にしていていい」

ミユは少し迷いながらも、「ありがとうございます……」と小さく礼を言った。そしてすぐに、「でも……迷惑をかけないようにします」と付け加えた。

その言葉にルイスが笑みを浮かべた。

「迷惑なんて思う必要はないさ。ここにいるのは君のためだから」

ミユはその言葉に少しだけ安心し、彼らを見送った。

一人になったミユは、窓辺に座り、目の前に広がる王都の景色を眺めた。遠くには市場の賑わいがあり、その先に広がる緑地や小さな家々の屋根が並んでいる。その全てが輝いて見えた。

（私……本当にこんな場所に来てしまったんだ）

彼女は自分の胸に手を当てた。そこには、今もあの光の力が宿っている。

（この力がなかったら、私はこんな場所にいることもなかったのかな……でも、どうしてこんな力が私に……）

不安と期待が入り混じる中、ミユは目を伏せて小さく息をついた。その瞬間、扉の外からルイスの声が聞こえた。

「ミユ、大丈夫かい？」

彼女が振り向くと、ルイスが部屋の入り口に立っていた。その穏やかな表情に、ミユは思わず微笑みを返した。「はい、少し落ち着きました」

「それならよかった。少し散歩でもしてみるかい？ この城には君が驚くような場所がたくさんあるよ」

彼の提案にミユは迷いながらも頷いた。

「……いいんですか？」
「もちろんさ。僕が案内するから安心して」

ルイスに手を引かれながら、ミユは王城の廊下を歩き始めた。その足取りはまだ少し不安定だったが、彼の隣にいると、どこか安心感が広がっていくのを感じた。