魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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30章 地下迷宮

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翌朝、三人はついに古代遺跡の入り口に到着する。魔力の気配が満ちる中、三人は互いに目を合わせ、剣と杖を握りしめた。

「さて、行こうか。」

アリアの力強い声に、二人が頷く。

遺跡の入り口は、古代の時間をそのまま閉じ込めたように、静かで重々しい雰囲気を漂わせていた。風化した石の門柱には、今でも微かに魔法文字が刻まれている。

アリアが剣を握りしめながら前に進む。

「……何か出てきそうだね。」

「当然だ。これだけの魔力が漂っている場所が無防備なわけがない。」

イアンが冷静に応じ、ルイスが剣の柄に手を添えながら口を開いた。

「まあ、俺たちがいるんだ。多少の敵は問題ないだろう。」

その言葉にアリアが少しだけ笑みを浮かべる。

「頼もしいこと言うじゃん。でも、油断しないでよね。」

三人は目配せを交わし、慎重に遺跡の中へと足を踏み入れた。

遺跡の最初の広間に入った途端、金属音が響き渡った。床の魔法陣が輝き、そこから機械仕掛けの魔物が次々と出現する。

「……予想通りだな。」

イアンが杖を構え、すぐに防御魔法を展開する。

「アリア、前衛を任せる。」

「了解!」

アリアが剣を抜き、盾を構えて前方へ進む。一方、ルイスは魔力障壁を前方の機械仕掛けの魔物だけに展開し、射撃型の攻撃を全て弾く。

「これで遠距離は俺が防ぐ。お前たちはやりやすいように動け!」

「助かる!」

アリアは敵の動きに合わせて間合いを詰め、剣を振り下ろした。硬質な音を立てて魔物が崩れ落ちるが、次々と新たな魔物が現れる。

「多いな……!」

イアンが「フロスト・スパイク」の呪文で敵を足止めし、ルイスが雷剣を振るい、次々と敵を切り裂いていく。

戦闘が続く中、アリアが一瞬バランスを崩した。その隙を突くように、一体の魔物が背後から迫る。

「アリア!」

イアンの叫びが響く。彼がすぐに土の壁を作り出し、魔物の動きを阻む。

「大丈夫、イアン! これくらいなんとかするって!」

アリアがすぐに体勢を立て直し、剣を振り抜いて魔物を倒した。しかし、その表情にはわずかな疲労が見える。

三人は最後の魔物を倒し、広間に静寂が戻った。アリアは剣を鞘に収め、少し荒い息を吐く。

「ふぅ……やっぱり相手が多いと疲れるね。」

「お前が無茶をするからだ。」

イアンが冷静に指摘すると、アリアは「ちゃんと無茶なんてしてないもん」と不満げに返す。

ルイスが二人のやり取りを見て、少し笑いながら肩をすくめた。

「まあ、こうして全員無事なんだ。それでいいだろう。」

イアンは呆れたようにため息をつきつつも、アリアの肩にそっと手を置いた。

「疲れたなら言え。無理をするな。」

その優しい声に、アリアは一瞬だけ目を丸くした後、小さく頷いた。

「……分かった。」

その夜、遺跡内の安全な場所を見つけ、三人は野営を張った。イアンが持っていた魔法具を使い、簡易的な結界を張る。

「ここならしばらく休めるだろう。」

焚き火の温もりを感じながら、アリアはぼんやりと炎を見つめていた。

(あの時、イアンがすぐに助けてくれたから……助かったんだよね。)

ルイスが隣でニヤリと笑う。

「お前、本当にあいつに甘やかされすぎなんじゃないか?」

「な、なんでそうなるの!」

アリアが慌てて否定すると、ルイスは「冗談だ」と笑いながら剣を磨き始めた。

一方、イアンはアリアに水袋を手渡しながら静かに言った。

「本当に無理をするな。お前が傷つくのは……俺が嫌だ。」

その一言に、アリアの心臓が跳ね上がる。

「えっ……」

「何でもない。休め。」

イアンが焚き火を見つめながら視線を逸らす。アリアはその横顔を見つめ、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
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