魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

文字の大きさ
上 下
158 / 182
29章 王都召喚命令

しおりを挟む
王都に到着すると、迎えに来ていたのはセオドリックだった。

「お二人とも、よくいらっしゃいました。」

セオドリックの柔らかな笑顔にアリアは安堵し、イアンは軽く頷く。

「いきなりですが、狩猟大会とお茶会に向けて、貴族の場での振る舞いを学んでいただきます。」

セオドリックの言葉にアリアが大げさに肩を落とした。

「ええー、戦うだけじゃダメなの?」

「ダメです。」セオドリックは即答し、「特にアリアさん、あなたは普段の振る舞いが大らかすぎます」と軽く笑った。

「むっ、別にいいでしょ、いつも通りで!」

「その“いつも通り”が通用しないのが貴族社会です。」

セオドリックの目が鋭くなる。

「ここで恥をかかないよう、徹底的に仕込みます。」

イアンの自然な品格

指導が始まると、アリアが何度も失敗するのとは対照的に、イアンはスムーズに振る舞いを身につけていった。

「うん、完璧です。君のような人が本当に冒険者というのが信じられないくらいですね。」

セオドリックが驚きの声を漏らす。

「母親がそういうことに厳しかったんでな。」

イアンがさらりと答えると、アリアが目を丸くした。

「ヴァレリアさん……だよね?」

その名前が口にされた瞬間、イアンの表情が少しだけ硬くなる。

「お前、よく覚えてるな。」

「忘れるわけないでしょ。あのときの雰囲気、すごく印象的だったもん。」アリアは苦笑しながらも、どこか懐かしそうに呟く。「それに、あの人があんたの母親だったなんて、未だに信じられないよ。」

「まあ、俺もそれを隠そうとはしていないが、話したいことも多くない。」

イアンが静かに言葉を継ぐ。

「彼女の影響で俺に染み付いたものがあるとすれば、それは“背筋を伸ばして誇りを持て”という言葉くらいだ。」

「それって……誇り高い人だったんだね。」

アリアの素直な感想に、イアンは小さく頷いた。

「そうだな。ただ、あの時の会話以上のことをお前に話すつもりはない。」

その言葉に、アリアは少しだけ申し訳なさそうに微笑む。

「うん、わかった。無理に聞くつもりはないよ。」

アリアの苦戦と成長

一方、アリアは何度もセオドリックに注意されながら、マナーを学んでいた。

「もっと背筋を伸ばして!」

「手を引くときはもう少し優雅に!」

「は、はい!でも、こんなこと戦闘には役立たないよ!」

「いいえ、役立ちます。」セオドリックが微笑む。「貴族の場もまた、一種の戦場なのです。」

その言葉に、アリアが少しだけ真剣な表情を見せた。

「戦場ね……じゃあ私も全力で挑むしかないか。」

そう呟く彼女に、セオドリックは満足そうに頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷の令嬢と岩の令息 〜女として見れないと言われた令嬢と脳筋令息〜

ごどめ
恋愛
マリアージュ男爵家とグランドール公爵家はとっても仲良し。そんな両家には仲睦まじい姉妹と兄弟がいる。マリアージュ家の長女リエラはとある日、突然婚約者であるグランドール家の長男、ルイスに「女として見れない」と言う残酷な言葉と共に婚約破棄されてしまう。 氷の令嬢と名高いリエラはそれでも表情を崩す事なくそれを甘んじて受けるが、実はその婚約破棄にはルイスの勘違いな思いやりがあり……。 ※短めのお話で全10話です。 ※ざまあ要素皆無の、ほのぼのらぶらぶコメディ系です。 ※この作品は小説家になろう様の方にも掲載しております。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...