魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

文字の大きさ
上 下
151 / 182
28章 旧バルグレン領の地下遺跡

しおりを挟む
アリアたちは東方に向かう街道を進み、目的地である荒廃した街へと辿り着いた。街はすでに草木に侵食され、建物は廃墟同然だった。風が吹くたびに崩れた屋根や壁が微かにきしむ音が聞こえる。

「ここが元々バルグレン侯爵の領地だった場所か。」
イアンが周囲を見回しながら呟く。

「荒れ果てているけど……地下に何かがあるってわけだね。」
アリアは腰の剣に手を置きながら慎重に周囲を見渡した。

「奴がわざわざここに拠点を構えているということは、何か重要なものが眠っているのは間違いない。」
ルイスが低い声で答える。

街の中心近く、かつて教会だったと思われる建物の地下に、大きな石造りの扉が見つかった。その扉には古い魔法陣が刻まれており、魔族の技術が使われていることが明白だった。

「この魔法陣……魔族の封印技術だな。」
イアンが杖をかざし、魔法陣を調べながら言った。

「封印技術?じゃあ、何かを閉じ込めているってこと?」
アリアが少し不安そうに尋ねる。

「その可能性もあるが……逆に、何かを守っているとも考えられる。」
ルイスが慎重に答えた。

「封印を解かなければ中には入れないみたいだね。」
イアンが魔法陣に触れると、静かに光が揺らめいた。

「少し時間がかかるが、解除する方法は分かる。待っていてくれ。」


魔法陣が解除されると、重々しい音を立てて扉が開いた。中からはひんやりとした空気が流れ込み、古い石の匂いが立ち込めている。

「おどろおどろしい雰囲気ね……こういうの、苦手なんだけど。」
アリアが小声で呟くと、ルイスが微笑を浮かべた。

「こういう場所では、恐怖心が油断を生む。君が慎重でいてくれるのは心強いよ。」

「ルイスは平気なの?」
アリアが聞くと、彼は淡々と答えた。

「恐怖を感じるのは良心がある証拠だ。僕には、その感覚が少し欠けているだけだよ。」

その言葉にアリアは一瞬言葉を失ったが、すぐに表情を引き締めた。

「よし、行こう!」


遺跡の通路を進む中、突然の足音と共に影が動いた。数体のゴーレムのような魔物が通路を塞ぐ。

「来たか。」
イアンが冷静に杖を構えた。

「みんな、気をつけて!」
アリアが盾を構え、ゴーレムに向かって走り出す。

「ゴーレムか。魔力で動くものだから……アリア、お前が前衛で正解だな。」
ルイスが冷静に言葉を続け、レイピアを抜いた。

ゴーレムの一撃を受け流しながら、アリアは動きを止めない。盾で相手の攻撃を防ぎつつ、剣でカウンターを狙う動きが次第に洗練されていく。

「なるほど、魔力の影響を受けない盾使いの動きというのはこういうものか……」
ルイスが感心したように呟きながら、ゴーレムの動きを見極める。

「動きが読めてきた!」
アリアが叫びながら、ゴーレムの関節部分に剣を突き刺した。魔力を失ったゴーレムはその場で動きを止め、崩れ落ちた。

「見事だ。」
イアンが淡々と称賛しながら、杖から土魔法を放ち、もう一体のゴーレムの足を封じ込めた。

「これで残り一体!」
ルイスが鋭い突きを放ち、最後のゴーレムを仕留めた。

戦闘が終わり、三人はさらに奥へと進む。遺跡内の空気はさらに冷たく、異様な気配が漂っていた。

「この先に何が待っているか分からないけど、しっかり準備して進もう。」
アリアが剣を拭きながら言うと、ルイスが軽く頷いた。

「当然だ。僕たちが油断すれば、それだけ相手に付け入る隙を与えることになる。」

イアンは杖を握り直しながら静かに言葉を添えた。

「覚悟はできている。進もう。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷の令嬢と岩の令息 〜女として見れないと言われた令嬢と脳筋令息〜

ごどめ
恋愛
マリアージュ男爵家とグランドール公爵家はとっても仲良し。そんな両家には仲睦まじい姉妹と兄弟がいる。マリアージュ家の長女リエラはとある日、突然婚約者であるグランドール家の長男、ルイスに「女として見れない」と言う残酷な言葉と共に婚約破棄されてしまう。 氷の令嬢と名高いリエラはそれでも表情を崩す事なくそれを甘んじて受けるが、実はその婚約破棄にはルイスの勘違いな思いやりがあり……。 ※短めのお話で全10話です。 ※ざまあ要素皆無の、ほのぼのらぶらぶコメディ系です。 ※この作品は小説家になろう様の方にも掲載しております。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】私の嘘に気付かず勝ち誇る、可哀想な令嬢

横居花琉
恋愛
ブリトニーはナディアに張り合ってきた。 このままでは婚約者を作ろうとしても面倒なことになると考えたナディアは一つだけ誤解させるようなことをブリトニーに伝えた。 その結果、ブリトニーは勝ち誇るようにナディアの気になっていた人との婚約が決まったことを伝えた。 その相手はナディアが好きでもない、どうでもいい相手だった。

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話

下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。 主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...