魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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27章 事件の黒幕

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ローデンのギルドの片隅。夜も更け、酒盛りの勢いが落ち着いてきたころ、ギルド員たちの一角で妙に熱のこもった話し合いが行われていた。

「ねえ、どう思う?イアンって、絶対アリアのこと気にしてるよね?」

ギルド員の一人、マリーが声を潜めながら話し始めた。彼女はギルド内の事情に敏感な情報通として知られている。

「それ、もうみんな知ってるだろ?」

年配の冒険者ジョルが鼻を鳴らすように答える。

「いや、知っててもさ、あの二人、全然進展しないじゃん!」

マリーは身を乗り出して、周囲を見回した。

「だよな。イアンなんて、普段は冷静沈着なのに、アリアが絡むと分かりやすく動揺してるし。」

若手冒険者のカイルが笑いながら話に加わる。

「でもさ、イアンってほら、ちょっと謎が多いじゃん?普段は冷静だけど、何か距離感があるっていうか……」

「謎っていうか、たぶん“自分なんて”みたいに思ってるんだろ?」

ジョルが酒を飲み干しながら答える。

「アリアだって、あれだけ一緒に旅してて気がついてないわけないでしょ?」

マリーが頷きながら続けた。

「いやいや、アリアは無自覚だからこそ面白いんだろ?ほら、イアンが優しいから普通に頼りにしてて、“好き”とかそういう感情として自覚してない感じ?」

「でも、好き同士っぽいのに何も進まないって、見てるこっちが歯がゆいんだよなぁ!」

カイルが溜息交じりに言うと、他のメンバーも一斉に頷いた。

そんな議論の中、ついにイアン本人がギルドホールに姿を現した。杖を片手に、読書をしていたのを中断したような静かな歩き方だ。

「あ、イアンだ!」

マリーが勢いよく立ち上がると、他のメンバーも一斉に目を輝かせた。

「ねえ、イアン。ちょっとこっち来てよ!」

マリーが手を振ると、イアンは少し警戒した様子で近づいてきた。

「何か用事でも?」

「まあまあ、座って座って!」

ジョルが椅子を引き出し、イアンを座らせる。

「……何か嫌な予感がするんだが。」

「そんなことないって!ただちょっと、旅の話とか、いろいろ聞きたくてさ。」
マリーが笑顔で切り出す。

「それでさ、イアン。アリアと一緒に旅してて、どうなの?」

「どう、とは?」

イアンが眉をひそめると、マリーがニヤリと笑って続けた。

「ほら、旅してる間に仲良くなったりするじゃん?アリアと一緒だと楽しいとか、嬉しいとか、そういうのあるでしょ?」

イアンは一瞬、表情を硬くしたが、すぐに平静を装って答えた。

「彼女は優れた冒険者だ。彼女がいなければ、今の僕はここにいないだろう。それに……彼女には感謝している。」

「感謝、ねえ~。」

マリーが意味深に引き伸ばす。

「感謝って、それだけ?」

「……それ以上の感情を持つべきだとでも?」

イアンが少し挑むように言うと、ジョルが笑いながら口を挟んだ。

「そりゃあ、普通に考えたらあるだろ?ずっと一緒に旅してるんだからさ。」

イアンは一瞬だけ視線を落とし、静かに答えた。

「……持つべきではない感情もある。」

その言葉に、ギルド員たちは一瞬黙り込んだ。

「なるほどねえ……」

マリーが顎に手を当てて考え込む。

「でも、それってイアンが勝手に決めてることでしょ?アリアはどう思ってるか分からないじゃない?」

「そうだぞ。あいつはいつも楽しそうに君と話してる。だから、君が“持つべきではない”なんて決めつけるのは早いんじゃないか?」

ジョルが穏やかに言うと、イアンは小さく息を吐いた。

「……彼女がどう思っているかに関わらず、僕が背負うものがある。それを理解してほしいだけだ。」

その言葉にマリーが少し困った顔をしつつも言葉を続けた。

「でもね、イアン。私たちギルドのみんなは、君とアリアを応援してるんだよ。勝手に諦めるのは早すぎるんじゃない?」

「応援……」
イアンは少しだけ視線を柔らかくした。

「その気持ちはありがたい。だが、僕は慎重に考えるしかない。」

その答えに、ギルド員たちは少しだけ溜息をつきながらも、微笑を浮かべた。

「ま、これ以上は聞かないよ。でも、あんまり悩みすぎるなよ。応援してるからさ。」

ジョルの言葉に、イアンは小さく頷いた。
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