142 / 182
26章 貴族の思惑と揺れる王都
⑨
しおりを挟む
戦いの中、魔物の群れを次々と切り伏せていくルイス。その動きには無駄がなく、まるで舞うような美しさがあった。しかし、イアンはその剣術の根本に隠された特性を理解しつつあった。
ルイスがレイピアを振り、コウモリ型の魔物を切り裂く。しかし、その一撃は魔物を完全には仕留められず、動きを鈍らせるだけに留まっている。
「ルイス、あの魔物を抑えておいて!私が止めを刺す!」
アリアが声をかけながら盾を構え、素早く動き出す。彼女の片手剣が光るように魔物の急所を貫き、敵が倒れるとルイスは軽く笑った。
「君の剣は実に正確だな。僕の剣術とは違う。」
その言葉に、アリアは首を傾げながら振り返った。
「違う?違う人なんだから、戦い方が違うのは当然じゃない?」
「いや……君は効率を求め、僕は制圧を求める。それがテミスの剣術だ。」
ルイスが微かに笑いながら語るが、その言葉の意味を理解できる者はアリアではなかった。イアンはそのやり取りを聞きながら、脳裏に浮かぶ推測を整理していた。
(テミスの剣術……それは明らかに、王族を守るために発展してきたものだ。王族に危害を加える者を殺すのではなく、戦闘不能にする――つまり対人戦に特化しているのは当然だ。)
イアンはルイスの剣さばきを見つめながら、その冷静な動きを分析していた。人間相手であれば完璧に近い技術。しかし、それが魔物相手では急所を外してしまうのも仕方がない。
(その剣術があまりにも特化しすぎているからこそ、彼は魔物戦を不得手としている。それに……それを本人が気づいていないわけではない。気づいていながら、問題視していないんだろう。)
イアンは軽く息を吐き、目の前の狼型の魔物に杖を向けた。氷の魔法で足を凍らせ、アリアが止めを刺す隙を作る。
「アリア、左側にもう一体!」
「分かった!」
アリアの剣が光を描くように狼を斬り伏せた。その動きは迷いがなく、魔物戦に特化したものだった。
戦いが一段落し、次の部屋へ進む準備をする中、ルイスは何事もなかったかのように口を開いた。
「魔物相手だと、僕の剣術は少し手間がかかる。それでも、君たちがいれば何の問題もないけどね。」
その言葉に、アリアは首をかしげながら答えた。
「でもルイス、あの剣術って魔物向きじゃないよね?なんでそんなやり方をしてるの?」
その率直な質問に、ルイスは少しだけ微笑を浮かべて答えた。
「それがテミス家の剣術だからさ。僕たちの役目は王を守り、脅威を排除すること。そのために、相手を制圧し、無力化する技術を磨いてきた。」
「へぇ……でも、それじゃ魔物相手は厳しいんじゃない?」
「それも含めて僕の役目さ。」
ルイスは淡々と言葉を続けた。
「僕が戦えるのは、人間と魔物の境界に立つ者たちだ。それが僕の剣術の本質だからね。」
その言葉にアリアは小さく唸ったが、イアンはそのやり取りを静かに見守っていた。
(彼は自分の剣術を誇りに思っている。それが対人特化であろうと、魔物戦に向いていなかろうと関係ない……ただ、僕たちと同じ戦い方をするつもりもないだろう。)
次の部屋へ進むと、再び魔物たちが群れをなして現れた。ゴーレムと狼型の魔物が複数待ち構えている。
「またたくさん……よし、みんなで行こう!」
アリアが剣を握りしめると同時に、ルイスが障壁を展開し、前へ進んだ。
「君たちが効率よく動けるよう、僕が場を抑える。」
ルイスの冷静な声が響き渡り、その言葉通り、障壁が魔物の動きを封じる。だが、急所を狙わない彼の剣術では、やはり魔物を一撃で倒すことはできなかった。
その隙を突くように、イアンが魔法を放つ。
「ルイス、時間を稼いでくれて助かる。でも、これ以上の対応は僕たちがやる。」
氷と炎の魔法が次々と放たれ、魔物たちが動きを鈍らせる。アリアはその隙を突いて次々と敵を切り倒した。
「いい連携だね、イアン!」
アリアが笑顔を向けると、イアンは静かに頷いた。
「ルイスの剣術が場を抑える力を持っているからだ。だが、君たちにはそのフォローが必要だ。」
ルイスがレイピアを振り、コウモリ型の魔物を切り裂く。しかし、その一撃は魔物を完全には仕留められず、動きを鈍らせるだけに留まっている。
「ルイス、あの魔物を抑えておいて!私が止めを刺す!」
アリアが声をかけながら盾を構え、素早く動き出す。彼女の片手剣が光るように魔物の急所を貫き、敵が倒れるとルイスは軽く笑った。
「君の剣は実に正確だな。僕の剣術とは違う。」
その言葉に、アリアは首を傾げながら振り返った。
「違う?違う人なんだから、戦い方が違うのは当然じゃない?」
「いや……君は効率を求め、僕は制圧を求める。それがテミスの剣術だ。」
ルイスが微かに笑いながら語るが、その言葉の意味を理解できる者はアリアではなかった。イアンはそのやり取りを聞きながら、脳裏に浮かぶ推測を整理していた。
(テミスの剣術……それは明らかに、王族を守るために発展してきたものだ。王族に危害を加える者を殺すのではなく、戦闘不能にする――つまり対人戦に特化しているのは当然だ。)
イアンはルイスの剣さばきを見つめながら、その冷静な動きを分析していた。人間相手であれば完璧に近い技術。しかし、それが魔物相手では急所を外してしまうのも仕方がない。
(その剣術があまりにも特化しすぎているからこそ、彼は魔物戦を不得手としている。それに……それを本人が気づいていないわけではない。気づいていながら、問題視していないんだろう。)
イアンは軽く息を吐き、目の前の狼型の魔物に杖を向けた。氷の魔法で足を凍らせ、アリアが止めを刺す隙を作る。
「アリア、左側にもう一体!」
「分かった!」
アリアの剣が光を描くように狼を斬り伏せた。その動きは迷いがなく、魔物戦に特化したものだった。
戦いが一段落し、次の部屋へ進む準備をする中、ルイスは何事もなかったかのように口を開いた。
「魔物相手だと、僕の剣術は少し手間がかかる。それでも、君たちがいれば何の問題もないけどね。」
その言葉に、アリアは首をかしげながら答えた。
「でもルイス、あの剣術って魔物向きじゃないよね?なんでそんなやり方をしてるの?」
その率直な質問に、ルイスは少しだけ微笑を浮かべて答えた。
「それがテミス家の剣術だからさ。僕たちの役目は王を守り、脅威を排除すること。そのために、相手を制圧し、無力化する技術を磨いてきた。」
「へぇ……でも、それじゃ魔物相手は厳しいんじゃない?」
「それも含めて僕の役目さ。」
ルイスは淡々と言葉を続けた。
「僕が戦えるのは、人間と魔物の境界に立つ者たちだ。それが僕の剣術の本質だからね。」
その言葉にアリアは小さく唸ったが、イアンはそのやり取りを静かに見守っていた。
(彼は自分の剣術を誇りに思っている。それが対人特化であろうと、魔物戦に向いていなかろうと関係ない……ただ、僕たちと同じ戦い方をするつもりもないだろう。)
次の部屋へ進むと、再び魔物たちが群れをなして現れた。ゴーレムと狼型の魔物が複数待ち構えている。
「またたくさん……よし、みんなで行こう!」
アリアが剣を握りしめると同時に、ルイスが障壁を展開し、前へ進んだ。
「君たちが効率よく動けるよう、僕が場を抑える。」
ルイスの冷静な声が響き渡り、その言葉通り、障壁が魔物の動きを封じる。だが、急所を狙わない彼の剣術では、やはり魔物を一撃で倒すことはできなかった。
その隙を突くように、イアンが魔法を放つ。
「ルイス、時間を稼いでくれて助かる。でも、これ以上の対応は僕たちがやる。」
氷と炎の魔法が次々と放たれ、魔物たちが動きを鈍らせる。アリアはその隙を突いて次々と敵を切り倒した。
「いい連携だね、イアン!」
アリアが笑顔を向けると、イアンは静かに頷いた。
「ルイスの剣術が場を抑える力を持っているからだ。だが、君たちにはそのフォローが必要だ。」
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

氷の令嬢と岩の令息 〜女として見れないと言われた令嬢と脳筋令息〜
ごどめ
恋愛
マリアージュ男爵家とグランドール公爵家はとっても仲良し。そんな両家には仲睦まじい姉妹と兄弟がいる。マリアージュ家の長女リエラはとある日、突然婚約者であるグランドール家の長男、ルイスに「女として見れない」と言う残酷な言葉と共に婚約破棄されてしまう。
氷の令嬢と名高いリエラはそれでも表情を崩す事なくそれを甘んじて受けるが、実はその婚約破棄にはルイスの勘違いな思いやりがあり……。
※短めのお話で全10話です。
※ざまあ要素皆無の、ほのぼのらぶらぶコメディ系です。
※この作品は小説家になろう様の方にも掲載しております。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】私の嘘に気付かず勝ち誇る、可哀想な令嬢
横居花琉
恋愛
ブリトニーはナディアに張り合ってきた。
このままでは婚約者を作ろうとしても面倒なことになると考えたナディアは一つだけ誤解させるようなことをブリトニーに伝えた。
その結果、ブリトニーは勝ち誇るようにナディアの気になっていた人との婚約が決まったことを伝えた。
その相手はナディアが好きでもない、どうでもいい相手だった。

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています
みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。
そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。
それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。
だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。
ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。
アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。
こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。
甘めな話になるのは20話以降です。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話
下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。
主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる