129 / 182
25章 王都周辺
⑤
しおりを挟む
アリアとイアンは村での戦闘を終え、反乱勢力の痕跡を追うべく次の目的地へと向かっていた。空は少し曇り始め、森を抜ける道には静けさが漂っている。二人が緊張を保ちながら歩みを進めていると、不意に道の先に人影が現れた。
「また君に会えるなんて、これは運命だね。」
その声に、アリアはとっさに盾を構えた。イアンも杖を構え、前方の金髪の青年に目を細める。
「ルイス……また来たの?」
「『また』とは冷たい言い方だ。君に会うことを楽しみにしていたのに。」
ルイスは片手にレイピアを携えながら、柔らかな笑みを浮かべていた。その動きには一切の敵意が感じられない。しかし、アリアもイアンもその無防備な様子にかえって警戒心を強めた。
「何を企んでるの?」
アリアが問いかけると、ルイスは首を軽く傾げた。
「企む?僕が?いや、ただ君の強さを確かめたいだけだよ。それに……君と話をするのも悪くないと思ってね。」
「強さを確かめたいって、それ何度も言ってるけど、私たち迷惑してるんだけど。」
アリアが苦々しく返すと、ルイスは一瞬表情を曇らせた。
「迷惑か……それは少し心外だな。君がどれほどの価値を持つ存在か、分かっていないのは君自身だ。」
「僕には君が眩しすぎるんだよ、アリア。」
ルイスはゆっくりと近づきながら続けた。
「君の動きは読めない。君の力には意味がある。僕にはないものばかりだ。」
「ないもの……?」
アリアが戸惑うと、ルイスはふと空を見上げた。彼の目にはどこか遠い記憶を思い出しているような色が宿っている。
「僕は生まれてからずっと強いと言われてきた。でも、何が正しいのか、何が間違っているのかさえ分からなかった。人の気持ちも、喜びも……君が持っているものすべてが僕には遠いものだった。」
その言葉に、アリアは一瞬だけ盾を下げた。
「でも、僕には……セリーナがいた。」
突然の名前にアリアが息を呑む。その隣でイアンは微動だにせず、ルイスの動きを見つめていた。
「セリーナは……僕の妹だ。武闘貴族のテミスに生まれて、誰にも知られることなく消えた存在。病弱で、何もできなくて、きっと誰も彼女を認めなかっただろう。」
ルイスの言葉は淡々としていたが、その瞳の奥には苦しみが滲んでいた。
「でも、彼女は僕に教えてくれたんだ。人がどうやって笑うのか、どうやって泣くのか。僕がどんなにひどいことをしようとしても、彼女が『ダメ』と言えば、僕はそれをやめた。……あの頃の僕にとって、それだけが善悪の基準だった。」
「そんな……。」
アリアは言葉を失い、ただ彼を見つめていた。ルイスは一度だけ深く息を吐き、続けた。
「セリーナがいなくなってから、僕は分からなくなった。何をしても何も感じない。ただ剣を振るい、強い相手を探す。それが生きている実感を与えてくれる……君に会うまではね。」
「私に……?」
「君は読めないんだ、アリア。僕のすべての経験を無効化してしまう。それは僕にとって……奇跡なんだ。」
アリアはルイスの言葉に困惑しながらも、彼が抱える孤独を感じ取っていた。その横でイアンが口を開いた。
「それでも、彼女に執着するのは間違っている。アリアにはアリアの道がある。君の傷を彼女に押し付けるな。」
その言葉に、ルイスは微笑みを浮かべた。
「押し付けているつもりはない。ただ、僕は彼女がどこまで行けるのかを見たいだけだ。それを邪魔する気はないよ。」
「なら、もう私たちの前に現れないで。」
アリアが真っ直ぐな視線で言い放つと、ルイスは肩をすくめた。
「それは無理な相談だな。また会おう、アリア。」
そう言うと、彼は再び森の奥へと消えていった。
「また君に会えるなんて、これは運命だね。」
その声に、アリアはとっさに盾を構えた。イアンも杖を構え、前方の金髪の青年に目を細める。
「ルイス……また来たの?」
「『また』とは冷たい言い方だ。君に会うことを楽しみにしていたのに。」
ルイスは片手にレイピアを携えながら、柔らかな笑みを浮かべていた。その動きには一切の敵意が感じられない。しかし、アリアもイアンもその無防備な様子にかえって警戒心を強めた。
「何を企んでるの?」
アリアが問いかけると、ルイスは首を軽く傾げた。
「企む?僕が?いや、ただ君の強さを確かめたいだけだよ。それに……君と話をするのも悪くないと思ってね。」
「強さを確かめたいって、それ何度も言ってるけど、私たち迷惑してるんだけど。」
アリアが苦々しく返すと、ルイスは一瞬表情を曇らせた。
「迷惑か……それは少し心外だな。君がどれほどの価値を持つ存在か、分かっていないのは君自身だ。」
「僕には君が眩しすぎるんだよ、アリア。」
ルイスはゆっくりと近づきながら続けた。
「君の動きは読めない。君の力には意味がある。僕にはないものばかりだ。」
「ないもの……?」
アリアが戸惑うと、ルイスはふと空を見上げた。彼の目にはどこか遠い記憶を思い出しているような色が宿っている。
「僕は生まれてからずっと強いと言われてきた。でも、何が正しいのか、何が間違っているのかさえ分からなかった。人の気持ちも、喜びも……君が持っているものすべてが僕には遠いものだった。」
その言葉に、アリアは一瞬だけ盾を下げた。
「でも、僕には……セリーナがいた。」
突然の名前にアリアが息を呑む。その隣でイアンは微動だにせず、ルイスの動きを見つめていた。
「セリーナは……僕の妹だ。武闘貴族のテミスに生まれて、誰にも知られることなく消えた存在。病弱で、何もできなくて、きっと誰も彼女を認めなかっただろう。」
ルイスの言葉は淡々としていたが、その瞳の奥には苦しみが滲んでいた。
「でも、彼女は僕に教えてくれたんだ。人がどうやって笑うのか、どうやって泣くのか。僕がどんなにひどいことをしようとしても、彼女が『ダメ』と言えば、僕はそれをやめた。……あの頃の僕にとって、それだけが善悪の基準だった。」
「そんな……。」
アリアは言葉を失い、ただ彼を見つめていた。ルイスは一度だけ深く息を吐き、続けた。
「セリーナがいなくなってから、僕は分からなくなった。何をしても何も感じない。ただ剣を振るい、強い相手を探す。それが生きている実感を与えてくれる……君に会うまではね。」
「私に……?」
「君は読めないんだ、アリア。僕のすべての経験を無効化してしまう。それは僕にとって……奇跡なんだ。」
アリアはルイスの言葉に困惑しながらも、彼が抱える孤独を感じ取っていた。その横でイアンが口を開いた。
「それでも、彼女に執着するのは間違っている。アリアにはアリアの道がある。君の傷を彼女に押し付けるな。」
その言葉に、ルイスは微笑みを浮かべた。
「押し付けているつもりはない。ただ、僕は彼女がどこまで行けるのかを見たいだけだ。それを邪魔する気はないよ。」
「なら、もう私たちの前に現れないで。」
アリアが真っ直ぐな視線で言い放つと、ルイスは肩をすくめた。
「それは無理な相談だな。また会おう、アリア。」
そう言うと、彼は再び森の奥へと消えていった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

氷の令嬢と岩の令息 〜女として見れないと言われた令嬢と脳筋令息〜
ごどめ
恋愛
マリアージュ男爵家とグランドール公爵家はとっても仲良し。そんな両家には仲睦まじい姉妹と兄弟がいる。マリアージュ家の長女リエラはとある日、突然婚約者であるグランドール家の長男、ルイスに「女として見れない」と言う残酷な言葉と共に婚約破棄されてしまう。
氷の令嬢と名高いリエラはそれでも表情を崩す事なくそれを甘んじて受けるが、実はその婚約破棄にはルイスの勘違いな思いやりがあり……。
※短めのお話で全10話です。
※ざまあ要素皆無の、ほのぼのらぶらぶコメディ系です。
※この作品は小説家になろう様の方にも掲載しております。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】私の嘘に気付かず勝ち誇る、可哀想な令嬢
横居花琉
恋愛
ブリトニーはナディアに張り合ってきた。
このままでは婚約者を作ろうとしても面倒なことになると考えたナディアは一つだけ誤解させるようなことをブリトニーに伝えた。
その結果、ブリトニーは勝ち誇るようにナディアの気になっていた人との婚約が決まったことを伝えた。
その相手はナディアが好きでもない、どうでもいい相手だった。

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています
みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。
そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。
それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。
だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。
ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。
アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。
こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。
甘めな話になるのは20話以降です。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話
下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。
主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる