魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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19章 終焉の谷

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黒い影との激戦を終え、アリアとイアンはついに終焉の谷の中心にたどり着いた。そこに待ち受けるのは、魔族の秘密を解き明かす鍵と、二人の心を揺さぶる新たな試練だった。

二人が足を踏み入れた建物の内部は、荒廃しながらもどこか神聖さを感じさせる空間だった。高い天井に刻まれた古代魔族の文字と、中央に鎮座する巨大な魔法陣が目を引く。

「ここが……終焉の谷の核心?」

アリアが剣を構えたまま呟く。剣は淡い光を放ちながら魔法陣の中心を指し示していた。

「剣が導いている。あの魔法陣に何かがあるはずだ。」

イアンが杖を握りしめ、魔法陣に近づこうとしたその時、突然空間全体が震え出した。

天井から黒い霧が降り注ぎ、魔法陣を覆った。それはやがて一つの形を成し、巨大な魔族のような影が二人の前に現れた。

「これが……!」

アリアが剣を構え直すと、その影が深い声で語り始めた。

「選ばれし刃の持ち主よ。そして、魔族の血を引く者よ。ここは真実と力を試す場。お前たちの覚悟を見せよ。」

その言葉が終わると同時に、影が剣を振り上げて二人に襲いかかってきた。

「来るぞ!」

イアンが冷気の魔法を放ち、影の動きを一瞬止める。その隙にアリアが剣を振り上げ、強烈な一撃を叩き込んだ。

「効いてる……でも、まだ倒れない!」

影は動きを止めることなく、再び二人に向かって闇の刃を放った。イアンは防御魔法でそれを防ぎつつ、アリアの動きを支援する。

「アリア、奴の動きにパターンがある!左に回り込め!」

「分かった!」

二人は息を合わせ、影に少しずつダメージを与えていく。その連携はこれまで以上に洗練され、まるで互いの心が通じ合っているかのようだった。

戦いの中で、イアンはふとアリアの姿に目を留めた。彼女が全力で剣を振るい、影に立ち向かう姿。その強さと純粋さが、イアンの心を強く揺さぶった。

(こんなにも眩しい存在を……俺は本当に守れるのか?)

イアンは一瞬だけ迷いを感じたが、すぐにそれを振り払った。

(いや、守る。それが俺の役目だ。それ以上の感情を抱く資格は……俺にはない。)

彼は自分の中に芽生えた想いを必死に抑えながら、戦いに集中した。

アリアの剣が再び青白い光を放ち、その一撃が影を完全に貫いた。影は大きく揺らぎ、やがて光の粒となって消えていく。

「やった……!」

アリアが息を整えながら剣を収めると、魔法陣の中央に古びた台座が現れた。その上には一冊の古い書物と、淡く輝く宝珠が置かれている。

「これが……この谷の秘密?」

「間違いない。この書物には剣と魔族の関係、そしてこの力の真実が記されているはずだ。」

イアンが慎重に書物を手に取り、ページをめくり始めた。

書物には古代魔族の文字でこう記されていた。

「選ばれし刃は、魔族の力を制御するために創られたもの。しかし、その力は人間と魔族の絆を必要とする。」

イアンはページを読み進めるにつれ、その顔が僅かに険しくなった。

「……この剣の力を完全に発揮するには、人間と魔族の間に信頼が築かれていなければならない。そして、その絆が試される。」

「絆……?」

アリアがイアンを見つめる。その時、イアンは少し目を伏せ、低い声で呟いた。

「俺の力が……君の足枷にならないことを願うばかりだ。」

その言葉を聞いたアリアは、一歩イアンに近づいた。そして剣を地面に立て、真剣な表情で彼を見上げる。

「イアン、そんなこと言わないで。君の力は私にとって足枷なんかじゃないよ。むしろ、君がいるから私はここまで来れたんだ。」

「……アリア。」

イアンはその言葉に目を見開いたが、すぐに視線をそらそうとした。しかし、アリアはその手をそっと握りしめた。

「君がいるだけで、私は強くなれる。だから、君がどう思っていても……私は君のそばにいたいの。」

その言葉に、イアンの心が大きく揺れるのを感じた。

(俺は……彼女を受け入れてもいいのか?)

抑えきれない想いと理性の間で揺れるイアンの瞳を、アリアはまっすぐに見つめていた。
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