魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

17章 北の遺跡

④

遺跡の深部で、剣が新たな力を得た。その光が示す先に、アリアとイアンは歩みを進めた。新たな試練が待つことを予感しながらも、二人の決意は揺るぎないものとなっていた。

剣の光が導くままに、二人は遺跡の奥深くへと向かう。道は複雑に入り組み、壁に刻まれた魔族の文字がさらに頻繁に現れるようになった。

「……イアン、この文字、何か意味があるの？」

アリアが剣を光らせながら尋ねると、イアンは立ち止まり、壁に手を当てて文字を読み取った。

「これは『結びの地』を意味する。おそらく、この遺跡の最奥部にあるものが鍵になるだろう。」

「結びの地……なんだか神秘的だね。でも、それって結構重要そうな場所じゃない？」

アリアが少し不安げに言うと、イアンは静かに頷いた。

「そうだ。この遺跡全体が剣の力を完全に覚醒させるために作られた場所だと考えられる。その“結び”が、剣の本質と関係しているのかもしれない。」

二人が進む先に広がったのは、天井の高い広間だった。床には複雑な魔法陣が描かれ、その中心に輝く赤い光が漂っている。

「これは……？」

アリアが警戒しながら剣を構えると、広間全体が一気に暗くなり、冷たい風が吹き抜けた。

「待ち伏せだ。気をつけろ！」

イアンが杖を構えると、暗闇の中から低い笑い声が響いた。

「ようやくここまでたどり着いたか……だが、これ以上は進ませぬ。」

暗闇の中から現れたのは、以前裂け目で戦った黒幕だった。ローブの下から覗く赤い瞳が、不気味に二人を見据える。

「またお前か……！」

アリアが剣を握りしめると、黒幕はゆっくりと歩み寄りながら笑った。

「その剣が、我々魔族にとってどれほどの価値を持つか、貴様らには分かるまい。その力を我がものとするのは時間の問題だ。」

「そんなこと、させない！この剣は私が守る！」

アリアが叫ぶと、黒幕は手を振り上げ、闇の魔法陣を発動させた。広間全体が闇に包まれ、無数の魔物が召喚される。

「ならば、見せてもらおう。その剣の力とやらを。」

広間には闇の魔物たちが次々と現れ、二人を取り囲んだ。イアンが素早く冷気の魔法で周囲を凍らせ、魔物の動きを封じる。

「アリア、剣を信じろ！奴らを一気に倒せる力はその剣にある！」

「分かってる！」

アリアは剣を掲げ、青白い光を放ちながら魔物たちを切り裂いていく。剣の力が光の波動となり、広間全体に広がるたびに魔物が消滅していった。

「なかなかの力だな。しかし、それだけでは我を倒すことはできぬ！」

黒幕がさらに強大な闇の波動を放ち、二人に襲いかかる。その力に押され、イアンは杖を地面に突き刺しながら防御魔法を展開した。

「くそ……この力、あの裂け目の時よりも強い！」

「でも、負けるわけにはいかない……！」

アリアが剣を握りしめ、再び光を集め始めた。

剣がこれまでにないほど強く輝き、アリアの体全体に力が満ちるような感覚を伝えた。その輝きは黒幕の闇を一瞬で消し去り、広間全体を光で包み込んだ。

「この力……剣が……！」

アリアが剣を振りかざすと、その一撃が黒幕を直撃し、彼の体が大きく揺らいだ。

「くっ、この剣……我々のものとなるはずが……！」

黒幕は闇と共に姿を消し、その場から退散した。

黒幕が消え去ると同時に、広間の奥に新たな扉が現れた。剣の光がその扉を照らし、次の行き先を示している。

「イアン、また剣が……次を教えてくれてるみたい。」

「だが、次はさらに危険だろう。この遺跡全体が剣を覚醒させるために作られているのだとすれば、その先には最も困難な試練が待っているはずだ。」

イアンの言葉に、アリアは剣をしっかりと握り直した。

「でも、この剣が私を選んでくれたんだから……絶対に負けない！」

アリアの決意に、イアンは小さく頷き、杖を握り直した。