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16章 天頂の裂け目

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翌朝、ギルドホールは早朝から活気づいていた。アリアとイアンは旅の準備を整え、最後の確認を終えるところだった。

「それで、剣はどこに行けって言ってるの?」

アリアが腰に下げた剣を見つめながら問いかける。

「剣が示すのは北の山脈……『天頂の裂け目』と呼ばれる場所だ。」

イアンが地図を指差しながら答える。

「天頂の裂け目って……聞いたことあるよ。確か、普通の冒険者は近づかない場所だった気がする。」

「理由は簡単だ。あそこには強力な魔物が巣食い、魔力が異常に濃い場所だからだ。だが、剣がそこを示している以上、我々が行くべき場所に間違いない。」

「またとんでもない場所だね……でも、ここまで来たら行くしかないか!」

アリアが気合を入れるように剣の柄を握りしめると、イアンは小さく頷いた。

「道中の危険も増えるだろう。君が無茶をしないなら、私も全力で支える。」

「分かってるよ。イアンの言うこと、ちゃんと聞くからね!」

街を出る前に、ギルドの仲間たちが見送りに集まった。カルスが大きな声で笑いながら手を振る。

「お前ら、無事に帰ってこいよ!特にイアン、また無茶な真似はするなよ!」

「分かっている。君たちの世話にはなりたくないからな。」

イアンが軽く返すと、カルスは吹き出すように笑った。

「おいおい、いつでも助けてやるってのに冷たいな!」

ユーゴが静かに二人に近づき、低い声で言った。

「天頂の裂け目はこれまで誰も攻略できていない場所だ。お前たちなら突破できると信じているが、決して油断するな。」

「はい!絶対に成功させて帰ってきます!」

アリアが元気よく答えると、ユーゴは小さく微笑んだ。

「その言葉を信じる。」


街を出発して北へ向かう二人。道中は険しい山道が続き、次第に冷たい風が二人を吹き付け始めた。

「気温が下がってきたね……こんなところに人が住んでたりするのかな?」

アリアが周囲を見回す。

「天頂の裂け目に近づくほど、魔力の濃度が高まる。おそらく、普通の人間では長く生きられないだろう。」

イアンが杖を握り直しながら答える。

「ってことは、魔族の領域って感じだね……なんだか嫌な予感がする。」

その時、イアンが突然立ち止まり、鋭い視線を前方に向けた。

「気配がする。おそらく追手だ。」

「追手って……黒幕の手下?」

「可能性は高い。準備しろ、アリア。」

アリアは剣を構え、周囲の様子を伺った。すると、茂みの中から複数の影が現れる。それは人間型をした魔物で、赤い瞳が不気味に輝いている。

「やっぱり来たか……!」

アリアが剣を握りしめる。

「数が多い。正面から戦うのは危険だ。」

「でも、ここで引き返すわけにはいかないよ!」

イアンは冷静に杖を掲げ、周囲に冷気を広げた。

「君が正面で引きつける間に、私が背後を崩す。」

「分かった!援護頼むよ!」


魔物たちは牙を剥きながら一斉に襲いかかってきた。アリアは鋭い動きで攻撃をかわし、剣を振るって次々と魔物を斬り倒す。その背後では、イアンが冷気の槍を放ち、次々と魔物を貫いていった。

「アリア、左だ!」

イアンの声に反応し、アリアは剣を左に振り抜き、一体の魔物を仕留める。

「ナイス!さすがだね、イアン!」

「君が無茶をしないから助かるだけだ。」

魔物の群れを半数以上倒したところで、最後の一体が叫び声を上げながら逃げ出した。

「逃げた……!」

「追う必要はない。情報を黒幕に持ち帰るのは防げなかったが、今は先を急ごう。」

イアンが杖を収めながら言うと、アリアは剣を振って血を払い、深く頷いた。

「分かった。絶対に追いつかれないように急ごう!」


その日の夕方、二人はついに天頂の裂け目の前にたどり着いた。そこは巨大な断崖が二つに割れたような地形で、裂け目の向こうからは不気味な黒い霧が立ち上っていた。

「ここが……天頂の裂け目。」

アリアが剣を握りしめながら呟く。

「剣が反応している。間違いなくこの先に目的地がある。」

イアンが静かに言った。

「でも、この霧……入ったら何が起きるか分からないね。」

「分からないからこそ、注意深く進む必要がある。」

二人は互いに視線を交わし、深く頷いた。

「行こう、イアン。」

「君と共に。」

二人は覚悟を胸に、裂け目の奥へと足を踏み入れた。
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