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11章 呪い

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夜、ギルドのホールには静寂が広がり、アリアは一人、テーブルに突っ伏してため息をついていた。

「はぁ……。」

彼女の前にはギルドの書庫から借りてきた本が広げられているが、その文字を睨みつけるばかりで一向に進展がない。

「読めたらもっとイアンとかユーゴの役に立てるのにな……。」

アリアがぼんやりと呟いたそのとき、後ろから静かな足音が聞こえた。

「アリア、まだ起きていたのか?」

イアンの落ち着いた声が響く。

「あ、イアン……うん、ちょっとだけね。これ読もうとしてたんだけど、やっぱり無理だった。」

彼女は照れくさそうに本を閉じ、肩をすくめた。

「君にとって文字を読むことがどれほど難しいか、よく分かっている。だが、それを克服するために少しずつ進めばいい。」

イアンが優しく微笑みながら、何かを後ろに隠していることにアリアは気づいた。

「何持ってんの?」

「これを君に渡そうと思って。」

イアンがテーブルの上にそっと置いたのは、一冊の手作りの本だった。分厚い紙にきれいな絵が描かれており、ところどころに簡単な文字が添えられている。

「これ、何?」

アリアが目を丸くする。

「絵本だ。街で手に入れた紙を使って作った。文字を覚える練習にもなるし、楽しんで読めるようにと思って。」

「イアン……!」

アリアは目を輝かせながら本を手に取った。

「読んでみたいけど、どこから始めたらいいの?」

「最初は無理をせず、私が読み聞かせる形にしよう。それから、君が読みたいページを選んで一緒に練習する。」

イアンが椅子を引き、アリアの隣に座る。彼は本を開き、一番最初のページを指差した。

「『森の中に、小さな光の妖精が住んでいました。』」

「え、何それ。可愛い話じゃん!」

アリアが楽しそうに笑う。

「妖精は、いつも明るい光を放ち、森の動物たちを照らしていました。しかし、ある日、その光が突然消えてしまいます。」

イアンは淡々とした口調で読み進めるが、時折アリアが絵を指差して声を上げる。

「この光の妖精、ちょっとアリアみたいだな。無理して明るく振る舞うところが似ている。」

「ええっ、それどういう意味!?私、無理なんてしてないよ!」

イアンのからかうような言葉にアリアはムッとしたが、すぐに照れくさそうに笑った。

次のページには、消えた光を探す妖精が森の奥へと旅をする様子が描かれていた。

「ほら、この文字を見てみろ。『旅』と書いてある。」

「た、たび……?」

アリアが文字を指差し、ぎこちなく発音する。

「そうだ。それで合っている。少しずつ覚えていけばいい。」

イアンの優しい声に促され、アリアは本の文字を一つひとつ指でなぞりながら、音を覚えていった。

「こういうの、冒険みたいで楽しいね!」

彼女の無邪気な笑顔に、イアンも柔らかな笑みを浮かべる。

「そう思ってくれるなら、作った甲斐があった。」

読み聞かせが終わり、アリアは本を大事そうに抱えたまま呟いた。

「ありがとう、イアン。これからもっと頑張って、文字を覚えるよ。」

「その気持ちがあれば十分だ。君ならきっとできる。」

「でも……ちょっとイアンの声も好きだから、また読み聞かせしてほしいな。」

アリアがいたずらっぽく笑うと、イアンは少しだけ頬を赤く染めた。

「それは……必要であれば、またやろう。」

「必要って言わなくてもお願いするけどね!」

二人は笑い合いながら夜の静けさの中に溶け込んでいった。
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