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10章 旧王都

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旧王都での試練を終えたアリアとイアンは、街でしばらく休息を取ることになった。鍛冶師の工房で「選ばれし刃」の力を解放したアリアには、身体的な疲労だけでなく、精神的な負担も徐々に表れ始めていた。ギルドの仲間たちは、そんな二人を気遣いながら、それぞれの方法でサポートしてくれる。

アリアはギルドの裏庭で木製の剣を握り、軽い素振りを繰り返していた。

「ふっ……はっ……。」

いつものように集中して動作を繰り返していると、突然ギルドの若い冒険者のエマが声をかけてきた。

「アリア、もうちょっと休んだ方がいいんじゃない?この間の冒険、かなりきつかったんでしょ?」

アリアは動きを止めて振り返り、照れたように笑った。

「そうなんだけどさ、体を動かさないと逆に調子が狂うんだよね。」

「でも、最近ちょっと顔色悪いよ。無理してない?」

エマの真剣な声に、アリアは一瞬だけ目を伏せた。

「うん……確かにちょっと疲れてるかも。でも大丈夫、これぐらい慣れてるし!」

アリアが笑顔を見せると、エマは困ったように肩をすくめた。

「本当に無理しないでね。イアンだってきっと心配してると思うよ。」

その言葉に、アリアは少しだけ顔を赤らめた。

「そっか、イアンも疲れてるかもだし、ちょっと気にしてみるよ!」

その頃、イアンはギルドの書庫で塔から持ち帰った本を調べていた。街の防御結界を司るユーゴも同席しており、二人で黙々と古い記述を解読している。

「どうだ、進展はあったか?」

ユーゴがイアンに尋ねる。

「『選ばれし刃』の第二段階についての記述は断片的です。しかし、共通しているのは、剣を使用する者の命が代償となるという点です。」

イアンが淡々と答える。

「それは分かっている。だが、彼女がその代償をどこまで理解しているかが問題だ。」

「……アリアは覚悟を持って剣を手にしている。彼女なりに、リスクは承知しているはずです。」

イアンの言葉には自信があったが、その目には僅かな迷いも浮かんでいた。

「君がそう言うなら信じよう。しかし、君自身も自分の体を過信しないことだ。呪いの兆候が徐々に現れていることを、私が気づいていないとでも思うのか?」

ユーゴの言葉に、イアンは少しだけ表情を曇らせた。

「……制御は可能です。彼女には影響を及ぼしません。」

「いいだろう。その自信がいつまでも続くことを祈る。」

二人は再び静かに作業を再開した。

その日の夕方、アリアがギルドホールに戻ると、グレッグたちが宴の準備を始めていた。大きな鍋から漂うスープの香りや、焼きたてのパンの匂いがホールを満たしている。

「おっ、アリア帰ったか!今日はお前らのためにみんなで宴を用意してるんだよ!」

グレッグが鍋をかき混ぜながら笑った。

「ありがとう!すごい豪華じゃん!」

アリアが目を輝かせて答えると、グレッグはニヤリと笑った。

「ついでに、イアンを酔わせて少し本音を聞き出してみようって魂胆さ。あいつ、普段は真面目すぎるからな。」

「え、イアンを酔わせるって……大丈夫なの?」

アリアが少し心配そうに尋ねたが、グレッグは肩をすくめた。

「まあ、酒の力ってのは便利なもんだ。ほら、あいつ来たぞ。」

イアンが少し遅れてホールに現れると、グレッグたちは早速彼を宴に引き込んだ。

「イアン、お前も今日はしっかり飲めよ!アリアと一緒に戦った苦労話でも聞かせてくれ!」

グレッグが酒瓶を持って近づく。

「私はあまり酒に強くありませんが……。」

イアンが控えめに答える。

「まあまあ、いいから飲んでみろって!」

グレッグに押されて、イアンは仕方なくグラスを受け取った。

宴が進むにつれ、イアンの頬は赤く染まり、普段よりも少しだけ饒舌になっていた。

「イアン、アリアの無茶に付き合うのってやっぱり大変か?」

グレッグが問いかける。

イアンは少し考えたあと、静かに答えた。

「確かに、彼女の行動は時に無茶だと思うこともあります。しかし、それ以上に……彼女の純粋な意志には心を動かされることが多いです。」

その言葉に、周囲の冒険者たちが顔を見合わせた。

「だから、ストレスというより……彼女と共にいることに意味を感じています。」

イアンの言葉に、グレッグが意外そうに目を丸くする。

「なんだ、案外うまくやってんだな。心配して損したぜ!」

グレッグが笑うと、他の冒険者たちも安心したように笑みを浮かべた。

「イアン、無理してないならいいんだけどな。何かあったらいつでも言えよ!」

グレッグが酒を煽ると、イアンは軽く頷いた。

その様子を隣で見ていたアリアは、どこかくすぐったそうな顔で笑った。

「イアンがそんなに私のこと考えてくれてるなんて、ちょっと意外だったな。ありがとね!」

「……事実を言っただけです。」

イアンが短く答えると、アリアは照れたように笑った。

宴はそのまま夜更けまで続き、二人は仲間たちの笑顔に包まれながら、久しぶりに穏やかな時間を過ごした。
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