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7章 選ばれし刃
閑話 結界の外から見た温もり
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街の入り口に近づいたとき、イアンは一瞬だけ足を止めた。いつものように、街を包み込む見えない結界が彼の体を撫でる。柔らかな感触に見えるその結界は、膨大な魔力が精密に編み込まれたものだと、彼にはわかる。
「やっぱりすごいね、この結界。街を守る盾って感じがする!」
アリアが無邪気にそう言って笑う。
彼女にとってこの結界は当たり前の存在だろう。だが、イアンにとってはそうではなかった。魔力を持つ者として、その複雑さと緻密さを肌で感じ取るたびに、結界の創造主であるユーゴの力を痛感させられる。
(この結界……ただ防御するだけではない。必要であれば、侵入者を即座に排除する力も持っている。)
そのことに気付いたとき、イアンの胸には微かな緊張感が生まれた。結界の力を感じ取れる者は多くない。それだけで、ユーゴの力量がいかに規格外であるかがわかる。
ギルドへ向かう道中、アリアが隣で楽しそうに話している。
「ユーゴってさ、なんだかんだ言って私のことすごく気にかけてくれてるんだよね!小さい頃からずっとお世話になってるし、なんか親みたいな感じ?」
「……彼が君を守っているのは、彼自身の償いの意味もあるのではないか。」
イアンは淡々と答えた。
「そうかもね。でも、それだけじゃない気がするんだよなぁ。ユーゴって優しいんだよ、ホントは。」
アリアが微笑む。
イアンはそれ以上何も言わず、彼女の後ろを静かに歩く。ギルドの扉が近づくにつれ、結界の感触は薄れていくが、それでもユーゴの「気配」はどこかに感じられた。
ギルドに入ると、ユーゴは奥の机に座り、書類をめくっていた。彼は二人が近づいてきたことに気付くと、鋭い視線を向ける。その目が、イアンを一瞬だけ捉えた。
「……遅かったな。結界の外で立ち止まっていたのか?」
ユーゴが冷静な声で尋ねる。
「少しばかり、君の結界の精度に感嘆していただけだ。」
イアンは努めて平静を装って答えた。
「それだけならいいが……不要な干渉は控えてもらいたいな。」
ユーゴの言葉には、脅威を感じさせる力が籠っていた。
アリアはそんな空気を感じることもなく、楽しそうに話しかける。
「ねえユーゴ、今日の晩ごはんって何がいいと思う?なんか最近、イアンも私のご飯気に入ってくれてるみたいだし!」
「君の適当な料理が気に入ったとは……意外だな。」
ユーゴが薄く微笑む。
「もう、適当じゃないよ!ちゃんと練習してるんだから!」
イアンは二人のやり取りを一歩後ろから見ていた。アリアがこんなにもユーゴに可愛がられていることが明白だった。まるで本当の親子のような温かい空気がそこには流れている。
(こんなにも大事にされている彼女に近付く、危険分子の自分を、どうして排除しないのだろう。)
ユーゴには、その力がある。結界を張るほどの魔力の持ち主ならば、自分をここから追い出すことなど容易いはずだ。それをしないのは、ただアリアが望んでいるからなのだろうか。
(もし私が彼女と一緒にいられなくなったら……?)
その考えが頭をよぎった瞬間、イアンの心に鋭い痛みが走った。自分がここにいる理由は、アリアが許してくれているから。だが、それはどれほど脆い基盤の上に成り立っているのか。
「イアン、大丈夫?」
アリアが振り返り、彼を見つめる。
「……何でもありません。」
イアンは視線を逸らし、短く答える。
だがその胸の奥には、自分がもしアリアから遠ざけられたときの未来が、冷たく広がっていた。
その日の夜、イアンは結界の外をぼんやりと見つめていた。どこにも行けない、けれどここに留まることも永遠ではないかもしれない――そんな不安が、心の片隅に静かに居座り続けていた。
「やっぱりすごいね、この結界。街を守る盾って感じがする!」
アリアが無邪気にそう言って笑う。
彼女にとってこの結界は当たり前の存在だろう。だが、イアンにとってはそうではなかった。魔力を持つ者として、その複雑さと緻密さを肌で感じ取るたびに、結界の創造主であるユーゴの力を痛感させられる。
(この結界……ただ防御するだけではない。必要であれば、侵入者を即座に排除する力も持っている。)
そのことに気付いたとき、イアンの胸には微かな緊張感が生まれた。結界の力を感じ取れる者は多くない。それだけで、ユーゴの力量がいかに規格外であるかがわかる。
ギルドへ向かう道中、アリアが隣で楽しそうに話している。
「ユーゴってさ、なんだかんだ言って私のことすごく気にかけてくれてるんだよね!小さい頃からずっとお世話になってるし、なんか親みたいな感じ?」
「……彼が君を守っているのは、彼自身の償いの意味もあるのではないか。」
イアンは淡々と答えた。
「そうかもね。でも、それだけじゃない気がするんだよなぁ。ユーゴって優しいんだよ、ホントは。」
アリアが微笑む。
イアンはそれ以上何も言わず、彼女の後ろを静かに歩く。ギルドの扉が近づくにつれ、結界の感触は薄れていくが、それでもユーゴの「気配」はどこかに感じられた。
ギルドに入ると、ユーゴは奥の机に座り、書類をめくっていた。彼は二人が近づいてきたことに気付くと、鋭い視線を向ける。その目が、イアンを一瞬だけ捉えた。
「……遅かったな。結界の外で立ち止まっていたのか?」
ユーゴが冷静な声で尋ねる。
「少しばかり、君の結界の精度に感嘆していただけだ。」
イアンは努めて平静を装って答えた。
「それだけならいいが……不要な干渉は控えてもらいたいな。」
ユーゴの言葉には、脅威を感じさせる力が籠っていた。
アリアはそんな空気を感じることもなく、楽しそうに話しかける。
「ねえユーゴ、今日の晩ごはんって何がいいと思う?なんか最近、イアンも私のご飯気に入ってくれてるみたいだし!」
「君の適当な料理が気に入ったとは……意外だな。」
ユーゴが薄く微笑む。
「もう、適当じゃないよ!ちゃんと練習してるんだから!」
イアンは二人のやり取りを一歩後ろから見ていた。アリアがこんなにもユーゴに可愛がられていることが明白だった。まるで本当の親子のような温かい空気がそこには流れている。
(こんなにも大事にされている彼女に近付く、危険分子の自分を、どうして排除しないのだろう。)
ユーゴには、その力がある。結界を張るほどの魔力の持ち主ならば、自分をここから追い出すことなど容易いはずだ。それをしないのは、ただアリアが望んでいるからなのだろうか。
(もし私が彼女と一緒にいられなくなったら……?)
その考えが頭をよぎった瞬間、イアンの心に鋭い痛みが走った。自分がここにいる理由は、アリアが許してくれているから。だが、それはどれほど脆い基盤の上に成り立っているのか。
「イアン、大丈夫?」
アリアが振り返り、彼を見つめる。
「……何でもありません。」
イアンは視線を逸らし、短く答える。
だがその胸の奥には、自分がもしアリアから遠ざけられたときの未来が、冷たく広がっていた。
その日の夜、イアンは結界の外をぼんやりと見つめていた。どこにも行けない、けれどここに留まることも永遠ではないかもしれない――そんな不安が、心の片隅に静かに居座り続けていた。
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