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3章 ギルドの日常

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「ほら、ここが武器屋だよ!」

アリアは商店街の一角にある小さな店の扉を押し開けた。中に入ると、壁一面にずらりと並んだ剣や槍、弓が目を引く。カウンターの奥には初老の男性が椅子に腰掛け、手際よく剣の刃を研いでいる。

「アリア、また来たのか?」

店主が笑顔を向ける。

「うん!ちょっとイアンにこの店を見せたくてさ。」

アリアがイアンを振り返る。

「どう?すごいでしょ?ここの武器はどれも一級品なんだよ!」

イアンは店内を静かに見渡しながら頷いた。

「確かに、これほど揃っている武器屋は珍しいですね。」

彼の視線は並べられた武器を一つ一つ吟味していく。その中には、剣や槍だけでなく、杖や魔法具も混じっていた。

「でさ、これが私の剣!」

アリアが背中から大剣を下ろして見せる。その刃は使い込まれているが、手入れが行き届いており、光を反射して輝いている。

「ほう、それはうちのオーダー品だな。」

店主が顔を上げて笑った。

「そう!私が魔力ゼロでも扱える武器って言ったら、このおじさんが特別に作ってくれたんだよね!」

「魔力…ゼロ?」

イアンの眉が僅かに動く。

「そ。普通の剣なんだけど、頑丈で軽くて扱いやすいの。魔道具が使えない私にはピッタリじゃん?」

アリアが笑いながら剣を掲げると、イアンはじっとそれを見つめた。

「待ってください。君は、魔道具が使えない…?」

「そうだよ。だって魔力がゼロだから、魔道具なんてただの飾りだし。」

アリアは悪びれもせず答えた。

「普通は、何かしらの魔力を込めた武器を使うものです。剣に炎を纏わせたり、氷の刃を生成したり…。しかし、それが全く使えないとは…。」

イアンの目に、理解と驚きが交錯する。

「それにしては…君は、ずいぶん平然としているのですね。」

「だって、それが私だもん。魔法は使えないけど、剣一本で何とかなるし!それに――」

アリアは剣を軽く振りながら、得意げに言った。

「こんなにいい剣があれば十分じゃん!」


その言葉を聞いて、イアンは考え込むように視線を落とした。

魔力ゼロ――。それは、どの生命体にも必ず備わっている「魔力の流れ」が一切存在しない状態を意味する。普通、魔力は体の一部に宿り、呪いや魔法が作用する際の媒介となる。

しかし、もし媒介となる魔力が全く存在しないとしたら?

「……なるほど。」

イアンが小さく呟いた。

「え、何?」

アリアが振り返る。

「君が私に触れても、呪いが発動しなかった理由が分かった気がします。」

「呪い?」

「……いえ、気にしないでください。」

イアンはそう言いながら、自分の杖を手に取った。その動きにはどこか慎重さが滲んでいた。

「それ、イアンの杖?」

アリアが杖に目を留めると、イアンはゆっくりと頷いた。杖は漆黒の木材で作られており、細部には緻密な装飾が施されている。その佇まいはどこか威厳を感じさせる。

「これは…私の父の形見です。」

「父親の?」

「はい。彼は優れた魔法使いでした。この杖は彼が戦場で長年使い続けたものです。」

イアンの声は静かだったが、その言葉には深い感情が込められていた。

「……父は既に亡くなりましたが、この杖だけが私に残されたものです。」

「そっか…。大事な杖なんだね。」

アリアの言葉に、イアンは微かに微笑んだ。

「ええ。これを手放すつもりはありません。」

武器屋を出た二人は、街の広場に続く道を歩いていた。

アリアは軽快に剣を背負い直しながら振り返った。

「で、呪いってさっきの何?」

イアンは一瞬だけ躊躇したが、静かに言葉を選んだ。

「私の力には…触れた者を凍らせる呪いが宿っています。普通は誰も、それに触れることはできません。」

「え、でも私には効かなかったじゃん?」

「……君が魔力ゼロであることが原因でしょう。君の体には、呪いが作用するための媒介が存在しない。それだけのことです。」

イアンの冷静な説明に、アリアは目を瞬かせたあと、あっさりと言った。

「へえ、そういうことね!まあ、何にせよ大丈夫だったってことでしょ?」

「……そうですね。」

イアンは少しだけ肩の力を抜いた。彼女の無邪気な言葉が、彼の胸に微かな安堵をもたらしていた。
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