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村の防衛戦が終わり、辺境の夜に静寂が戻った。だが、どこか胸騒ぎを覚えたカトリナは村の広場で一人、ロザリオを握りしめて祈りを捧げていた。

「カトリナさん、まだ起きてたんですか?」

リリアナが焚き火の側から歩み寄る。彼女の手には、簡素な木製のマグカップが握られていた。

「少し気になることがあって」

カトリナは目を閉じたまま答えた。祈りの声が一瞬だけ途切れる。

「今日の魔物たち、何か妙だと思いませんか?」

「妙……ですか?」

リリアナは隣に座り、じっと彼女の横顔を見つめた。「確かに、数が多かったのは驚きましたけど……」

「それだけではありません」

カトリナはゆっくりと目を開けた。焚き火の光がロザリオの金属部分に反射し、神秘的な輝きを放つ。

「魔物たちの動きには統率が感じられました。まるで、何者かに操られているかのような……」

その言葉に、リリアナの表情が強張った。辺境では、魔物は個々で行動するのが普通だ。もしそれが組織的に動いているのだとしたら、それはかつての魔王軍を思わせるものだった。

「でも、それって……まさか、魔王の残党とかですか?」

「まだわかりません」

カトリナは穏やかに首を振った。「ですが、この地に何か異変が起きているのは間違いありません」

その時、村の奥から小さな悲鳴が聞こえた。リリアナが反射的に立ち上がる。

「今の声、子どもですよね!」

「行きましょう」

カトリナはすぐさま立ち上がり、聖なるハンマーを手に村の奥へと駆け出した。



カトリナとリリアナが駆けつけると、小さな子どもが地面に倒れ込んでいた。その目はうつろで、周囲にはかすかに黒い煙のようなものが漂っている。

「これは……呪いの瘴気!」

カトリナはすぐに状況を把握した。辺境の地では稀に、魔族や邪悪な存在が呪いの力を残していくことがある。それが弱い人間に取り憑けば、命を蝕んでしまう。

「リリアナ、準備なさい」

カトリナはロザリオを取り出し、両手で祈りを捧げ始めた。

「浄化の光よ、ここに安らぎを与えたまえ」

その声と共に、ロザリオが輝きを増し、温かな光がカトリナの手から広がった。光が子どもを包み込むと、黒い煙が渦を巻くように消え始める。

「美しい……」

リリアナが呟いたその時、カトリナが振り返った。

「リリアナ、あなたの力を試す時です」

「えっ、私が?」

リリアナは慌ててメイスを持ち直した。「でも、私、まだ回復魔法を使えたことが……!」

「初めてでも構いません。あなたの心を込めて祈るのです」

カトリナは優しく微笑み、リリアナの肩に手を置いた。「信じなさい、自分を。そして、この子を救いたいという気持ちを」

リリアナは深呼吸し、そっと子どもに手をかざした。そして震える声で祈りの言葉を口にした。

「光よ……癒しの力を……」

だが、何も起きない。リリアナは額に汗を浮かべながら目を閉じ続ける。

「大丈夫です」

カトリナが静かに声をかける。「心を開きなさい。その力は、必ず目覚めます」

リリアナの手がかすかに震える中、突然、彼女の掌から微かな光が漏れた。それは次第に強まり、子どもを包み込むように広がっていく。

「私、できてる……?」

リリアナが呆然と呟く中、子どもがかすかに動き、目を開けた。その表情には、先ほどまでの苦痛が消えていた。

「……すごい!本当に、私が……!」

リリアナは涙を浮かべながら笑みを浮かべた。カトリナは静かに頷き、満足げに彼女を見つめる。

「これが、あなたの力です。信じる心が、道を開くのです」
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