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「――彰、朝からどうかしたの?」

 一人机に突っ伏していると、頭の上から誰かに声をかけられた。
 その声は耳障りのいい優しい声で、そしてとても懐かしく感じてしまう。
 俺は顔を上げ、声の主の顔を見る。

 するとそこに立っていたのは、まるで少女漫画にでも出てきそうな顔立ちが整った美少年――赤城あかぎなぎさだった。

「渚……」

 久しぶりだな、思わずそう言ってしまいそうになる。
 渚は中学が一緒で親友とも言える仲だったのだが、高校を出てからは連絡を取り合う事をしなかった。
 俺が周りを拒絶していたのが主な理由になるけど、こうして高校時代の渚と会うと凄く懐かしさが込み上げてくる。

 まぁ、安心院さんの時のように泣いたりはしないが。

「本当に大丈夫なの? なんだか凄くらしくないように見えるんだけど……」

 どうやら俺は話してもいない渚にすら別人と疑われているらしい。
 もうその辺は割り切ったからいいが、あまり心配をかけるのはよくないよな。

「大丈夫、それよりもどうしたんだ?」

 俺は心配をかけないよう取り繕って笑みを浮かべる。
 本当は積もる話もあるのだが、この時代の渚に言ってしまうと『何言ってるんだ、こいつは?』となるためグッと我慢した。
 見れば周りにいる数人の女子生徒たちが興味深げに俺たちを見つめている。

 ……そういえば、渚の顔立ちのせいで高校時代は女子から変な疑いをかけられてる事があったな。
 渚とはよく二人だけで行動をしていたのだが、そんな俺たちを見て女子が『付き合ってるんじゃないか』と疑い始めたのだ。
 いったいどう見たらそう見えるんだ、と当時は文句を言っていたのを覚えている。

「えっと、もうお昼だよ。食堂行かないの?」

 なるほど、それで渚は声を掛けてきたのか。
 ちょっと思い詰めていたためお腹が空いている事に気が付かなかった。
 教室内も半分くらいの生徒は姿を消している。
 残っているのは弁当を持参している生徒たちだ。

 ふと、仲良く机をくっつけて弁当を食べようとしている安心院さんと白雪さんが目に入った。
 本当にいつも一緒で仲がいい二人だ。
 あそこだけ別世界のように華がある。

「相変わらず、彰は安心院さんが好きだよね」
「まぁ……うん、そうかもな」

「……やっぱ今日の彰は変だよ」
「えっ?」
「普段なら慌てふためいているのに、なんでそんな落ち着いて肯定してるの?」

 渚の奴、今俺の事を試したんだな……。
 相変わらず顔に似合わずしたたかな奴だ。
 優男というか、若干女の子に間違われる顔立ちをしている渚だが、こう見えて実は結構肝が据わっていたり、悪い事には容赦がない部分を持つ。
 特に怒った時は結構怖い。
 とはいえ、やはり根はとても優しくていい奴だ。

「成長したんだよ」
「にしては唐突すぎるけど……まぁ、いいや。それよりもご飯に行こうよ」

 まだ納得はいっていないようだったが、渚は俺に背を向けて歩きだす。
 このまま食堂に向かうのだろう。

 俺は視線を懐かしい背中からもう一度だけ安心院さんに向けてみる。
 すると、また白雪さんと目が合ってしまった。
 どうしてこちらを見ていたのかはわからないが、なんだかかなり冷たい目をしている。

 ……うん、見なかった事にしよう。

 凄い目で睨んでくる白雪さんに対して笑顔で誤魔化しながら、俺は渚の小さな背中を追うのだった。
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