俺は彼女に逆らえない

柊 さくら

文字の大きさ
上 下
1 / 4
俺が目にしたもの

初めて彼女を見た瞬間

しおりを挟む
俺は今、寝ている。
いや、正確に言えば寝ていた、だ。

「ねぇ、聞いてる?」

「うるさいなぁ」

そうして僕はベッドから出る。
そういや、この女、輝夜と出会ったのはいつだっけか。ふと、昔のことを思い出してみる

それは、忘れもしない8月の暑い暑い日のこと。俺は10歳で彼女の年齢その時は分からなかったが俺は彼女を見た瞬間、逃げ出したのはよく覚えている

「はっはっはっはっ…!」

全力疾走。
だが、そのせいで枝を折る音、葉を踏む音。それによって彼女、狐の耳と尻尾を生やした、おそらく、お狐様であろう人?に見つかってしまった

相手は自分よりも数倍も速いスピードでおそらく、全力で追いかけてくる。でも、俺は俺で捕まったら殺される、そんな思いがあるからこそ逃げ回っている

しかし、限界がきてしまったのだ
どれだけ死の危機に直面しようと所詮は10歳。足は遅く、体力もない

ーそうして俺は捕まったー

「なんで逃げるのよ…」

「い、いやだ…!こ、殺さないで…!」

死を覚悟した。なぜなら俺の住む村ではこんな言い伝えがあるからだ

『午後8時より外出するとお狐様に殺されて、明雲時大社みょううんじたいしゃにお供えされる』

現在時刻は8時5分と言ったところだろうか
俺はもうダメだ。やっぱりこんな時間まで遊ぶんじゃなかった…!
そう後悔をしていると彼女は

「殺す?何を言ってるの?」

「…え?」

思考が追いつかない

殺さないってことにも驚いたが口調にも驚いた。もっと偉い人?みたいな
「殺す?妾がそんなことするわけがないだろう」みたいなの想像してたんだけど

それに、よく見ると、可愛らしい俺と同世代くらいの女の子のような…
でも、やっぱり狐の耳と尻尾はついてる!?ど、どいうこと…?

「ねぇ君…」

腰まで伸びる茶色の髪。
その髪は風になびかれ美しさを増し
そうして彼女はそっと言葉を放った。
俺に手を差し出して

「私と、け、けけけ、結婚!して、く、くだ、さ…い…」

しどろもどろだったし、顔は真っ赤だしでうまく言うことはできなかったかもしれない、でも、そんな彼女に俺はその瞬間から惚れてしまった

「は…はい…」

無意識とは言え、そう言葉を零してしまった。その答えが間違いだと思ったのはこの数秒後。

「輝夜~。」

「やば、お母さんの声!隠れて」

小声で指示される。
にしても可愛すぎませんかね?

すーはー、すーはーと深呼吸を輝夜と呼ばれた少女はしている。そうして俺の手を取り両手を恋人繋ぎのように指が交じり合うように繋いで俺は、今日初めて会った、お互いの名前も明確ではない人?と

ーこの日、俺たちはキスをしたー

「!?な、なにするんだ…!」

あくまでも小声で告げる

「結婚の儀式。ちょっと待ってね」

そう言った直後、ほんの一瞬だけ目の前が真っ白になり先程まであった狐の耳と尻尾はなくなっていた。
だが、その光のせいで母と思われる人に見つかってしまった

「見ーつーけーたー!!!」

鬼の形相とはまさにこの事を言うんだろう。彼女の母と思われる女性は顔を真っ赤にし俺に一礼したのちに耳を引っ張って連れ去ってしまった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大好きだけどお別れしましょう〈完結〉

ヘルベ
恋愛
釣った魚に餌をやらない人が居るけど、あたしの恋人はまさにそれ。 いや、相手からしてみたら釣り糸を垂らしてもいないのに食らいついて来た魚なのだから、対して思い入れもないのも当たり前なのか。 騎士カイルのファンの一人でしかなかったあたしが、ライバルを蹴散らし晴れて恋人になれたものの、会話は盛り上がらず、記念日を祝ってくれる気配もない。デートもあたしから誘わないとできない。しかも三回に一回は断られる始末。 全部が全部こっち主導の一方通行の関係。 恋人の甘い雰囲気どころか友達以下のような関係に疲れたあたしは、思わず「別れましょう」と口に出してしまい……。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

処理中です...