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ぼっちと幼女
幼女?×2がこちらを見ている!
しおりを挟む俺の名前は……忘れた。
シュウとでも名乗っておこう。
最後に自分の名前を意識したのがこの異世界に来た……1万と8000年前か。
異世界に来た時の事に関しては、忘れたくとも忘れられない、とても衝撃的だったためか鮮明に覚えている。
俺の目の前には2人の子供。
この世界で一番危険で一番魔力濃度が高く、人族は立ち入ることすらできない場所。
くりっとした純真な眼で俺の事を見ている。
さて、何故俺がこのような状況にいるのかを再度思い出してみよう。
◆
「やべぇ、こりゃ遅刻確定だな」
高校3年の夏、受験というめんどくさい出来事と戦うために学校に向かっていた。
刺し殺さんと降りしきる太陽の光が自転車を漕いでいるシュウの肌を焼いていた。
「このペースで行くとホームルームが始まる寸前で教室に入れる感じかな」
自転車で通学を始めてもう3年。
自分のいる場所から何分で学校に着くかは何となくわかるようになっていた。
全力でママチャリを立ち漕ぎしていると学校が見えてきた。
ギア付きの自転車を買ってくれなかった両親を憎らしく思い、疲労感で動かしにくくなっている足を無理やり動かして校舎の中へと走っていった。
「あのハゲ、職員室でエロ本でも読んでてクラスに来るの遅れてねぇかな」
担任に対し根も葉もないことを呟きながら歩いて教室に向かう。
走ればホームルームにはギリギリ間に合うくらいの時間なのだが、時間ギリギリで走って教室に向かうのだけは嫌だと思っているため自分がどんな状況であろうと教室には歩いて向かうのであった。
そうこうしているうちにホームルーム開始の鐘が鳴る。
教室は3階。最上階だ。
「なんで3年が3階なんだよ。老体をもう少し労《いた》われとアレほど……」
そんなことは1度も言っていない。
自身の教室が見えた。もうすぐゴールだ。
遅刻は確定しているがその歩みに変わりはない。
ウサギと亀の亀と同じように1歩1歩を踏みしめるように歩く。
教室の前にたどり着き、扉を開けて元気に「おはようごz」
そこでシュウの意識は途切れた。
「はっ!? ここは!?」
目が覚めると上も下もわからない白い空間にシュウはいた。
「あ、気が付いた? 初めまして」
「初めまして」
誰だコイツと頭の中で葛藤を繰り広げていると向こうから自己紹介をしてきた。
「僕は君たちの世界で言う神様という存在だよ。そして君は死んだ」
「俺が死んだ…。何で? 教室のドア開けただけじゃん」
「君のクラスが勇者召喚の対象になってね、ホームルーム開始の時間に魔法陣が起動するはずだったんだけども、ちょいと違う世界の神からの干渉があって遅れちゃったんだ。それで君は左半身だけ召喚に巻き込まれたの」
ぽかんとした顔をするシュウ。
神と名乗るモノは続けて言う。
「世界の様子を見ていて君の死に様がかわいそうに見えたからここに呼んだんだ。何か聞きたいことある?」
「普通左半身だけ召喚とかの範囲に入っていれば全身召喚されないの?」
「そんなわけないじゃん、君の左半身は今頃クラスの皆と異世界だよ、おめでとう」
二人の間に冷たい空気が流れる。
シュウが小さく怒りを含んだ声で神に向かって言う。
「ふざけんなよ!何でそんな理不尽な死に方しなきゃならないんだ!」
「いや、僕に怒らないでよ。別に僕からすれば君の生死なんてどうでもいいんだからさ」
「は?」
「僕が人間を創ったわけでもないし、そもそも僕は世界を管理する神様だから生物を作ったりするのは創造神様の役割だから僕に物事を言うのは間違ってると思うんだ。八つ当たりする気ならば僕は君の魂をこのまま輪廻に還すだけだけど?」
「あっ、ごめんなさい」
「僕が君をここに呼ぶためにどれだけ時間をかけたか分かる? 魂を管理している神のところに行って君の魂を輪廻から外してもらって肉体を構成して、それをしながら通常業務をして、そしたらもっと上の承認が必要で承認をもらいに行って…「俺が悪かった。本当に申し訳ございません」分かればいいよ」
神と名乗るモノが自身の不満をぶちまけた後、ふぅ…と一息ついてからシュウを見据えた。
「まあ、僕にこんなめんどくさい事をさせたんだ。君には僕のために働いてもらうよ」
「…といいますと?」
「君のクラスが召喚された世界に行く気はないかい?」
「行かせてください。お願いします」
「即答だね」
「そりゃ全国厨二男子の夢ですからね、行く世界とはファンタジーなのでしょうか……?」
恐る恐るシュウが聞く。
神はにこりと笑って答えた。
「君の想像しているような世界で認識は間違っていないよ。ただ違う所と言えばステータスという概念が存在するところかな」
「自分の能力が目に見て分かるってことか……」
「そうだね、それについて何か能力をプレゼントして向こうの世界で暮らしてくれるだけで君が僕のために働いてくれることになるよ」
「そんな簡単な条件でいいのですか……?」
「なんで敬語なのかは分からないけどこの条件でいいんだよ。僕の神気に染まった人間が世界にいるっていうだけで潔癖症気味のあそこの神はストレスで胃に穴が開くから」
神様に胃があるのかと疑問に思ったシュウ。
真実は神のみぞ知る。
「能力はどの範囲までOKでしょうか!」
「僕は生と死を司る神だからそれに関連する事しか能力は付けられないなぁ、最強の肉体とか世界最高の魔力とかは無理かな」
「じゃあ、不老不死とかってできます?」
「できないこともないけど一切の成長がなくなるけどいい?」
「成長がなくなる?」
つまり……と神は続けた。
不老不死とは肉体と精神の時間を止めてその状態で固定するというもの。
固定してしまうが故に、向こうに行って魔力も得られないし、筋力も増えない。
知識は付けられるけどそれ以上のことができない。
との事だった。
「じゃあ実質不老不死みたいな感じとかはできませんか……?」
「んー……、あっ、いい案思いついた。これで行こう。欲しいのは不老不死だけ?」
「向こうでクラスの奴らと会いたくないので会わないようにするのってできませんか?」
「人のいない森の中とかに送り出すことならできるよ。そうする?」
「お願いします!」
「じゃあ向こうの世界に飛ばすね。良き異世界ライフを」
視界が暗転してふわりと浮かぶような感覚がシュウを襲った。
白い空間には神と名乗る者だけが残ってた。
◆
ここは地球が存在する世界とは違う世界。
世界名はクレバス、4つの大国と多数の小国が人間の居住区である。
世界の大きさは地球の約6倍。人族の居住区は世界の面積の100分の1にも満たない。
この広大な世界には近代兵器でも傷をつけることができない恐ろしい魔物や立ち入るだけで死に至る猛毒が噴き出す場所、地球の重力の2万倍をも誇る場所などがある。
そんな場所よりも恐ろしく危険と言われている場所は『魔の森』と呼ばれている。
重力は地球と同じで猛毒のガスが噴き出している訳でもない。
何が危険か?
それはその『魔の森』の空気中の魔力濃度に起因する。
この世界の人族がその場所に足を踏み入れたら2秒も待たずに爆散するだろう。
何故爆散するのか、答えは明白である。
空気中の濃すぎる魔力が大気に触れている部分から吸収されて、又は呼吸によって体内に運ばれていくことによって人族が体内に保有できる魔力量が臨界点を越すことで体の内側から外側に向けて強烈な力が作用するからだ。
これは保有魔力量を超過したことによって魔力が外に放出されることが原因とされている。
そこに生息する生物、植物は高い魔力を保有しアンチマテリアルライフルを至近距離で食らっても傷一つ付くことのない耐久力を誇る。
『魔の森』が世界一危険と呼ばれし理由は尋常ではない魔力濃度と生息する生物の強さだろう。
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