文学作品を読んだ感想など

江戸川乱歩 芋虫 感想文３

３
　目は口程に物を言うということわざがある。アイコンタクトという言葉もあるとおり、目というのは他者に感情を伝える道具になる。
　涙を流せば悲しんでいることがわかるし、にらみつければ怒りの感情が伝わる、ある晩時子の夫が何かを考えているときに彼女は挑みかかった。
　だが、この時ばかりは夫は同意をしなかった、そして唯一残された器官であるである目を使い彼女を叱責した。時子は肉欲の悪魔に取りつかれ、夢中になるあまり叱責を続ける夫の目に不快感で我を忘れた。
　時子が冷静さを取り戻した時に見たのは哀れな夫が唯一のこっていた器官である両目から血を噴出しているところであった。
　なんて恐ろしい情景だっただろう、四肢を失いあらゆる自由を奪われた時子の夫は、今愛する妻により最後の器官まで失おうとしているのだ。
　時子は自分のしたことに恐ろしさを感じ、慌てて医者を呼びに行った。そして夫に謝り続け、彼の胴体に何度も何度も【ユルシテクダサイ】と書き続けた。時子は夫の心中を考えると恐ろしかった、彼の不自由を考えて恐ろしかった。その表現については実際にこの作品を読んで感じてほしい。
　そして、時子は耐えられなくなり、恩人で大家でもある人にそのことを話に行く。そして二人で彼のところに戻ると不思議なことにそこには誰もいなかった。そして柱に文字が書いてあるのを見つける。そこには一言【ユルス】とだけ書かれていた。
その哀れな傷痍軍人が見えない目で、四肢のない体でいかにして鉛筆を探し出したか、そしていかにしてその不自由な口で柱に一言許すと書いたか。想像力を最大限に使っても思いもよらないような苦労、命がけの努力が感じられる。
　それは愛する妻に一言【ユルス】と伝えたかった彼の真剣な命がけの思いが伝わってきて私は心が張り裂けそうな気がする。
　しかし、時子の夫はどこに行ったのだろう。考えると家のすぐ近くには井戸がある。夫は自殺したのではないだろうか。そう思い当たると時子は急いで井戸を見に行った。
そして、時子は夫が井戸に落ちていくところをみてそのドボンという落ちた音を聞いた。
　時子はその時ふと芋虫が枯れ枝の上から地面に落ちるところを不思議にも思い出したのだった。