誰が為の救世主

シュベスタル創世神話

遥か昔、太陽の息子アスラン、月の娘ルナが人々が暮らせるようにと楽園を作った。

　しかし人々が楽園で幸せに暮らしていると、その楽園を奪おうと、混沌から魔物が現れた。彼等は月の娘を呑み込み、夜を支配すると、暗闇から人々を襲って食い殺した。

　人々は魔物を恐れ、どうかあの魔物を追い払ってくださいとアスランに祈ると、アスランは獅子と鷲の精霊を呼び、魔物を蹴散らした。しかし魔物はまだ暗闇からやってくる。そこで狼の精霊を呼び、暗闇の見張り番とした。これで楽園はやっと魔物から襲われずにすむようになった。

　しかし楽園は魔物の幾度にも渡る襲撃によって荒れ果てていた。そこで人々はまたアスランに祈った。
　すると今度は馬と牛の精霊が呼び出され、人々に豊穣をもたらした。荒れ果てた土地は戻り、人々の悲しみは癒えた。

　しかし、精霊を呼び出した事で全ての力を使い果たしたアスランは天空の宮殿へと帰らなければならなかった。去り際、アスランは人々に言った。

　この楽園を五つに分け、その土地をそれぞれの精霊に守らせよう。人間達よ、それぞれの精霊のもとで懸命に生き、この楽園を守りなさい。

　楽園に取り残された人間達はアスランのいう通りにした。人々は五つの土地から一つを選んで永住の地とすると、その地を守る精霊と契約を交わした。

　その時生まれたのが、ラインハルトに住む獅子の民、スカイラインの鷲の民、アーナガルムの狼の民、セレリアスの牛の民、コルディールの馬の民である。

　彼等は精霊と契りを結んだ事で、各々特別な能力を授かっていた。
　精霊は人間を守り、人間は精霊を助けた。
　そしてそのまま世界は穏やかであるはずだった。

　しかし、夜の見張り番をアスランから一人で任されていた狼の精霊は、不満を持っていた。なぜ自分だけが一人夜の中で見張りをしていなければならないのだと。
　そこで、欲深い人間を探しだし、楽園を自分と狼の民の物にしてしまおうと話をもちかけた。欲深い人間が精霊からの願いに応じて彼を解放すると、狼の聖霊は暗闇の中で馬と牛の精霊を食い殺し、鷲の精霊の翼をもいだ。
　守護の精霊を失った土地は荒れ果て、悲しみと憎悪で溢れかえる。再び混沌が世界を包もうとしていた。

　しかし、狼の精霊が獅子の精霊に噛みつこうとしたその瞬間、アスランが天空の宮殿から光の槍を投げた事で、狼の精霊の目は潰れてしまった。
　目が潰れ、逃げる彼を一人の娘が北の洞穴へと誘導し、そのまま岩を使って彼を閉じ込めた。
　彼女は取引を持ちかけられた欲深い人間の娘だったのである。凍てつくような寒さが狼を凍らせ、そしてその娘は父の罪を償う為に自らの命を代償として狼を洞穴に封印した。
　彼女のおかげで狼の精霊は封印され、世界には平和が訪れた。

　全てが終わり、獅子の精霊は勇敢にも立ち向かった獅子の民から王を選び、人々を導くよう命じると、自身は再びこの地を守るだろうと言葉を残して姿を消してしまった。

　人々はやっと訪れた平和を二度と壊さぬように誓いを立て、この楽園にシュヴェスタルと名前をつけた。そして獅子の精霊が選んだ王に忠誠を誓った。

　狼の民によって精霊は封印されたが、この惨劇を引き起こしたのもまた狼の民である。人々は彼等を北の荒地へと追放する事に決め、自らの同胞の罪を償うべく、北の地で洞穴の封印が解けぬよう見張るようにと命じた。

これがシュヴェスタル創世の神話である。