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もしもの話を現実に出来たら
15話
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目の前にいる人間は、どう考えても幻だと思っている。だってあり得ない。あり得てはいけないのだ。自分が亡くなってから、もし会えたらとしか考えていなかった相手が、目の前にいる。
「はは!よく分かんないけど、久々に会えたが…なんだか出会った頃と同じくらい辛気臭い顔してるなあ」
弱々しい笑顔ではない。出会った頃のまま、結婚する前に見た、まだ若かった頃の姿で。歯を見せてにっかりと笑う顔が、そこにはあった。握っていたはずの伊織の手は、そこにはない。周りには何もない。妻と二人きり。こんなことあり得ない。どうかしてる。これは夢だ。現実ではない。会いたいが募ってとうとう幻覚まで見始めてしまったようだ。自分で自分の頬を引っ張る。痛みはあった。夢ではない。ここは現実だ。けれど現実なら彼女が居るはずはない。ぐるぐると懸命に思考を巡らせても一向に答えには辿り着かなくて、困り果ててしまう。
「辛気臭い顔、か。確かに君に比べたら元気のない顔をしているだろうな」
「お酒でも呑んで、ゆっくり話すか?」
場面が切り替わる。二人で経営したあの居酒屋に居た。違うのは、自分がカウンターに腰掛けていて、彼女はカウンターの向こうにいる。客として訪れた頃を彷彿とさせる光景だった。
「この店……私が死んでからもずっと一人で守ってくれたんだよな。ありがとう」
「いや………違う。違うんだ」
首を横に振る。妻が亡くなってからずっと生きている心地がしなかった。どこか遠くから、まるで第三者目線で自分を見ているようで。自分の原動力は、彼女のためにこの店を守る。それだけだった。休みなく毎日続けた。掃除を繰り返した。いつかまた出会った時に、後ろめたいことなど何一つもなく、誇れる自分で在れるように。
「俺は、今日罪を犯した。許されない事をしたんだ。君が守ってきたものを、自分の手で壊したんだ」
好きでいてもらう資格などない。好きでいて良い資格すらもない。好きだった彼女の誇りを壊した。怒りに任せて行ったことは、全てを壊すものだったのだ。店も、誇りも、彼女との関係も、全て。
「まあ…確かにやっちゃいけないことをしたな」
顔を上げろと強く、低く言われた。懺悔のような言葉を繰り返しながら、彼女がどんな顔をしているのか見たくなくて俯いていたが、恐る恐る顔をあげる。
「はは!よく分かんないけど、久々に会えたが…なんだか出会った頃と同じくらい辛気臭い顔してるなあ」
弱々しい笑顔ではない。出会った頃のまま、結婚する前に見た、まだ若かった頃の姿で。歯を見せてにっかりと笑う顔が、そこにはあった。握っていたはずの伊織の手は、そこにはない。周りには何もない。妻と二人きり。こんなことあり得ない。どうかしてる。これは夢だ。現実ではない。会いたいが募ってとうとう幻覚まで見始めてしまったようだ。自分で自分の頬を引っ張る。痛みはあった。夢ではない。ここは現実だ。けれど現実なら彼女が居るはずはない。ぐるぐると懸命に思考を巡らせても一向に答えには辿り着かなくて、困り果ててしまう。
「辛気臭い顔、か。確かに君に比べたら元気のない顔をしているだろうな」
「お酒でも呑んで、ゆっくり話すか?」
場面が切り替わる。二人で経営したあの居酒屋に居た。違うのは、自分がカウンターに腰掛けていて、彼女はカウンターの向こうにいる。客として訪れた頃を彷彿とさせる光景だった。
「この店……私が死んでからもずっと一人で守ってくれたんだよな。ありがとう」
「いや………違う。違うんだ」
首を横に振る。妻が亡くなってからずっと生きている心地がしなかった。どこか遠くから、まるで第三者目線で自分を見ているようで。自分の原動力は、彼女のためにこの店を守る。それだけだった。休みなく毎日続けた。掃除を繰り返した。いつかまた出会った時に、後ろめたいことなど何一つもなく、誇れる自分で在れるように。
「俺は、今日罪を犯した。許されない事をしたんだ。君が守ってきたものを、自分の手で壊したんだ」
好きでいてもらう資格などない。好きでいて良い資格すらもない。好きだった彼女の誇りを壊した。怒りに任せて行ったことは、全てを壊すものだったのだ。店も、誇りも、彼女との関係も、全て。
「まあ…確かにやっちゃいけないことをしたな」
顔を上げろと強く、低く言われた。懺悔のような言葉を繰り返しながら、彼女がどんな顔をしているのか見たくなくて俯いていたが、恐る恐る顔をあげる。
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