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始まりは朝の1杯から
2話
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「千秋ちゃん、俺も何か貰っていい?」
「おい、喫茶店の方はまだ営業前だぞ」
「大丈夫ですよ。コーヒーでいいですか?」
「おい!」
まるで眼中にないかのようにそっちのけで話が進んでいく。桐生は一応顔見知りだからか千秋が全く警戒心もなく同じようにコーヒーを淹れ始める。
「おけおけ!俺は逢坂と違って、砂糖とミルクはなしでね」
「砂糖はセルフだ。それに私はミルクは入れない派だ」
「はいはい。砂糖四つだろ。苦いのが飲めないあまちゃんだもんな」
「今日は五つ入れてました」
へらへらとそれまで笑っていたが、それを聞いた瞬間うげ、と桐生が眉を顰めてまるで下手物を見るような顔で見てくる。鬱陶しい視線を遠ざけるために顔に手を当てて追いやった。
「来て早々五月蝿い。飲んだら帰れ」
「コーヒー飲みに来たんだからもっとゆっくりさせろよ~」
せっかくの静かで穏やかな朝が台無しだ。彼らと話すとせっかく摂取した糖を無駄に使ってしまう。本当に早く帰ればいいのに。今日幾度目かになる溜息を吐いたと同時に、再びカランカランと音を立てて扉が開いた。三人同時に振り向く。
「あの……声が聞こえたんですけど、今やってますか?」
小柄な女性だった。どこか緊張した面持ちで三人を不審そうにみている。
「喫茶ニコイチはまだ営業外だが…その顔、“そう”ではないな」
「はい。合わせ屋…と書いてあったので依頼に来たのですが……」
桐生がひゅう、と口笛を鳴らす。「珍しいこともあるもんだ」と心底驚いた声を出す彼の横腹を肘で軽くど突き、摩っているのを他所に椅子から立ち上がった。黒の長いロングジャケットを翻し、コツコツとブーツの足音を立てながら客人の元へと歩みを進める。身体分しか開いていない扉を、しっかりと開けた。
「合わせ屋は朝から晩まで営業中だ。さあ、中へどうぞ」
心の中ではしっかりと笑みを浮かべる。ほら、予感は良く当たるんだ。
「おい、喫茶店の方はまだ営業前だぞ」
「大丈夫ですよ。コーヒーでいいですか?」
「おい!」
まるで眼中にないかのようにそっちのけで話が進んでいく。桐生は一応顔見知りだからか千秋が全く警戒心もなく同じようにコーヒーを淹れ始める。
「おけおけ!俺は逢坂と違って、砂糖とミルクはなしでね」
「砂糖はセルフだ。それに私はミルクは入れない派だ」
「はいはい。砂糖四つだろ。苦いのが飲めないあまちゃんだもんな」
「今日は五つ入れてました」
へらへらとそれまで笑っていたが、それを聞いた瞬間うげ、と桐生が眉を顰めてまるで下手物を見るような顔で見てくる。鬱陶しい視線を遠ざけるために顔に手を当てて追いやった。
「来て早々五月蝿い。飲んだら帰れ」
「コーヒー飲みに来たんだからもっとゆっくりさせろよ~」
せっかくの静かで穏やかな朝が台無しだ。彼らと話すとせっかく摂取した糖を無駄に使ってしまう。本当に早く帰ればいいのに。今日幾度目かになる溜息を吐いたと同時に、再びカランカランと音を立てて扉が開いた。三人同時に振り向く。
「あの……声が聞こえたんですけど、今やってますか?」
小柄な女性だった。どこか緊張した面持ちで三人を不審そうにみている。
「喫茶ニコイチはまだ営業外だが…その顔、“そう”ではないな」
「はい。合わせ屋…と書いてあったので依頼に来たのですが……」
桐生がひゅう、と口笛を鳴らす。「珍しいこともあるもんだ」と心底驚いた声を出す彼の横腹を肘で軽くど突き、摩っているのを他所に椅子から立ち上がった。黒の長いロングジャケットを翻し、コツコツとブーツの足音を立てながら客人の元へと歩みを進める。身体分しか開いていない扉を、しっかりと開けた。
「合わせ屋は朝から晩まで営業中だ。さあ、中へどうぞ」
心の中ではしっかりと笑みを浮かべる。ほら、予感は良く当たるんだ。
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