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始まりは朝の1杯から
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逢坂伊織の朝は1杯のコーヒーから始まる。
カウンターに着き、ふわりと湯気が漂うカップの中に角砂糖を四つ。いつもは四つだ。しかし。
ポトリ。もう一つ追加で入れた。うげ、とコーヒーを淹れた少女がカウンターの向こうで顔を顰めた気もするがいつものことなので見流す。いい加減見慣れて欲しいものだ。
ちなみに牛乳は入れない。まろやかな味わいは好みではないのだ。
「伊織さん、毎日そんなに砂糖どさどさ入れていたら絶対将来糖尿病になりますよ。というか今日一つ多い!」
「同じことを毎日言っているが君の口癖か?」
「私が毎日言わないと砂糖入れるでしょ!」
食い気味に言ってくる少女から顔を逸らす。この声はコーヒーとのペアリングになど決してなり得ない。どうせなら代わりにティラミスや甘い生クリームの乗ったケーキが欲しいところだ。
「もしかして今、更に甘いもの欲しました…?」
図星を言い当てられて咳き込んだ。危うくコーヒーを溢してしまうところだったじゃないか。ジト目で彼女を一瞥してからまたカップに目を向ける。
「…言っても言わなくてもこれは外せない。仕事をする上で糖分は必須なんだ」
依頼があれば頭も身体も動かす……かもしれない。糖がなければどちらも決して上手く働かないだろう。千秋は溜息を吐いて、飲み終えたカップとソーサーを取り洗い物を始めてしまう。
「依頼なんてほとんどないじゃないですか」
「そう思うだろう。ふっふっふ。今日は私の予感が告げている。依頼人が来ると」
「そんな当たるか当たらないかも分からない予感のせいで砂糖五つも入れたんですか」
「侮るなよ。私の予感はよく当たるんだ」
呆れたような千秋の「どーだか…」という言葉の後すぐに、カランカランと来客を告げる鐘の音がした。洗い物をしていた千秋は思わず手を止めて振り向いた。
「よーっす!お邪魔するぞ!」
「桐生さん!」
依頼人、ではない来客にがっくりと肩を落とした。期待させて損をした、とはまさにこのことだろう。なんで紛らわしいんだろうか。
「おいおい親愛なる情報屋に対して、そうもあからさまな態度はないんじゃねーの?」
座って良いなどと一言も言っていないにも関わらず隣に腰掛けた青年は肩に腕を回してこようとするから身体を横に避けて免れる。
「遠慮なく絡もうとするな。君と私はただの協力者なだけだ」
「相変わらず冷てえなあ」
彼の名前は桐生隼人。以前、同じ依頼人から同時に依頼を受けた際に知り合ったのだ。そこから何故かだらだらと繋がっている。連絡は大体桐生の方からだし、連絡もなしに来ることもある。まったくこちらは依頼人ではなかったというだけで落ち込んでいると言うのに呑気な男だ。
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「同じことを毎日言っているが君の口癖か?」
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食い気味に言ってくる少女から顔を逸らす。この声はコーヒーとのペアリングになど決してなり得ない。どうせなら代わりにティラミスや甘い生クリームの乗ったケーキが欲しいところだ。
「もしかして今、更に甘いもの欲しました…?」
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依頼があれば頭も身体も動かす……かもしれない。糖がなければどちらも決して上手く働かないだろう。千秋は溜息を吐いて、飲み終えたカップとソーサーを取り洗い物を始めてしまう。
「依頼なんてほとんどないじゃないですか」
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「侮るなよ。私の予感はよく当たるんだ」
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「よーっす!お邪魔するぞ!」
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