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二通目の手紙
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賢吾が莉華を最寄り駅まで送り届けてから帰宅したのはもう間もなく零時になろうかという頃だった。
莉華が満足するまでたっぷり三時間はカラオケに付き合ったことになる。
家に帰りついた時にはヘトヘトでそのままソファーに倒れるように座り込んだ。
こういうところでも自分の年齢が若くないのだと思い知らされる。
外出している間に郵便受けに入っていた郵便物を適当にテーブルに投げると、一枚の紙がはらりと落ちた。
「ん……?」
裏向きに落ちた白い紙にインクが滲んでいる。
それを見て今朝見つけたあの怪文書が脳裏をよぎった。
恐る恐る紙を手に取ると、そこには朝見たものと同じく半紙に墨で書きつけられた文言があった。
ただ、文章だけが違っている。
【蕾が膨らみ始めました】
「もう!?」
賢吾は思わず声を上げていた。
莉華は花が咲く時期を五月から六月にかけてと言っていたから、早いものならゴールデンウイーク明けのこの時期に花を咲かせ始めてもおかしくはないのだろう。
ただ、「花が咲く頃に」という手紙が届いたのは今朝のことだったからこんなに早いとは思ってもみなかった。
蕾が膨らみ始めたということは咲くまで――つまり、手紙の主が迎えに来るまで残された時間――はせいぜい数日がいいところだろう。
そこで改めて考えてみた。
迎えに来るというのはどういうことだろう。
言葉の意味をそのまま受け取るのならば、手紙の主は賢吾をどこかへ連れ出そうとしているのだろう。
相手が莉華ならばデートの誘いであろうし、取引先の人間ならばどこかの店で接待を受けるのかもしれない。
では、見ず知らずの人間なら?
連れ出す目的はなんだろう?
子供や権力者なら身代金目当ての誘拐も考えられるが、賢吾はちょっとばかり体が大きいこと以外は平均的なサラリーマンだ。
果たし状を送り付けてくるような因縁のある相手も心当たりがない。
花が咲く頃に、とわざわざ書き添えてくるということは奥ゆかしい女性からのラブレターなのだろうか?
「ラブレター……か」
賢吾と莉華が付き合っていることは周囲に話していないから、密かに好意を寄せてくれていた女性がアプローチしてきたとしても不思議ではないのかもしれない。
それに、ラブレターだと考えればわざわざ手書きにしてきたことも納得がいく。
封筒に入れず、差出人の名前も明らかにしないまま郵便受けに直接投函されているというのが引っ掛かるが。
手紙のことを莉華に話してみるべきか賢吾は迷っていた。
仮にこの手紙の主が誘拐や何らかの仕返しを目的としていた場合、莉華を下手に巻き込んで彼女に危害が及ぶのが怖かったのだ。
賢吾は百八十センチを超える巨体の持ち主だ。
学生時代にはその恵まれた体型を活かして柔道に打ち込み、全国大会にも何度か出場している。
現役を引退した今でも、いくらか筋量は落ちたとはいえ素手の人間が相手なら人並み以上には戦える自信があった。
ただし、それは一対一、または健吾対複数人のケンカにおいてのことだ。
莉華を守りながらとなると途端に不安が湧いてくる。
「……相手のことがわかるまで莉華に話すのはやめとくか」
賢吾は天井を見上げ、ひとつため息を吐いた。
莉華が満足するまでたっぷり三時間はカラオケに付き合ったことになる。
家に帰りついた時にはヘトヘトでそのままソファーに倒れるように座り込んだ。
こういうところでも自分の年齢が若くないのだと思い知らされる。
外出している間に郵便受けに入っていた郵便物を適当にテーブルに投げると、一枚の紙がはらりと落ちた。
「ん……?」
裏向きに落ちた白い紙にインクが滲んでいる。
それを見て今朝見つけたあの怪文書が脳裏をよぎった。
恐る恐る紙を手に取ると、そこには朝見たものと同じく半紙に墨で書きつけられた文言があった。
ただ、文章だけが違っている。
【蕾が膨らみ始めました】
「もう!?」
賢吾は思わず声を上げていた。
莉華は花が咲く時期を五月から六月にかけてと言っていたから、早いものならゴールデンウイーク明けのこの時期に花を咲かせ始めてもおかしくはないのだろう。
ただ、「花が咲く頃に」という手紙が届いたのは今朝のことだったからこんなに早いとは思ってもみなかった。
蕾が膨らみ始めたということは咲くまで――つまり、手紙の主が迎えに来るまで残された時間――はせいぜい数日がいいところだろう。
そこで改めて考えてみた。
迎えに来るというのはどういうことだろう。
言葉の意味をそのまま受け取るのならば、手紙の主は賢吾をどこかへ連れ出そうとしているのだろう。
相手が莉華ならばデートの誘いであろうし、取引先の人間ならばどこかの店で接待を受けるのかもしれない。
では、見ず知らずの人間なら?
連れ出す目的はなんだろう?
子供や権力者なら身代金目当ての誘拐も考えられるが、賢吾はちょっとばかり体が大きいこと以外は平均的なサラリーマンだ。
果たし状を送り付けてくるような因縁のある相手も心当たりがない。
花が咲く頃に、とわざわざ書き添えてくるということは奥ゆかしい女性からのラブレターなのだろうか?
「ラブレター……か」
賢吾と莉華が付き合っていることは周囲に話していないから、密かに好意を寄せてくれていた女性がアプローチしてきたとしても不思議ではないのかもしれない。
それに、ラブレターだと考えればわざわざ手書きにしてきたことも納得がいく。
封筒に入れず、差出人の名前も明らかにしないまま郵便受けに直接投函されているというのが引っ掛かるが。
手紙のことを莉華に話してみるべきか賢吾は迷っていた。
仮にこの手紙の主が誘拐や何らかの仕返しを目的としていた場合、莉華を下手に巻き込んで彼女に危害が及ぶのが怖かったのだ。
賢吾は百八十センチを超える巨体の持ち主だ。
学生時代にはその恵まれた体型を活かして柔道に打ち込み、全国大会にも何度か出場している。
現役を引退した今でも、いくらか筋量は落ちたとはいえ素手の人間が相手なら人並み以上には戦える自信があった。
ただし、それは一対一、または健吾対複数人のケンカにおいてのことだ。
莉華を守りながらとなると途端に不安が湧いてくる。
「……相手のことがわかるまで莉華に話すのはやめとくか」
賢吾は天井を見上げ、ひとつため息を吐いた。
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