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フシギ分室、始動っ!!
第17話 怪奇レポート005.落ちた花弁から滴る血・陸
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真藤くんと真藤町長は二人並ぶとたしかによく似ていた。
顔自体はそこまで似ていないのだけど、よく笑うところとか雰囲気から親子の血のつながりを感じる。
「こっちは……大学の友達かな?」
「サークルの先輩だよ」
笑顔を向けてきた町長に答えようとした私たちを制するように、真藤くんが先に口を挟んだ。
どうして嘘をつくのかわからないけれど、いつもと違う真藤くんの様子を見て私たちは話を合わせることにする。
その後もいくつか会話を交わしていた二人の間には不思議な空気が流れていた。
終始にこやかに話しかける町長に対して真藤くんは面倒臭そうな返答をし続けているのだ。
まるで早くこの場を立ち去りたいかのように……。
「ところで怜太、母さんは元気か?」
「ええ、おかげさまでこの通りよ」
不意に私たちの後ろから声が聞こえた。
驚いて振り向くとそこに立っていたのは小津骨さんだ。
「え? ええ?????」
壊れた扇風機のように首を振って三人を交互に見る。
真藤町長がお父さんで、小津骨さんがお母さんで??
これは何のドッキリだろう?
いや、でも小津骨さんと真藤くんが親子なら妙に親密なのも真藤くんの扱いがちょっと雑なのも納得できないこともない、かも……??
「美枝、新しい課を任されたんだってな。ええと、何だったか……心霊課か?」
「怪奇現象対策課よ」
「そうだった、そうだった。どうだ? 順調か?」
「おかげさまで。じゃ、忙しいから行くわね」
親しげに語りかける真藤町長と小津骨さんの温度差がすごい。
っていうか小津骨さんちょっと怒ってる??
困惑する私と結城ちゃんを置いて三人の会話は早々に終了した。
「帰るわよ」
言うが早いか、小津骨さんは真藤くんに何かを告げてそそくさと歩き出してしまう。
名残惜しそうにその後ろ姿を見送る町長に秘書らしき女の人が何か耳打ちをして、すぐ三人も別の方向へ歩き始めた。
帰ると言ったから駐車場に向かうのかと思ったら、小津骨さんは須鯉造園の事務所へと私たちを連れて行った。
そこで待っていたのは七十代後半くらいのおじいさんと五十代前半くらいの男性の二人だった。
二人とも胸に「須鯉造園」の刺繍が入った作業着を着ている。
「こちら、須鯉造園会長の須鯉善蔵さんと社長の耕一郎さん。右から伏木分室の香塚、結城、真藤です」
小津骨さんが双方の紹介をしてくれる。
善蔵さんは人あたりのよさそうなおじいさんで、私たち一人一人に会釈をしてくれた。
対照的に耕一郎さんは気難しそうな人で、私たちのことを軽く一瞥すると早く本題に入ってくれといわんばかりに腕時計を見た。
「先ほどは急に席を外してしまい失礼いたしました。この三名にも話を聞かせたかったもので……」
「いえいえ、いいんですよ。一刻も早くこの件を解決する手立てが見つかるならそれが一番ですから」
善蔵さんは口調こそ柔らかいが、眼差しには底知れぬものがあった。
いつになく緊張した様子の小津骨さんにつられて、私もピシッと座りなおす。
「確認ですが、こちらで栽培されているバラには異変が起きていないんですね?」
「ええ。うちの職員からもそういう話は聞きませんし、バラを買ったお客さんから苦情が入ったこともありませんよ」
穏やかな口調で語る善蔵さんの視線の先には小津骨さんが持ち込んだバラの花束がある。
「これを見せてもらわなければ信じることもできないような話です」
「そうですよね……。そもそもこの花束が須鯉造園で育ったものだと信じていただけるかもわかりませんでしたもの」
「いやいや、これは間違いなくうちのバラです。見間違えるはずがない。
一見すると普通のバラに見えるかもしれないが、うちにしかない、美しさが長く続くように品種改良したバラです。これのおかげで世界的なコンクールで金賞を取れたのですよ」
善蔵さんの声にははっきりとした自信が感じられた。
ここで育てられている間には変化がなく、販売された後になって異変が起こるバラ。
しかも異変が起きているバラは一品種だけではないらしい。
「怪異が起こるようになってから――おおよそ一年半くらい前からですね――何か変わったことはありますか?」
小津骨さんが問い掛けると、耕一郎さんは怪訝な顔をした。
「変化がなければ成長もないのはどの業種も同じですからいろいろなことをやってますよ。外国から珍しい品種を輸入してみたり、新しい肥料を取り入れたり。
さっきも言ったようにオリジナルのバラの開発もしています」
植え替えは簡単なことではないからよほど必要に迫られない限りしませんが。と耕一郎さんは付け加えて言う。
「その外国の品種や肥料が原因で花に……ええと、突然変異が起こるなんてことはあったりしますか?」
「一概にないとは言えないでしょうね」
耕一郎さんの答えにハッとしたのは私だけではなかった。
「それじゃあ……――」
「不要な交配は起こらないよう管理しています」
「肥料の方は?」
小津骨さんの問い掛けに耕一郎さんの不機嫌そうな顔がさらに歪んだ。
「お宅でしょう」
「え?」
「キッカイ町の環境課の方から斡旋された肥料を使ってるんです。役場では害のあるようなものを斡旋するんですか」
「あ、いえ。失礼いたしました」
耕一郎さんの剣幕に小津骨さんも口ごもる。
「第一、その、怪異報告ですか。それは事実なんですか?
うちで売っている花は余程酷い扱いをしないかぎり、どれも当日や翌日に散るようなものではないはずです」
耕一郎さんがどうにもトゲのある口ぶりなのが気になるけれど、それだけこだわりを持ってバラを育てているということなんだろう。
あの剣幕を見ているとそのうち「営業妨害だ」とか「名誉毀損で訴える」とか言い出しそうでハラハラしてきた。
「では、率直にお聞きします。お二人の奥様は今どちらにいらっしゃいますか?」
小津骨さんが鋭い視線を向けると、耕一郎さんが一瞬たじろいだ。
善蔵さんは「なんのことですかな?」と笑みを浮かべながらお茶をすする。
「一年半前に耕一郎さんの奥様が、半年前には善蔵さんの奥様が行方不明になったという話を聞いたものでして」
「たしかに、私たちの家内は立て続けに行方知れずになりました。ですが、それが何か?」
「バラが流した血を鑑定に回したところ、二人の人間の血が混じったものだと判明したのです。
しかも、それらは共に中高年の女性のものだと」
小津骨さんの言葉に私は息を飲んだ。
まさか、昨日の今日でここまで調査を進めていたなんて。
「だとしたら……なんですか、その、私たちが家内を殺してバラ園の肥料にしたとでも言うんですか」
「それはわかりません。ですが、何も関係ないということは無い気がしまして」
「そんな言いがかりを付けに来たなら帰ってくれ!」
突如として声を荒げたのは耕一郎さんだった。
乱暴に椅子から立ち上がると、ドカドカと足音を響かせて事務所から去ろうとする。
「最後にひとつ。大切なことを言い忘れていました」
小津骨さんが放った一言に、耕一郎さんはこちらに背を向けたまま足を止めた。
「年間数千、数万本売れているであろうバラの中で怪異として報告があったものはほんのひと握りです。それはなぜかご存知ですか?」
「……いいえ」
善蔵さんはゆっくりと首を横へ振る。
「怪異報告をくださった方は皆、警察関係者なんですよ。これは奥様たちが助けを求めているからではないですか?」
小津骨さんが問い掛けた瞬間。
ドサッと音を立てて耕一郎さんがその場に膝をついた。
重い沈黙の中、私の心臓は周りにまで聞こえるのではないかと思うほど強く脈打っていた。
――初めて見た! 人が膝から崩れ落ちる瞬間!!
あれってドラマの中だけの出来事じゃなかったんだ!!
興奮が表に出てしまわないよう必死で抑えながら、私は事態がどう動くのか息を呑んで見守った。
顔自体はそこまで似ていないのだけど、よく笑うところとか雰囲気から親子の血のつながりを感じる。
「こっちは……大学の友達かな?」
「サークルの先輩だよ」
笑顔を向けてきた町長に答えようとした私たちを制するように、真藤くんが先に口を挟んだ。
どうして嘘をつくのかわからないけれど、いつもと違う真藤くんの様子を見て私たちは話を合わせることにする。
その後もいくつか会話を交わしていた二人の間には不思議な空気が流れていた。
終始にこやかに話しかける町長に対して真藤くんは面倒臭そうな返答をし続けているのだ。
まるで早くこの場を立ち去りたいかのように……。
「ところで怜太、母さんは元気か?」
「ええ、おかげさまでこの通りよ」
不意に私たちの後ろから声が聞こえた。
驚いて振り向くとそこに立っていたのは小津骨さんだ。
「え? ええ?????」
壊れた扇風機のように首を振って三人を交互に見る。
真藤町長がお父さんで、小津骨さんがお母さんで??
これは何のドッキリだろう?
いや、でも小津骨さんと真藤くんが親子なら妙に親密なのも真藤くんの扱いがちょっと雑なのも納得できないこともない、かも……??
「美枝、新しい課を任されたんだってな。ええと、何だったか……心霊課か?」
「怪奇現象対策課よ」
「そうだった、そうだった。どうだ? 順調か?」
「おかげさまで。じゃ、忙しいから行くわね」
親しげに語りかける真藤町長と小津骨さんの温度差がすごい。
っていうか小津骨さんちょっと怒ってる??
困惑する私と結城ちゃんを置いて三人の会話は早々に終了した。
「帰るわよ」
言うが早いか、小津骨さんは真藤くんに何かを告げてそそくさと歩き出してしまう。
名残惜しそうにその後ろ姿を見送る町長に秘書らしき女の人が何か耳打ちをして、すぐ三人も別の方向へ歩き始めた。
帰ると言ったから駐車場に向かうのかと思ったら、小津骨さんは須鯉造園の事務所へと私たちを連れて行った。
そこで待っていたのは七十代後半くらいのおじいさんと五十代前半くらいの男性の二人だった。
二人とも胸に「須鯉造園」の刺繍が入った作業着を着ている。
「こちら、須鯉造園会長の須鯉善蔵さんと社長の耕一郎さん。右から伏木分室の香塚、結城、真藤です」
小津骨さんが双方の紹介をしてくれる。
善蔵さんは人あたりのよさそうなおじいさんで、私たち一人一人に会釈をしてくれた。
対照的に耕一郎さんは気難しそうな人で、私たちのことを軽く一瞥すると早く本題に入ってくれといわんばかりに腕時計を見た。
「先ほどは急に席を外してしまい失礼いたしました。この三名にも話を聞かせたかったもので……」
「いえいえ、いいんですよ。一刻も早くこの件を解決する手立てが見つかるならそれが一番ですから」
善蔵さんは口調こそ柔らかいが、眼差しには底知れぬものがあった。
いつになく緊張した様子の小津骨さんにつられて、私もピシッと座りなおす。
「確認ですが、こちらで栽培されているバラには異変が起きていないんですね?」
「ええ。うちの職員からもそういう話は聞きませんし、バラを買ったお客さんから苦情が入ったこともありませんよ」
穏やかな口調で語る善蔵さんの視線の先には小津骨さんが持ち込んだバラの花束がある。
「これを見せてもらわなければ信じることもできないような話です」
「そうですよね……。そもそもこの花束が須鯉造園で育ったものだと信じていただけるかもわかりませんでしたもの」
「いやいや、これは間違いなくうちのバラです。見間違えるはずがない。
一見すると普通のバラに見えるかもしれないが、うちにしかない、美しさが長く続くように品種改良したバラです。これのおかげで世界的なコンクールで金賞を取れたのですよ」
善蔵さんの声にははっきりとした自信が感じられた。
ここで育てられている間には変化がなく、販売された後になって異変が起こるバラ。
しかも異変が起きているバラは一品種だけではないらしい。
「怪異が起こるようになってから――おおよそ一年半くらい前からですね――何か変わったことはありますか?」
小津骨さんが問い掛けると、耕一郎さんは怪訝な顔をした。
「変化がなければ成長もないのはどの業種も同じですからいろいろなことをやってますよ。外国から珍しい品種を輸入してみたり、新しい肥料を取り入れたり。
さっきも言ったようにオリジナルのバラの開発もしています」
植え替えは簡単なことではないからよほど必要に迫られない限りしませんが。と耕一郎さんは付け加えて言う。
「その外国の品種や肥料が原因で花に……ええと、突然変異が起こるなんてことはあったりしますか?」
「一概にないとは言えないでしょうね」
耕一郎さんの答えにハッとしたのは私だけではなかった。
「それじゃあ……――」
「不要な交配は起こらないよう管理しています」
「肥料の方は?」
小津骨さんの問い掛けに耕一郎さんの不機嫌そうな顔がさらに歪んだ。
「お宅でしょう」
「え?」
「キッカイ町の環境課の方から斡旋された肥料を使ってるんです。役場では害のあるようなものを斡旋するんですか」
「あ、いえ。失礼いたしました」
耕一郎さんの剣幕に小津骨さんも口ごもる。
「第一、その、怪異報告ですか。それは事実なんですか?
うちで売っている花は余程酷い扱いをしないかぎり、どれも当日や翌日に散るようなものではないはずです」
耕一郎さんがどうにもトゲのある口ぶりなのが気になるけれど、それだけこだわりを持ってバラを育てているということなんだろう。
あの剣幕を見ているとそのうち「営業妨害だ」とか「名誉毀損で訴える」とか言い出しそうでハラハラしてきた。
「では、率直にお聞きします。お二人の奥様は今どちらにいらっしゃいますか?」
小津骨さんが鋭い視線を向けると、耕一郎さんが一瞬たじろいだ。
善蔵さんは「なんのことですかな?」と笑みを浮かべながらお茶をすする。
「一年半前に耕一郎さんの奥様が、半年前には善蔵さんの奥様が行方不明になったという話を聞いたものでして」
「たしかに、私たちの家内は立て続けに行方知れずになりました。ですが、それが何か?」
「バラが流した血を鑑定に回したところ、二人の人間の血が混じったものだと判明したのです。
しかも、それらは共に中高年の女性のものだと」
小津骨さんの言葉に私は息を飲んだ。
まさか、昨日の今日でここまで調査を進めていたなんて。
「だとしたら……なんですか、その、私たちが家内を殺してバラ園の肥料にしたとでも言うんですか」
「それはわかりません。ですが、何も関係ないということは無い気がしまして」
「そんな言いがかりを付けに来たなら帰ってくれ!」
突如として声を荒げたのは耕一郎さんだった。
乱暴に椅子から立ち上がると、ドカドカと足音を響かせて事務所から去ろうとする。
「最後にひとつ。大切なことを言い忘れていました」
小津骨さんが放った一言に、耕一郎さんはこちらに背を向けたまま足を止めた。
「年間数千、数万本売れているであろうバラの中で怪異として報告があったものはほんのひと握りです。それはなぜかご存知ですか?」
「……いいえ」
善蔵さんはゆっくりと首を横へ振る。
「怪異報告をくださった方は皆、警察関係者なんですよ。これは奥様たちが助けを求めているからではないですか?」
小津骨さんが問い掛けた瞬間。
ドサッと音を立てて耕一郎さんがその場に膝をついた。
重い沈黙の中、私の心臓は周りにまで聞こえるのではないかと思うほど強く脈打っていた。
――初めて見た! 人が膝から崩れ落ちる瞬間!!
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