上 下
89 / 90
連邦編

第17話 sideクレア4

しおりを挟む
グニルタ公国




「大公様、ハーンブルク家の使者が参りました。」



突然開いた扉に、驚きもせずに男は答える。



「応接室に通した上で、最高級の対応をしろ。」



「はっ。」



命令を受け取った執事が部屋から出て行く。

ギャルドラン王国と共に、打倒サーマルディア王国として名乗りを挙げようとしていた国々の中で、唯一王国にも連邦国にも国境を接していない国、グニルタ公国は、決断の時を迫られていた。

トリアス教国とサラージア王国という、2つの国を同時に相手した上で、両方とも滅ぼしてしまったほど強大な力を持つサーマルディア王国に対して、敵対か友好か、このどちらかを選ばなければならなかったのだ。



兵力の数は、やや連合軍側が多いかと予想されていたが、連合軍側には、致命的な欠点があった。

それは距離だ。

集められる兵力は合計すれば20万人に上るかもしれないが、それぞれの国からサーマルディア王国側に攻撃を行った場合、ジア連邦共和国の首都である『リアドリア』に侵攻する場合、到着まで徒歩だと半年近くかかる。

かと言って、船による攻撃を考えたとしても、それでは船に乗れる兵士の数が少ないため、追い返されてしまう。

つまり、兵士はいても彼らの食糧や武器は全く足りていなかったのだ。



そのため、できるなら戦争は避けたいと考えていた。



「ハーンブルク家から使者として参りました、クレアです。よろしくお願いします。」



「ようこそグニルタ公国へ、グニルタ大公です。ハーンブルク領と比べたらとんでもなく田舎ですが、よろしくお願いします。」



2人は握手した後、席に座った。

そして2人の後ろにはそれぞれの文官が座る。14歳の子供が先頭に立ち、20歳を超えた大人が後ろに立つのは、なかなか異様な光景ではあるが、ハーンブルク領では大人より子供の方が教養がある場合が多いので、これが普通だったりする。



「それでは、単刀直入に我々の要求をお伝えします。我々の要求は一つ、相互不可侵と貿易です。」



「相互不可侵はわかりますが、貿易というのはどのようなものなのでしょうか。」



「簡単に言うと、ハーンブルク領で作った物とグニルタ公国で作った物を交換しよう、という事です。具体的には、ハーンブルク領で作った鉄製の武器や農具と、グニルタ公国で採れる木材や鉱物資源とで交換して欲しいと考えております。」



「うちで採れた木材や鉄鉱石を、という事ですか?」



「その認識であっております。ただし、ハーンブルク領で作られた鉄の剣などの武器を他国に売るのは禁止とさせていただきます。」



武器の転売などをされると、けっこう困る。ハーンブルク家としての真の狙いは、グニルタ公国内にあるあらゆる利権を奪おうという方針だ。言わば、戦わずして勝つという事だ。

だが、そんな事にはもちろん気が付かない。



「なるほど、確かにそこだけ見れば損のない話ですな。しかし、我が国だけ戦争に参加しないとなると、他国からバッシングを受ける気がするのですが・・・・・・」



「おっしゃる通りです。ですが、ハーンブルク家と戦争になり、敗北した場合でも同様の事が起こりますよ。」



「うぅ・・・・・・」



問題はそこなのだ。いくら宗教がどうのこうのとか、守ってくれると約束をもらっているとか、言っても攻め込まれたら終わりだ。

ハーンブルク家の代表であるクレアは、そこを突く。



「ですので、グニルタ公国には、しっかりと立場を明確にしていただく必要があります。ギャルドラン王国の言いなりのまま戦争を始めるか、我がハーンブルク家と秘密同盟を結び、自由を手にするかの2択です。」



「おっしゃる通りですな・・・・・・」



「ハーンブルク家としては、できるだけ穏便に済ませたいと思っております。しかし、決めるのはただ1人、あなたです。」



「部下と話し合いをしたいので、後日返答という事でもよろしいでしょうか・・・・・」



「わかりました。では、1週間以内に返答を頂きたいです。我が国としても、快い返事をお待ちしております。」



「はい、よろしくお願いします。」



「では、失礼します。」



それだけ言うと、クレアは席を立った。




✳︎




レオルドからの指示では、気楽にやっていいよ、と言われていたが、終始心臓が破裂しそうな勢いだった。



「はぁ・・・・・・緊張した・・・・・・」



「お疲れ様でした、クレア様。見事な交渉でした。」



「アレで乗ってくると思う?」



「現時点ではわかりませんが、レオルド様は正直どっちでもいいと、おっしゃっていたので、それほどプレッシャーを感じる必要はないと思いますよ。」



「その言葉が、余計に私に負担をかけているんだよ。はぁ~」

 

大まかな方針はあっても、交渉に台本はない。

クレアは性格上、緊張しないでと、言われれば言われるほど勝手に緊張するタイプであった。



「もー何でレオルド様は私にこんな役割を与えたなかな~」



その呟きに対して、それはそれだけ期待されているからだよ、とはもちろん言えず、文官の女は話をずらした。



「それでは、用意された部屋に向かいますか。既に、春雨より必要な書類は中に入れてあります。」



「了解です、早速行きましょうか。」



2人は、用意された部屋へと向かった。

わずか14歳の小さな少女は、レオルドの役に立とうと、一生懸命に頑張っていた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

最強九尾は異世界を満喫する。

ラキレスト
ファンタジー
 光間天音は気づいたら真っ白な空間にいた。そして目の前には軽そうだけど非常に見た目のいい男の人がいた。  その男はアズフェールという世界を作った神様だった。神様から是非僕の使徒になって地上の管理者をしてくれとスカウトされた。  だけど、スカウトされたその理由は……。 「貴方の魂は僕と相性が最高にいいからです!!」 ……そんな相性とか占いかよ!!  結局なんだかんだ神の使徒になることを受け入れて、九尾として生きることになってしまった女性の話。 ※別名義でカクヨム様にも投稿しております。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。 目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。 「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」 突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。 和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。 訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。 「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」 だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!? ================================================ 一巻発売中です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

処理中です...