88 / 90
連邦編
第16話 首都
しおりを挟む
「長旅ご苦労様です、お母様、兄さん」
「お出迎えありがとうございます、ユリウス」
「元気そうだな。」
眩しい純粋な笑顔で、レオルドの弟、ユリウスはそう言った。
俺の弟は家族思いのいい弟だ。きっと、優秀な兄による教育のおかげだろう。
【・・・・・・】
何だよ、アイ。
【何でもありません。気にしないで下さい。】
「それから義姉さんも、お疲れ様です。」
「お、お義姉さんっ?!」
ユリウスがイレーナをそう呼ぶと、彼女は飛び上がりながら反応した。
王都からハーンブルク領に帰る時、船の中でも義姉呼びしていた気がするが、どうやらまだ慣れていないらしい。
兄弟や姉妹がいないイレーナにとって、新鮮だったのかもしれない。
ちなみに、もう1人の『義姉さん』は現在馬車の中で熟睡中である。俺からすれば良く眠れるな、と感心するが、疲れが溜まってらしく、国境を越える前に寝ちゃった。どうやら昨日も、俺の役に立とうと深夜まで勉強をしていたらしい。
「兄さんと結婚したのなら義姉さんになるのでは?」
「そ、そうね。今日からは義姉さんと呼びなさい。」
「は、はい。」
どうやら義姉と呼ばれるのが嬉しいらしく、1人で勝手に顔を赤くしていた。
イレーナは普段は気が強いが、実は紙装甲なのだ。
「それじゃあ宮殿に案内してくれる?」
「は、はい。」
首都に着いた俺は、眠り姫をおんぶしながらリアドリア宮殿に入った。
✳︎
わずか3年足らずで、この国は大きく変わった。
まず、俺たちが手をかけたのは、中央集権だ。
最初から平民優遇政策を行なっていた貴族はともかく、サラージア王国側が敗戦濃厚と見るや否や、すぐにこちら側に寝返った風見鶏のような貴族に、正直俺はいっさい期待していなかった。
まず、行ったのは元サラージア王国内で最大の港であったジオルターンの整備である。
ハーンブルク領に本拠地を置く全ての商人に対して、ジオルターンの開発を手伝ってくれる者を募集し、手を上げた全員に、貢献度に応じて支援金を払うと約束した。
加えて、羅針盤と帆船の技術を彼らに公表し、それぞれに船を作らせた。
現在ハーンブルク領が所有する主な港は『テラトスタ』『リバスタ』『ハワフシティ』『ジオルターン』の4つあり、それぞれに行くための航路も公開した。
同時に、今までは極秘事項として秘匿していた4隻中3隻の『レインシリーズ』の航路と出港時間を公表し、海賊などに襲われた際に守る手立てがない弱小商人への支援も行った。
そして、ジオルターンとリアドリアの都市開発も同時に行った。旧王都を開発してもよかったが、旧王都は27年後に返却予定であり、交通の便が悪いのでハーンブルク領から近いリアドリアと、交通の便が良いジオルターンに限定した。
2本の河に挟まれたジオルターンは、都市内に沢山の水路が敷かれており、交通の便が非常によかったのだ。
その上、大砲などを設置すれば天然の要塞が出来上がる。
するとすぐに、支店を置く事を希望した商人達によって都市開発が行われた。
それと同時に、それまで旧王都で暮らしていた連邦市民達の大半をジオルターンに移住させて、そこで生活させた。
次に、リアドリア周辺によく肥えた土地が広がっている事に目をつけた俺は、ハーンブルク領研究部農業部門のリーダーのエリーゼさんを中心とした開拓部隊をその周辺に派遣し、田んぼと畑を大量に作らせた。同時に肥料や農具なども、最新のものを無償で提供した。食糧はどれだけあっても困らないので、存分に研究の成果を発揮してもらう事にしたのだ。
そしてさらに、俺の弟であるユリウスを、ジア連邦共和国のハーンブルク家代表として送った。
ユリウスには、連邦国の代表となった貴族ではあるものの、国家運営をした事がないベルダルスを補佐するように指示してある。
「連邦国内の様子はどうだ?」
「はい、特に困った事はありません。生活が苦しくなり、山賊や盗賊になった者たちの扱いに困っていましたが、兄さんが派遣したハーンブルク軍と連邦軍の共同作戦によって、民主化している州と要請を受けた一部の州の安全が確保されました。」
「捕らえた山賊はどうした?」
「全員鉱山送りにしました。現在も、24時間制で軍が監視を行なっています。」
「まぁまずまずと言ったところか。」
俺がそう答えると、お母様がその受け答えを指摘した。
「お兄さんであるレオルドが、弟にそんな事を言ってはダメですよ。兄弟仲良く、褒める時はしっかりと褒めてあげないと。」
昔から、お母様はこういう所をこだわる。お母様も、兄弟姉妹がいなかったらしいから、憧れとかもあるのだろうか。
【変な議論を展開する前に、素直に褒めてあげて下さい。もう一度言いますが、男のツンデレに需要はありません。】
はいはい、やりますよ。やればいいんでしょ?
「訂正しよう、上出来だ。実にけっこう。」
「あ、ありがとうございます、兄さん。」
天使は健全であった・・・・・・
あぁ~神よ。
【無神論者じゃなかったんですか?】
日本人ってのは、たいてい都合がいい時だけ神を信じるもんなんだよ。
「んじゃ、聞いていると思うが、本題に入ろうか。」
「は、はい。」
「お母様もいいですか?」
「軍事に関しては全てレオルドに任せてあります。お2人で話を進めていいですよ。私はここからでもしっかりと聴こえてますから。」
「私も聞いておくわ。レオルドが立てた作戦が少し気になるし。」
「わかりました。じゃあまず味方側の戦力から話そう。王国は18万、連邦国は7万、ハーンブルク軍は4万ってとこだな。ただ、王国には武器と食糧が不足しているから、満足に戦えるのは全体の6割ほどだ。そして今回の戦争では、ハーンブルク軍と連邦軍は合同で5つの国を相手しなければならない。」
「敵の戦力はどれぐらいなのですか?」
「そうだな、王国が出した想定は合計15万と言っていたが、俺は20万近くまで上ると考えている。」
「では我々の約2倍ですか・・・・・・」
ユリウスは、ガックリと肩を落とした。こういう顔もちょーかわいい。
【兄馬鹿が出でますよ。】
あかんすよ、あかんすよ。
「そう悲観する事はない、焦土作戦ってのすればまず間違いなく勝てると思うし、俺には(アイには)いくつか思いついている作戦がある。」
「ではどのようにして・・・・・・」
「まずは、『遠交近攻』だな。」
「お出迎えありがとうございます、ユリウス」
「元気そうだな。」
眩しい純粋な笑顔で、レオルドの弟、ユリウスはそう言った。
俺の弟は家族思いのいい弟だ。きっと、優秀な兄による教育のおかげだろう。
【・・・・・・】
何だよ、アイ。
【何でもありません。気にしないで下さい。】
「それから義姉さんも、お疲れ様です。」
「お、お義姉さんっ?!」
ユリウスがイレーナをそう呼ぶと、彼女は飛び上がりながら反応した。
王都からハーンブルク領に帰る時、船の中でも義姉呼びしていた気がするが、どうやらまだ慣れていないらしい。
兄弟や姉妹がいないイレーナにとって、新鮮だったのかもしれない。
ちなみに、もう1人の『義姉さん』は現在馬車の中で熟睡中である。俺からすれば良く眠れるな、と感心するが、疲れが溜まってらしく、国境を越える前に寝ちゃった。どうやら昨日も、俺の役に立とうと深夜まで勉強をしていたらしい。
「兄さんと結婚したのなら義姉さんになるのでは?」
「そ、そうね。今日からは義姉さんと呼びなさい。」
「は、はい。」
どうやら義姉と呼ばれるのが嬉しいらしく、1人で勝手に顔を赤くしていた。
イレーナは普段は気が強いが、実は紙装甲なのだ。
「それじゃあ宮殿に案内してくれる?」
「は、はい。」
首都に着いた俺は、眠り姫をおんぶしながらリアドリア宮殿に入った。
✳︎
わずか3年足らずで、この国は大きく変わった。
まず、俺たちが手をかけたのは、中央集権だ。
最初から平民優遇政策を行なっていた貴族はともかく、サラージア王国側が敗戦濃厚と見るや否や、すぐにこちら側に寝返った風見鶏のような貴族に、正直俺はいっさい期待していなかった。
まず、行ったのは元サラージア王国内で最大の港であったジオルターンの整備である。
ハーンブルク領に本拠地を置く全ての商人に対して、ジオルターンの開発を手伝ってくれる者を募集し、手を上げた全員に、貢献度に応じて支援金を払うと約束した。
加えて、羅針盤と帆船の技術を彼らに公表し、それぞれに船を作らせた。
現在ハーンブルク領が所有する主な港は『テラトスタ』『リバスタ』『ハワフシティ』『ジオルターン』の4つあり、それぞれに行くための航路も公開した。
同時に、今までは極秘事項として秘匿していた4隻中3隻の『レインシリーズ』の航路と出港時間を公表し、海賊などに襲われた際に守る手立てがない弱小商人への支援も行った。
そして、ジオルターンとリアドリアの都市開発も同時に行った。旧王都を開発してもよかったが、旧王都は27年後に返却予定であり、交通の便が悪いのでハーンブルク領から近いリアドリアと、交通の便が良いジオルターンに限定した。
2本の河に挟まれたジオルターンは、都市内に沢山の水路が敷かれており、交通の便が非常によかったのだ。
その上、大砲などを設置すれば天然の要塞が出来上がる。
するとすぐに、支店を置く事を希望した商人達によって都市開発が行われた。
それと同時に、それまで旧王都で暮らしていた連邦市民達の大半をジオルターンに移住させて、そこで生活させた。
次に、リアドリア周辺によく肥えた土地が広がっている事に目をつけた俺は、ハーンブルク領研究部農業部門のリーダーのエリーゼさんを中心とした開拓部隊をその周辺に派遣し、田んぼと畑を大量に作らせた。同時に肥料や農具なども、最新のものを無償で提供した。食糧はどれだけあっても困らないので、存分に研究の成果を発揮してもらう事にしたのだ。
そしてさらに、俺の弟であるユリウスを、ジア連邦共和国のハーンブルク家代表として送った。
ユリウスには、連邦国の代表となった貴族ではあるものの、国家運営をした事がないベルダルスを補佐するように指示してある。
「連邦国内の様子はどうだ?」
「はい、特に困った事はありません。生活が苦しくなり、山賊や盗賊になった者たちの扱いに困っていましたが、兄さんが派遣したハーンブルク軍と連邦軍の共同作戦によって、民主化している州と要請を受けた一部の州の安全が確保されました。」
「捕らえた山賊はどうした?」
「全員鉱山送りにしました。現在も、24時間制で軍が監視を行なっています。」
「まぁまずまずと言ったところか。」
俺がそう答えると、お母様がその受け答えを指摘した。
「お兄さんであるレオルドが、弟にそんな事を言ってはダメですよ。兄弟仲良く、褒める時はしっかりと褒めてあげないと。」
昔から、お母様はこういう所をこだわる。お母様も、兄弟姉妹がいなかったらしいから、憧れとかもあるのだろうか。
【変な議論を展開する前に、素直に褒めてあげて下さい。もう一度言いますが、男のツンデレに需要はありません。】
はいはい、やりますよ。やればいいんでしょ?
「訂正しよう、上出来だ。実にけっこう。」
「あ、ありがとうございます、兄さん。」
天使は健全であった・・・・・・
あぁ~神よ。
【無神論者じゃなかったんですか?】
日本人ってのは、たいてい都合がいい時だけ神を信じるもんなんだよ。
「んじゃ、聞いていると思うが、本題に入ろうか。」
「は、はい。」
「お母様もいいですか?」
「軍事に関しては全てレオルドに任せてあります。お2人で話を進めていいですよ。私はここからでもしっかりと聴こえてますから。」
「私も聞いておくわ。レオルドが立てた作戦が少し気になるし。」
「わかりました。じゃあまず味方側の戦力から話そう。王国は18万、連邦国は7万、ハーンブルク軍は4万ってとこだな。ただ、王国には武器と食糧が不足しているから、満足に戦えるのは全体の6割ほどだ。そして今回の戦争では、ハーンブルク軍と連邦軍は合同で5つの国を相手しなければならない。」
「敵の戦力はどれぐらいなのですか?」
「そうだな、王国が出した想定は合計15万と言っていたが、俺は20万近くまで上ると考えている。」
「では我々の約2倍ですか・・・・・・」
ユリウスは、ガックリと肩を落とした。こういう顔もちょーかわいい。
【兄馬鹿が出でますよ。】
あかんすよ、あかんすよ。
「そう悲観する事はない、焦土作戦ってのすればまず間違いなく勝てると思うし、俺には(アイには)いくつか思いついている作戦がある。」
「ではどのようにして・・・・・・」
「まずは、『遠交近攻』だな。」
13
お気に入りに追加
942
あなたにおすすめの小説
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる