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連邦編

第16話 首都

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「長旅ご苦労様です、お母様、兄さん」



「お出迎えありがとうございます、ユリウス」

「元気そうだな。」



眩しい純粋な笑顔で、レオルドの弟、ユリウスはそう言った。

俺の弟は家族思いのいい弟だ。きっと、優秀な兄による教育のおかげだろう。



【・・・・・・】



何だよ、アイ。



【何でもありません。気にしないで下さい。】



「それから義姉さんも、お疲れ様です。」



「お、お義姉さんっ?!」



ユリウスがイレーナをそう呼ぶと、彼女は飛び上がりながら反応した。

王都からハーンブルク領に帰る時、船の中でも義姉呼びしていた気がするが、どうやらまだ慣れていないらしい。

兄弟や姉妹がいないイレーナにとって、新鮮だったのかもしれない。



ちなみに、もう1人の『義姉さん』は現在馬車の中で熟睡中である。俺からすれば良く眠れるな、と感心するが、疲れが溜まってらしく、国境を越える前に寝ちゃった。どうやら昨日も、俺の役に立とうと深夜まで勉強をしていたらしい。



「兄さんと結婚したのなら義姉さんになるのでは?」



「そ、そうね。今日からは義姉さんと呼びなさい。」



「は、はい。」



どうやら義姉と呼ばれるのが嬉しいらしく、1人で勝手に顔を赤くしていた。

イレーナは普段は気が強いが、実は紙装甲なのだ。



「それじゃあ宮殿に案内してくれる?」



「は、はい。」



首都に着いた俺は、眠り姫をおんぶしながらリアドリア宮殿に入った。




✳︎




わずか3年足らずで、この国は大きく変わった。

まず、俺たちが手をかけたのは、中央集権だ。

最初から平民優遇政策を行なっていた貴族はともかく、サラージア王国側が敗戦濃厚と見るや否や、すぐにこちら側に寝返った風見鶏のような貴族に、正直俺はいっさい期待していなかった。



まず、行ったのは元サラージア王国内で最大の港であったジオルターンの整備である。

ハーンブルク領に本拠地を置く全ての商人に対して、ジオルターンの開発を手伝ってくれる者を募集し、手を上げた全員に、貢献度に応じて支援金を払うと約束した。

加えて、羅針盤と帆船の技術を彼らに公表し、それぞれに船を作らせた。



現在ハーンブルク領が所有する主な港は『テラトスタ』『リバスタ』『ハワフシティ』『ジオルターン』の4つあり、それぞれに行くための航路も公開した。

同時に、今までは極秘事項として秘匿していた4隻中3隻の『レインシリーズ』の航路と出港時間を公表し、海賊などに襲われた際に守る手立てがない弱小商人への支援も行った。



そして、ジオルターンとリアドリアの都市開発も同時に行った。旧王都を開発してもよかったが、旧王都は27年後に返却予定であり、交通の便が悪いのでハーンブルク領から近いリアドリアと、交通の便が良いジオルターンに限定した。



2本の河に挟まれたジオルターンは、都市内に沢山の水路が敷かれており、交通の便が非常によかったのだ。

その上、大砲などを設置すれば天然の要塞が出来上がる。



するとすぐに、支店を置く事を希望した商人達によって都市開発が行われた。

それと同時に、それまで旧王都で暮らしていた連邦市民達の大半をジオルターンに移住させて、そこで生活させた。



次に、リアドリア周辺によく肥えた土地が広がっている事に目をつけた俺は、ハーンブルク領研究部農業部門のリーダーのエリーゼさんを中心とした開拓部隊をその周辺に派遣し、田んぼと畑を大量に作らせた。同時に肥料や農具なども、最新のものを無償で提供した。食糧はどれだけあっても困らないので、存分に研究の成果を発揮してもらう事にしたのだ。



そしてさらに、俺の弟であるユリウスを、ジア連邦共和国のハーンブルク家代表として送った。

ユリウスには、連邦国の代表となった貴族ではあるものの、国家運営をした事がないベルダルスを補佐するように指示してある。



「連邦国内の様子はどうだ?」



「はい、特に困った事はありません。生活が苦しくなり、山賊や盗賊になった者たちの扱いに困っていましたが、兄さんが派遣したハーンブルク軍と連邦軍の共同作戦によって、民主化している州と要請を受けた一部の州の安全が確保されました。」



「捕らえた山賊はどうした?」



「全員鉱山送りにしました。現在も、24時間制で軍が監視を行なっています。」



「まぁまずまずと言ったところか。」



俺がそう答えると、お母様がその受け答えを指摘した。



「お兄さんであるレオルドが、弟にそんな事を言ってはダメですよ。兄弟仲良く、褒める時はしっかりと褒めてあげないと。」



昔から、お母様はこういう所をこだわる。お母様も、兄弟姉妹がいなかったらしいから、憧れとかもあるのだろうか。



【変な議論を展開する前に、素直に褒めてあげて下さい。もう一度言いますが、男のツンデレに需要はありません。】



はいはい、やりますよ。やればいいんでしょ?



「訂正しよう、上出来だ。実にけっこう。」



「あ、ありがとうございます、兄さん。」




天使は健全であった・・・・・・



あぁ~神よ。



【無神論者じゃなかったんですか?】



日本人ってのは、たいてい都合がいい時だけ神を信じるもんなんだよ。



「んじゃ、聞いていると思うが、本題に入ろうか。」



「は、はい。」



「お母様もいいですか?」



「軍事に関しては全てレオルドに任せてあります。お2人で話を進めていいですよ。私はここからでもしっかりと聴こえてますから。」

「私も聞いておくわ。レオルドが立てた作戦が少し気になるし。」



「わかりました。じゃあまず味方側の戦力から話そう。王国は18万、連邦国は7万、ハーンブルク軍は4万ってとこだな。ただ、王国には武器と食糧が不足しているから、満足に戦えるのは全体の6割ほどだ。そして今回の戦争では、ハーンブルク軍と連邦軍は合同で5つの国を相手しなければならない。」



「敵の戦力はどれぐらいなのですか?」



「そうだな、王国が出した想定は合計15万と言っていたが、俺は20万近くまで上ると考えている。」



「では我々の約2倍ですか・・・・・・」



ユリウスは、ガックリと肩を落とした。こういう顔もちょーかわいい。



【兄馬鹿が出でますよ。】



あかんすよ、あかんすよ。



「そう悲観する事はない、焦土作戦ってのすればまず間違いなく勝てると思うし、俺には(アイには)いくつか思いついている作戦がある。」



「ではどのようにして・・・・・・」



「まずは、『遠交近攻』だな。」
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