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連邦編
第11話 sideヘレナ4
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少し急ぎ過ぎた感は、否めない。
だが、彼の返事を聞いて、余計な雑念は全て吹き飛んだ。
これまでに感じた事のない安堵と幸福が込み上げて来た。
私が今日この日、レオルド様との婚姻を検討し始めたのは、半年ほど前まで遡る。
✳︎
「ヘレナ様、王太子殿下から定期便が届いております。」
「ありがとうございます。」
「では、いつも通り私は外で待っておりますので、何かございましたらベルを鳴らして下さいませ。」
「はい、お願いします。」
私の護衛である彼女は、私に木箱を渡すと部屋から出て行った。
半年に1度、王宮のお父様とお母様から木箱が送られてくる。
誰がどのようにして運んでいるかは知らないが、毎回しっかりと私の手元に届く。
早速紐を解いて箱を開けると、中には1通の小さな手紙が入っていた。
私はそれには目もくれず、2重底を開けて本物の手紙を取り出した。王家からの手紙である事を示す印が押された手紙を開く。
中に書かれていたのは、私の体調を心配する内容と、レオルド様との生活についてと、最近王都で起きた事についてだった。
毎度お馴染みの3点セットだ。
特に、私の体調を心配する内容が全体の半分を占めていた事もいつも通りであった。
ただ、最後の1文だけはいつもと違った。
『戦勝記念に、パパが何でも1つ、お願いを叶えてあげる、よく考えた上で返事をしてくれ。』
何でも1つお願いを叶えてくれる、ですか。
何か一つ・・・・・・
私なら、何を選ぶだろうか。
昔、同じような物語を読んだ事があったが、まさか自分が選ぶ立場になるとは思っていなかった。
サーマルディア王国国内であれば、お父様の命令を断れる人物は片手で数えられるほどしかいない。
「私に何か欲しい物があるでしょうか。」
考えてみると、今の私にはこれといった欲しい物はない。
食べ物はどうか、だがハーンブルク領に入れば、例え平民でも国中の美味しい物が食べられる。
なら可愛い服は?これもハーンブルク領に入れば簡単に手に入る。
あとは・・・・・・
あった。
私が欲しい物・・・
いや、一緒にいたい人
でも、おそらくお父様の力でも難しいはずだ。
でも・・・・・・
諦めたくない。
私は、お目当ての物を手に入れるために行動を開始した。
「話があるとの事でしたが、何かありましたか?ヘレナ様。」
「お時間をいただき、ありがとうございます、エリナ様。」
「ふふふ、いつも言っておりますが、お母様と呼んでもいいのですよ。ヘレナ様は私の自慢の息子であるレオルドの婚約者なのですから。」
エリナ様は軽く微笑みながら、何故か『自慢の息子』という部分を強調しながら言った。
だが、私の次の言葉によって、エリナ様の顔が真剣になった。
「エリナ様、私は本当にエリナ様の娘になりたいです。」
「っ!いつかは来ると思っていましたが、少し早かったですね。」
私の言葉の真意を理解したエリナ様の目が光った。表情は全く変わっていないが、凄まじい威圧を受ける。
「ご、ごめんなさい。どうしても、抑えきれなくて、自分の気持ちに嘘をつきたくなくて・・・・・・」
私は、少し圧倒されながら答えた。
私の言葉に、エリナ様は満足した様子で答えた。
「私が貴方様をレオルドの婚約者に推薦した最大の理由は、レオルドの心の支えを作る事です。レオルドは昔から、私たちの常識を遥かに上回る成長速度と思考回路を持ち合わせていました。あらゆる事を自分の思い通りに成功させ、失敗を経験しませんでした。そこで私は、レオルドの心の脆さを警戒しました。そこで、婚約者を作ってレオルドの心拠り所にしようと考えました。」
「では、どうして私を選んだのですか?」
「貴方が、昔の私に少し似ていたからです。部屋に篭って本ばかり読んでいた昔の私に・・・・・・そして、どこまでも深い優しさを持っていたからです。」
「優しさ・・・・・・」
「いいでしょう、レオルドとの婚姻を認めます。そのように王宮に手紙を送っておきましょう。そのかわり、私が行うのはあくまで外堀を埋める事のみです。本丸は、自分の手で落として下さい。」
「はいっ!」
エリナ様から快諾をもらった私は、すぐさま行動を開始した。
お父様に向けて、レオルド様との婚姻を認めて欲しいという手紙を送った。
そして、レオルド様との距離が縮まるように努力した。
ちょっとしたスキンシップや、ハーンブルク家に仕える料理人に教えてもらい、手料理に挑戦してみたり、レオルド様が好みの服を着たり・・・・・・
ちょっと恥ずかしかったけどレオルド様が何故か推しているメイド服を着てみたり・・・・・・
レオルド様との婚約が成立してから既に4年が経過しており、レオルド様の好みも少しずつわかってきていた。
そして・・・・・・
✳︎
パーティーも終わりに差し掛かった頃、私はレオルド様と一緒に2人きりでベランダに出ていた。
「急に決めてしまいごめんなさい、レオルド様。」
「気にしないで、ヘレナ」
「でも・・・・・・」
「俺は後悔していない、後悔するつもりもない。それに・・・・・・」
「それに?」
「俺はお前を幸せにしたいと思っていたからな、それが少し早まっただけだ。」
彼は、夜空を眺めながら言った。
今日は月が隠れた曇り空でよかったと思う、でなければ私の赤くなった顔が彼に気付かれていたかもしれない。
私は、恥ずかしくて夫の顔を直視できなかった。
だが、彼の返事を聞いて、余計な雑念は全て吹き飛んだ。
これまでに感じた事のない安堵と幸福が込み上げて来た。
私が今日この日、レオルド様との婚姻を検討し始めたのは、半年ほど前まで遡る。
✳︎
「ヘレナ様、王太子殿下から定期便が届いております。」
「ありがとうございます。」
「では、いつも通り私は外で待っておりますので、何かございましたらベルを鳴らして下さいませ。」
「はい、お願いします。」
私の護衛である彼女は、私に木箱を渡すと部屋から出て行った。
半年に1度、王宮のお父様とお母様から木箱が送られてくる。
誰がどのようにして運んでいるかは知らないが、毎回しっかりと私の手元に届く。
早速紐を解いて箱を開けると、中には1通の小さな手紙が入っていた。
私はそれには目もくれず、2重底を開けて本物の手紙を取り出した。王家からの手紙である事を示す印が押された手紙を開く。
中に書かれていたのは、私の体調を心配する内容と、レオルド様との生活についてと、最近王都で起きた事についてだった。
毎度お馴染みの3点セットだ。
特に、私の体調を心配する内容が全体の半分を占めていた事もいつも通りであった。
ただ、最後の1文だけはいつもと違った。
『戦勝記念に、パパが何でも1つ、お願いを叶えてあげる、よく考えた上で返事をしてくれ。』
何でも1つお願いを叶えてくれる、ですか。
何か一つ・・・・・・
私なら、何を選ぶだろうか。
昔、同じような物語を読んだ事があったが、まさか自分が選ぶ立場になるとは思っていなかった。
サーマルディア王国国内であれば、お父様の命令を断れる人物は片手で数えられるほどしかいない。
「私に何か欲しい物があるでしょうか。」
考えてみると、今の私にはこれといった欲しい物はない。
食べ物はどうか、だがハーンブルク領に入れば、例え平民でも国中の美味しい物が食べられる。
なら可愛い服は?これもハーンブルク領に入れば簡単に手に入る。
あとは・・・・・・
あった。
私が欲しい物・・・
いや、一緒にいたい人
でも、おそらくお父様の力でも難しいはずだ。
でも・・・・・・
諦めたくない。
私は、お目当ての物を手に入れるために行動を開始した。
「話があるとの事でしたが、何かありましたか?ヘレナ様。」
「お時間をいただき、ありがとうございます、エリナ様。」
「ふふふ、いつも言っておりますが、お母様と呼んでもいいのですよ。ヘレナ様は私の自慢の息子であるレオルドの婚約者なのですから。」
エリナ様は軽く微笑みながら、何故か『自慢の息子』という部分を強調しながら言った。
だが、私の次の言葉によって、エリナ様の顔が真剣になった。
「エリナ様、私は本当にエリナ様の娘になりたいです。」
「っ!いつかは来ると思っていましたが、少し早かったですね。」
私の言葉の真意を理解したエリナ様の目が光った。表情は全く変わっていないが、凄まじい威圧を受ける。
「ご、ごめんなさい。どうしても、抑えきれなくて、自分の気持ちに嘘をつきたくなくて・・・・・・」
私は、少し圧倒されながら答えた。
私の言葉に、エリナ様は満足した様子で答えた。
「私が貴方様をレオルドの婚約者に推薦した最大の理由は、レオルドの心の支えを作る事です。レオルドは昔から、私たちの常識を遥かに上回る成長速度と思考回路を持ち合わせていました。あらゆる事を自分の思い通りに成功させ、失敗を経験しませんでした。そこで私は、レオルドの心の脆さを警戒しました。そこで、婚約者を作ってレオルドの心拠り所にしようと考えました。」
「では、どうして私を選んだのですか?」
「貴方が、昔の私に少し似ていたからです。部屋に篭って本ばかり読んでいた昔の私に・・・・・・そして、どこまでも深い優しさを持っていたからです。」
「優しさ・・・・・・」
「いいでしょう、レオルドとの婚姻を認めます。そのように王宮に手紙を送っておきましょう。そのかわり、私が行うのはあくまで外堀を埋める事のみです。本丸は、自分の手で落として下さい。」
「はいっ!」
エリナ様から快諾をもらった私は、すぐさま行動を開始した。
お父様に向けて、レオルド様との婚姻を認めて欲しいという手紙を送った。
そして、レオルド様との距離が縮まるように努力した。
ちょっとしたスキンシップや、ハーンブルク家に仕える料理人に教えてもらい、手料理に挑戦してみたり、レオルド様が好みの服を着たり・・・・・・
ちょっと恥ずかしかったけどレオルド様が何故か推しているメイド服を着てみたり・・・・・・
レオルド様との婚約が成立してから既に4年が経過しており、レオルド様の好みも少しずつわかってきていた。
そして・・・・・・
✳︎
パーティーも終わりに差し掛かった頃、私はレオルド様と一緒に2人きりでベランダに出ていた。
「急に決めてしまいごめんなさい、レオルド様。」
「気にしないで、ヘレナ」
「でも・・・・・・」
「俺は後悔していない、後悔するつもりもない。それに・・・・・・」
「それに?」
「俺はお前を幸せにしたいと思っていたからな、それが少し早まっただけだ。」
彼は、夜空を眺めながら言った。
今日は月が隠れた曇り空でよかったと思う、でなければ私の赤くなった顔が彼に気付かれていたかもしれない。
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