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連邦編
第8話 sideエリナ4
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レオルドがピアノを弾き終え、ファリアとその友人と会話を楽しんでいる頃、パーティー会場の隅の方で3家の貴族がテーブルを囲んでいた。
テーブルを挟んで手前側にハーンブルク家当主代理である、エリナ・フォン・ハーンブルクが座り、反対側にはデュークス男爵家とレーテーン伯爵家の当主がそれぞれ座った。
普通、このようなパーティーで椅子に座る事は少ないが、今回は特別に用意してもらった。
「こんにちは、ハーンブルク家当主代理のエリナ・フォン・ハーンブルクでございます。お二方のお子さんには、私の娘が大変お世話になっています。」
「こちらこそ、我が息子が大変迷惑をかけていると聞いております。」
「頭を上げて下さいエリナ殿、我が娘も大変仲良くして頂いているようで、こちらこそ御礼を言いたいです。」
いきなりハーンブルク家から個別に招待されたそれぞれの当主は、驚きと緊張が止まらなかった。
今や、王国内一の経済力と軍事力を持つハーンブルク家を知らない貴族はいない。領土を接するレーテーン伯爵家はもちろんの事、王国最南端に位置するデュークス男爵家が統治する島にまで噂は流れて来ていた。
「それにしても先程の演奏は素晴らしかったですな、私は思わず感動して涙を流してしまいました。」
「私も娘からピアノを教えてもらい、何度か聞いた事がありましたが、あれほど素晴らしい演奏は初めてです。流石、王国一の才女と謳われるエリナ様の御子息ですな。」
同時に、今回の3家による会談はレーテーン伯爵家とデュークス男爵家にとって大きなチャンスでもあった。
もしここでハーンブルク家と確かな関係を築ければその利益は計り知れない。
そのためすぐに先程の演奏に対する感想を口にしたのだ。
「ふふふ、ありがとうございます。やはり音楽という物素晴らしいですね。聞いているだけで心がゆったりとしますね。」
「はい、そうですな。」
「私もそう思います。」
「では、そろそろ本題と参りましょうか。我々ハーンブルク家は、お二方との長期間に渡る連携を提案いたします。」
私は、レオルドの構想を思い出しながらそう伝えた。
「この2つの地点は、今後のハーンブルク家の更なる発展を考える上で最も重要な地点です。前者はレーテーン伯爵家が、後者はデュークス男爵家の領地なので是非この2家と関係を深めてほしいです。」
私の自慢の息子であるレオルドは、私の部屋にある黒板にチョークで地図を書きながら言った。
「前者のレーテーン伯爵領を抑える理由は何となくわかるのですが、後者のデュークス男爵領は何故重要な地点なのですか?」
「後者に関しては、その先にあるガラシオル帝国に干渉する事が真の狙いです。」
言われて、私は考える。
ガラシオル帝国、お父様に以前まではサーマルディア王国よりも国力があったが、ハーンブルク領の発展と戦争によって国力を大きく落としていると聞いている。
人口はおよそ600万人で、サーマルディア王国とジア連邦共和国の人口を足し合わせた数と同じぐらい。
ただ、国民の大半は2級国民以下であり、1級国民となると全体の25%ほどしかいない。
エリナの脳内には、その程度の情報しかなかった。そして、レオルドの構想に触れた。
「ガラシオル帝国を新たな貿易相手国にすると言う事ですか?」
「半分正解です。私は、ガラシオル帝国が現在戦争をしている『パラス王国』に対しても貿易を行おうと考えております。」
パラス王国、ガラシオル帝国にとって、唯一領土が接している国であり、帝国がここ30年ほど戦争を続けている国だ。
しかし、『パラス王国』と貿易するためには、ある1つの大きな壁がある。
「ですが、『パラス王国』は亜人が治める国なはず・・・・・・まさか、そのためにエルフ共和国を作ったと言うのですか?」
そう、『パラス王国』は亜人が治める国であった。この世界において、人間と亜人との間にある溝は深い。
人間であるエリナやレオルドが交渉に出向いても相手にしてもらう為には多大な努力が必要だろう。
しかし、相手が同じ亜人であるエルフとなると話は180度変わってくる。
亜人は基本、同族つまり亜人に対して仲間意識を持っており、基本的に優しく接してくれる。
「そういう事です。エルフ共和国からの支援という形にすれば、『パラス王国』は喜んで支援を受けるでしょう。その際重要になるのは物資の集積地点です。」
「では集積地点の最良案がデュークス男爵が所有する島という事ですか?」
遠くの国と貿易するためには物資の管理をする場所が必要だ。
その時、島という事で海に面していて、かつ王国や他領に干渉される危険性が低く、あまり力が強くないのでデュークス男爵領が選ばれた。
ちなみに島の名前は『デュークス島』という。
「はい、そのためにファリア姉さんにデュークス男爵家の長男と仲良くなるようにお願いしておきました。できるだけ真の目的を悟られないように港を確保してほしいのです。」
「なるほど・・・・・・」
ゆっくりと自分の考えとレオルドの考えを擦り合わせる。レオルドの考えは、一見奇想天外でおかしな物に見えるが、物事の本質を捉える力は既に自分自身を上回っていると断言できる。
一体どこからそのような名案が浮かぶのかはわからないが、その才能は母親である私から見ても化け物としか言いようがない。
もちろん、同じ化け物でも彼は私や私たち家族に幸福を届ける神なのかもしれない。
✳︎
「では、大まかな連携についてはこのぐらいにして、具体的な話は後日ハーンブルク領の方に招待いたしますのでその際に話し合うという事でよろしいでしょうか。」
「はい、我々としてはそれで構いません。むしろ、こちら側がありがたいぐらいです。」
「我が領地は何もない島でございますが、このようなお話誠にありがたく思います。是非よろしくお願いします。」
「わかりました。ではそのようにお願いします。」
ふー。
何とかまとめる事が出来ましたか・・・・・
これでひとまず安心です。では、次なる準備を始めましょうか。
気持ちを切り替えたエリナは、次なる目標に視線を移した。
テーブルを挟んで手前側にハーンブルク家当主代理である、エリナ・フォン・ハーンブルクが座り、反対側にはデュークス男爵家とレーテーン伯爵家の当主がそれぞれ座った。
普通、このようなパーティーで椅子に座る事は少ないが、今回は特別に用意してもらった。
「こんにちは、ハーンブルク家当主代理のエリナ・フォン・ハーンブルクでございます。お二方のお子さんには、私の娘が大変お世話になっています。」
「こちらこそ、我が息子が大変迷惑をかけていると聞いております。」
「頭を上げて下さいエリナ殿、我が娘も大変仲良くして頂いているようで、こちらこそ御礼を言いたいです。」
いきなりハーンブルク家から個別に招待されたそれぞれの当主は、驚きと緊張が止まらなかった。
今や、王国内一の経済力と軍事力を持つハーンブルク家を知らない貴族はいない。領土を接するレーテーン伯爵家はもちろんの事、王国最南端に位置するデュークス男爵家が統治する島にまで噂は流れて来ていた。
「それにしても先程の演奏は素晴らしかったですな、私は思わず感動して涙を流してしまいました。」
「私も娘からピアノを教えてもらい、何度か聞いた事がありましたが、あれほど素晴らしい演奏は初めてです。流石、王国一の才女と謳われるエリナ様の御子息ですな。」
同時に、今回の3家による会談はレーテーン伯爵家とデュークス男爵家にとって大きなチャンスでもあった。
もしここでハーンブルク家と確かな関係を築ければその利益は計り知れない。
そのためすぐに先程の演奏に対する感想を口にしたのだ。
「ふふふ、ありがとうございます。やはり音楽という物素晴らしいですね。聞いているだけで心がゆったりとしますね。」
「はい、そうですな。」
「私もそう思います。」
「では、そろそろ本題と参りましょうか。我々ハーンブルク家は、お二方との長期間に渡る連携を提案いたします。」
私は、レオルドの構想を思い出しながらそう伝えた。
「この2つの地点は、今後のハーンブルク家の更なる発展を考える上で最も重要な地点です。前者はレーテーン伯爵家が、後者はデュークス男爵家の領地なので是非この2家と関係を深めてほしいです。」
私の自慢の息子であるレオルドは、私の部屋にある黒板にチョークで地図を書きながら言った。
「前者のレーテーン伯爵領を抑える理由は何となくわかるのですが、後者のデュークス男爵領は何故重要な地点なのですか?」
「後者に関しては、その先にあるガラシオル帝国に干渉する事が真の狙いです。」
言われて、私は考える。
ガラシオル帝国、お父様に以前まではサーマルディア王国よりも国力があったが、ハーンブルク領の発展と戦争によって国力を大きく落としていると聞いている。
人口はおよそ600万人で、サーマルディア王国とジア連邦共和国の人口を足し合わせた数と同じぐらい。
ただ、国民の大半は2級国民以下であり、1級国民となると全体の25%ほどしかいない。
エリナの脳内には、その程度の情報しかなかった。そして、レオルドの構想に触れた。
「ガラシオル帝国を新たな貿易相手国にすると言う事ですか?」
「半分正解です。私は、ガラシオル帝国が現在戦争をしている『パラス王国』に対しても貿易を行おうと考えております。」
パラス王国、ガラシオル帝国にとって、唯一領土が接している国であり、帝国がここ30年ほど戦争を続けている国だ。
しかし、『パラス王国』と貿易するためには、ある1つの大きな壁がある。
「ですが、『パラス王国』は亜人が治める国なはず・・・・・・まさか、そのためにエルフ共和国を作ったと言うのですか?」
そう、『パラス王国』は亜人が治める国であった。この世界において、人間と亜人との間にある溝は深い。
人間であるエリナやレオルドが交渉に出向いても相手にしてもらう為には多大な努力が必要だろう。
しかし、相手が同じ亜人であるエルフとなると話は180度変わってくる。
亜人は基本、同族つまり亜人に対して仲間意識を持っており、基本的に優しく接してくれる。
「そういう事です。エルフ共和国からの支援という形にすれば、『パラス王国』は喜んで支援を受けるでしょう。その際重要になるのは物資の集積地点です。」
「では集積地点の最良案がデュークス男爵が所有する島という事ですか?」
遠くの国と貿易するためには物資の管理をする場所が必要だ。
その時、島という事で海に面していて、かつ王国や他領に干渉される危険性が低く、あまり力が強くないのでデュークス男爵領が選ばれた。
ちなみに島の名前は『デュークス島』という。
「はい、そのためにファリア姉さんにデュークス男爵家の長男と仲良くなるようにお願いしておきました。できるだけ真の目的を悟られないように港を確保してほしいのです。」
「なるほど・・・・・・」
ゆっくりと自分の考えとレオルドの考えを擦り合わせる。レオルドの考えは、一見奇想天外でおかしな物に見えるが、物事の本質を捉える力は既に自分自身を上回っていると断言できる。
一体どこからそのような名案が浮かぶのかはわからないが、その才能は母親である私から見ても化け物としか言いようがない。
もちろん、同じ化け物でも彼は私や私たち家族に幸福を届ける神なのかもしれない。
✳︎
「では、大まかな連携についてはこのぐらいにして、具体的な話は後日ハーンブルク領の方に招待いたしますのでその際に話し合うという事でよろしいでしょうか。」
「はい、我々としてはそれで構いません。むしろ、こちら側がありがたいぐらいです。」
「我が領地は何もない島でございますが、このようなお話誠にありがたく思います。是非よろしくお願いします。」
「わかりました。ではそのようにお願いします。」
ふー。
何とかまとめる事が出来ましたか・・・・・
これでひとまず安心です。では、次なる準備を始めましょうか。
気持ちを切り替えたエリナは、次なる目標に視線を移した。
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