78 / 90
連邦編
第6話 音楽
しおりを挟む
薄暗いパーティー会場に流れる優しい音楽に合わせて、多くの男女が社交ダンスをしていた。
演奏されている曲はこの世界独自の曲だが、使われている楽器はハーンブルク領ウィートンで作られたピアノだ。
数年前に王家にピアノを売ったところ、大好評で色々な貴族や商会に是非売ってくれと言われた。現在ウィートンでは、1週間に2台ほどのペースで作られ、ぼったくりな値段で王都で売られている。本体も高いが、メンテナンス代も取っているので実はボロ儲けしている。
特に、自称音楽に理解がある貴族達はいい鴨だ。
また、社交ダンスは王都に住む貴族の数少ない娯楽の1つであり、ハーンブルク領産のピアノを持っていないだけで下に見られる風潮ができつつある。
特に、領地を持たない貴族である宮廷貴族の間では社交ダンスはとても重要だ。
そして、俺はその美しい音色に耳を傾けながら・・・・・・
「楽しいですね、レオルド様」
「は、はい、そうですね。」
そんなパーティー会場の一角で、俺はヘレナ様とペアを組んで簡単な社交ダンスをしていた。
あの、俺ちょっと重要な用事が・・・・・・
なんてセリフはもちろん言えない。
向かおうと思ったらすぐにヘレナ様に捕まった。
「私、ずっとこの時を楽しみにしていました。愛する人とダンスを踊るのが夢だったんです。」
「私もヘレナ様と踊れて嬉しいです。」
とりあえず笑顔で返しておく。
ヘレナ様がずっと部屋に引きこもっていたのは昔の話、今では普通に生活している。
だが、言われてみればヘレナと踊るのはこれで2回目だ。
【マスターは毎回あの手この手を使って回避していますものね。】
そこは言わんでいい。
だいたい元現代日本人の俺に社交ダンスなんか求めるな。基本的に1回寝たら全部忘れるんだよ、こっちは。
何ならこんな感じのパーティーだって久しぶりなんだぞ。
【その割には上手に踊れていますね。】
たまたま?
時間が余った的な?
まぁたまには一緒に踊ってあげるのも悪くないかなって・・・・・・
【男性のツンデレは需要ありませんので茶番に走らずにダンスに集中して下さい。】
はいはい、わかっていますよ。
そんな事を頭の中で考えていると、何故かバレた。
「レオルド様、今他の事を考えていたでしょ。今は私に集中して下さい。」
「は、はい・・・・・・」
音楽はゆったりとした曲調からだんだんと速くなっていった。
ちなみに楽譜などは、前世同様ドレミファソラシドで統一してある。
元々あった曲なども全てハーンブルク領の音楽家が楽譜に起こしてくれた。
これのおかげでピアノの販売が促進したのでありがたい限りである。
数分後、最初の曲が静かに終わった。直後、会場内は凄まじい量の拍手に包まれる。
俺たちは、お互いに見つめ合いながら、息を整えた。
「一生の思い出になりました、レオルド様。」
「はい、私もすごく楽しかったです。たくさん練習した甲斐があったな。」
「はい///」
とびきりの笑顔でそう微笑んだ。
1つ歳上の彼女は、大満足であったようだ。
そして、この熱気によるものか、少しお互いの顔が赤い気がした。
なんだかんだで楽しんだダンスが一区切り付き、あの人の所へと向かおうとした時、俺は何故かある女に捕まった。
「いやぁ~レオルド様、こんな所で出会える何て光栄です。」
「いや何でいるんだよ、お前。」
「はい、先日の『リング通り』で行われたコンテストで優勝した事が評価され、演奏家として今回のパーティーに招待されたんです。」
彼女の名前はミレヴァと言って、元はただの領民であったが、テラトスタに作られた高等学校を主席で入学した天才で、その才能を是非とも科学の発展に貢献してほしいと思っていたら何故か入学当初から音楽の道に進み、翌々年にウィートンで行われたピアノのコンテストで優勝し、ハーンブルク領一のピアニストの座を手にした。
ショートカットの茶髪に整った容姿を持つ彼女は、黙っていれば美人だと思う。
ちなみに、シュヴェリーンの主席はマッドサイエンティストのアインだ。
「そうだレオルド様、何か曲を披露して下さいよ。」
「やだよ、俺下手だし。」
「そんな事言っちゃって~本当は超上手い事知っていますよ?」
「うぅ・・・・・・」
この通り、こいつには人を敬うという事ができない。誰にでもフレンドリーなのはいい事だと思うが、王族も参加するパーティーに参加させるのはいかがななものか。
人選ミスってるだろ。
【ですが、彼女の音楽が素晴らしいのも事実です。この年齢でこのレベルまで上手くなるのは異常です。間違いなく歴史に名を残すピアニストになると思います。】
そうなんだよなぁ~
こいつピアノに関してだけは神なんだよなぁ~
【神という存在を、軽々しく口にしない方がいいですよ。】
はいはい。
「で?俺に何を弾かせたいんだ?」
「どうせなら連弾しない?ほら、この前レオルド様に楽譜をもらったあの曲、練習したけど私と合わせられるピアニストがいなくて弾けてないからさぁ~どう?」
「はぁぁ・・・・・・しゃーないやるか。」
「その意気だよ、レオルド様」
俺たち2人は、注目を集めながらピアノの前に立った。
そして2人でお辞儀して椅子に座る。
椅子は1つなので、普通は2人で座るとなると少し狭いが、俺はまだ10歳なので少し余裕がある。
鍵盤に手を当てる。
じゃあ頼んだぞ、アイ。
【了解です、マスター。】
P・チャイコフスキー作曲
『くるみ割り人形』
俺たちは、弾き始めてから1秒とかからず、会場全体を一瞬にして虜にした。
そして多くの人が、社交ダンスを踊るのを忘れ、聴き入っていた。
演奏されている曲はこの世界独自の曲だが、使われている楽器はハーンブルク領ウィートンで作られたピアノだ。
数年前に王家にピアノを売ったところ、大好評で色々な貴族や商会に是非売ってくれと言われた。現在ウィートンでは、1週間に2台ほどのペースで作られ、ぼったくりな値段で王都で売られている。本体も高いが、メンテナンス代も取っているので実はボロ儲けしている。
特に、自称音楽に理解がある貴族達はいい鴨だ。
また、社交ダンスは王都に住む貴族の数少ない娯楽の1つであり、ハーンブルク領産のピアノを持っていないだけで下に見られる風潮ができつつある。
特に、領地を持たない貴族である宮廷貴族の間では社交ダンスはとても重要だ。
そして、俺はその美しい音色に耳を傾けながら・・・・・・
「楽しいですね、レオルド様」
「は、はい、そうですね。」
そんなパーティー会場の一角で、俺はヘレナ様とペアを組んで簡単な社交ダンスをしていた。
あの、俺ちょっと重要な用事が・・・・・・
なんてセリフはもちろん言えない。
向かおうと思ったらすぐにヘレナ様に捕まった。
「私、ずっとこの時を楽しみにしていました。愛する人とダンスを踊るのが夢だったんです。」
「私もヘレナ様と踊れて嬉しいです。」
とりあえず笑顔で返しておく。
ヘレナ様がずっと部屋に引きこもっていたのは昔の話、今では普通に生活している。
だが、言われてみればヘレナと踊るのはこれで2回目だ。
【マスターは毎回あの手この手を使って回避していますものね。】
そこは言わんでいい。
だいたい元現代日本人の俺に社交ダンスなんか求めるな。基本的に1回寝たら全部忘れるんだよ、こっちは。
何ならこんな感じのパーティーだって久しぶりなんだぞ。
【その割には上手に踊れていますね。】
たまたま?
時間が余った的な?
まぁたまには一緒に踊ってあげるのも悪くないかなって・・・・・・
【男性のツンデレは需要ありませんので茶番に走らずにダンスに集中して下さい。】
はいはい、わかっていますよ。
そんな事を頭の中で考えていると、何故かバレた。
「レオルド様、今他の事を考えていたでしょ。今は私に集中して下さい。」
「は、はい・・・・・・」
音楽はゆったりとした曲調からだんだんと速くなっていった。
ちなみに楽譜などは、前世同様ドレミファソラシドで統一してある。
元々あった曲なども全てハーンブルク領の音楽家が楽譜に起こしてくれた。
これのおかげでピアノの販売が促進したのでありがたい限りである。
数分後、最初の曲が静かに終わった。直後、会場内は凄まじい量の拍手に包まれる。
俺たちは、お互いに見つめ合いながら、息を整えた。
「一生の思い出になりました、レオルド様。」
「はい、私もすごく楽しかったです。たくさん練習した甲斐があったな。」
「はい///」
とびきりの笑顔でそう微笑んだ。
1つ歳上の彼女は、大満足であったようだ。
そして、この熱気によるものか、少しお互いの顔が赤い気がした。
なんだかんだで楽しんだダンスが一区切り付き、あの人の所へと向かおうとした時、俺は何故かある女に捕まった。
「いやぁ~レオルド様、こんな所で出会える何て光栄です。」
「いや何でいるんだよ、お前。」
「はい、先日の『リング通り』で行われたコンテストで優勝した事が評価され、演奏家として今回のパーティーに招待されたんです。」
彼女の名前はミレヴァと言って、元はただの領民であったが、テラトスタに作られた高等学校を主席で入学した天才で、その才能を是非とも科学の発展に貢献してほしいと思っていたら何故か入学当初から音楽の道に進み、翌々年にウィートンで行われたピアノのコンテストで優勝し、ハーンブルク領一のピアニストの座を手にした。
ショートカットの茶髪に整った容姿を持つ彼女は、黙っていれば美人だと思う。
ちなみに、シュヴェリーンの主席はマッドサイエンティストのアインだ。
「そうだレオルド様、何か曲を披露して下さいよ。」
「やだよ、俺下手だし。」
「そんな事言っちゃって~本当は超上手い事知っていますよ?」
「うぅ・・・・・・」
この通り、こいつには人を敬うという事ができない。誰にでもフレンドリーなのはいい事だと思うが、王族も参加するパーティーに参加させるのはいかがななものか。
人選ミスってるだろ。
【ですが、彼女の音楽が素晴らしいのも事実です。この年齢でこのレベルまで上手くなるのは異常です。間違いなく歴史に名を残すピアニストになると思います。】
そうなんだよなぁ~
こいつピアノに関してだけは神なんだよなぁ~
【神という存在を、軽々しく口にしない方がいいですよ。】
はいはい。
「で?俺に何を弾かせたいんだ?」
「どうせなら連弾しない?ほら、この前レオルド様に楽譜をもらったあの曲、練習したけど私と合わせられるピアニストがいなくて弾けてないからさぁ~どう?」
「はぁぁ・・・・・・しゃーないやるか。」
「その意気だよ、レオルド様」
俺たち2人は、注目を集めながらピアノの前に立った。
そして2人でお辞儀して椅子に座る。
椅子は1つなので、普通は2人で座るとなると少し狭いが、俺はまだ10歳なので少し余裕がある。
鍵盤に手を当てる。
じゃあ頼んだぞ、アイ。
【了解です、マスター。】
P・チャイコフスキー作曲
『くるみ割り人形』
俺たちは、弾き始めてから1秒とかからず、会場全体を一瞬にして虜にした。
そして多くの人が、社交ダンスを踊るのを忘れ、聴き入っていた。
18
お気に入りに追加
945
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。


伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる