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家族編
第22話 崩壊
しおりを挟む教国が当初予定していた、武装化した民兵による首都防衛は幻に終わった。
そもそも、武器も食料も不足している彼らに、これ以上戦闘をする体力も気力も残っていなかった。
都市部に雪崩れ込んで来たサーマルディア王国軍に対して、抵抗するどころか逆に受け入れ、一緒になって自国の軍隊を攻撃した。
ある者は台所にある包丁を持ち、またある者は竹槍を持って戦った。
反乱軍とサーマルディア王国軍の混成集団は、次々と城内に侵入し、城内のあらゆる部屋をどんどん制圧していった。彼らは、腐り切ったトリアス教国の上層部を皆殺しにする勢いで暴れ回った。
そして、最奥地にある教皇の部屋にまで兵達が押しかけた。
「お前がトリアス教国の教皇だな?」
サーマルディア王国軍の兵士の1人が怒鳴った。見事当たりを引き当てたある部隊が、敵を追い詰める事に成功した。
「そうだ、私がトリアス教皇だ。」
白く上品な服を着た少年が答えた。恐怖で体が震えていたが、力強くはっきりと答えた。
すると、隣に控えていた側近と思われる屈強な3人の男が彼を守るように前に立った。
「教皇様、お下がり下さい。貴方様は、我々の最後の希望です。」
「我々にお任せ下さい。」
「・・・・・・」
「お前達・・・・・・」
圧倒的な数の暴力に対して、側近の3人は自分の死期を悟っていた。
だが、このまま黙って殺されるわけにはいかない。
例え自分が助からなくても、教国が滅んでも・・・・・・
せめて、教皇様だけは・・・・・・
彼が逃げるための時間が稼げれば・・・・・
そして彼ら3人は、一心不乱に戦った。たった3人で何十人もの敵兵を討ち取るという大活躍だった。
しかし・・・・・・
「うぅ・・・・・・」
だんだんと生傷が増え、体力が消耗し弱った3人にとどめを刺したのは、皮肉にも3本の竹槍であった。
もはや、トリアス教国に戦闘の継続は不可能であった。
その後すぐに隠れていた教皇も発見され、拘束された。
これにより、トリアス教国の首都エルバータはついに陥落し、2年近く続いた戦争は終わりを迎えた。
✳︎
「俺は、この軍の総大将でありサーマルディア王国王太子であるゼラストだ。」
「私はトリアス教皇だ。」
仮にもトリアス教のトップという事で拘束具の類いは付けられなかったが、武器を全て没収された上でサーマルディア王国王太子の前に連れて来られた。
両軍において、全ての地帯での戦闘停止命令が発令されてから2日が経過し、初めて両軍のトップが顔を合わせた。
トリアス教国側は、トリアス教皇本人と生き残った部下数人が出席し、サーマルディア王国側は、王太子と宰相と数人の軍人が同席した。
そして更に、 SHSのリーダーのシェリングを代表としたハーンブルク家代表も参加していた。
「何か申し開きはあるか?」
「全ては、私の責任です。どうか、親愛なるトリアス教の信者達の命は助けてあげて下さい。」
「教皇様、それは・・・・・・」
今年でようやく11歳、宗教内の権力争いに巻き込まれる形で無理やり即位させられた現トリアス教皇は、しっかりと芯を持って発言した。
11歳というのはあまりにも幼い。
当然、肩にかかる重圧はとんでもなく重い。
しかし、彼にとって何よりも辛かったのは、操り人形にさせられていたとはいえ、自分の命令で数万人単位で人が死んでいたのだ。
言葉に表すと単純だが、その重圧は計り知れない。きっと、味わった事がない人間には想像が付かないだろう。
「ならば、其方を処刑した上で、トリアス教国を全て解体し、サーマルディア王国に組み込む事とする。」
「はい、それで構いません。」
事実上の死刑宣告を受けても、教皇はいっさい怯まなかった。
教国側として参加した部下達も、黙って下を向く中、別の方向から待ったがかかった。
「お待ち下さい、王太子殿下。ここで教皇を消すという案には、賛成しかねます。」
「シェリング殿、それはどういう事でしょうか。」
教皇の処刑に待ったをかけたシェリングに、サーマルディア王国側の頭脳である宰相が尋ねる。
ちなみに、王太子の先程の発言は、ほとんどこの宰相が考えたものだ。
「はい、ハーンブルク家が危惧しているのは、教皇が処刑された事によって大勢の教徒が殉死する事です。さらに、騎士団長など今後のハーンブルク家に脅威となりうる存在が多く残っております。目に見える脅威を野放しにした状態で放置する事はあり得ません。」
「なるほど、一理ありますね・・・・・・ではハーンブルク家としてはどのような方向へ持っていくおつもりですか?」
「はい、ハーンブルク家としては、教皇の助命と、元騎士団上層部へ厳罰を与える事を望みます。」
「いいでしょう。確かに、教皇を助命する事によって現地住民が従い安くなる事が期待できます。ではその方向で話をまとめましょうか。」
その後も、トリアス教国の処遇についての話し合いが行われた。
結果として、トリアス教国全土がサーマルディア王国に組み込まれる事となり、教皇の処刑は無事取り止めになった。
また、騎士団長を含む、教国軍の上層部のほとんどが拘束され、処刑もしくは投獄された。
これでひとまず、教国との戦闘に区切りがついた。
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どうでもいい話
竹槍で航空機を撃ち落とす事はもちろんできませんが、対人戦ならばある程度の殺傷力があるそうです。
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