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家族編

第10話 情勢

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戦争系の話を書く時に、色々な視点から情勢を考えるシーンを書きたいな~ってずっと思っていたのですが、今回はそれが書けてちょっと嬉しかったです。



________________________





「『春雨』も『秋雨』も被弾及びトラブル無しか・・・・・・」



「はい、陽動作戦は無事成功し、既に撤退を始めたとの事です。また、潜入の方も完了したとの事です。」



「まぁ負けないか・・・・・・」



イレーナと向かい合いながら、チェスをしていた俺の所に、作戦成功の知らせが届いた。

敵地での初陣という事で少し心配していたが、どうやら心配はいらなかったようだ。



「じゃあ作戦の第三フェイズへの移行をお願いするよ。ハーンブルク領の安全のためにも、教国には退場してもらおう。」



「はっ!」



それだけ伝えると、彼はその場から去っていった。

その様子を不思議に思ったのか、ヘレナ様が俺に尋ねてきた。



「何があったのですか?レオルド様」



「いや、ちょっとね。」



「教えてくれたっていいじゃないですか、レオルド様」



戦争の間あまり会えなかったからか、最近はヘレナ様との距離がさらに縮まった気がする。

呼ぶ時はお互い『様』を付けているが、少し砕けた口調で会話するようになった。

そんな俺とヘレナ様の会話に、イレーナが口を挟んだ。



「ヘレナ、おそらく戦争の話よ。どうせお得意の情報操作が上手くいったって話でしょ?」



「いやいや違うって、王太子殿下の無事が確認できたっていう連絡だったよ。」



当たらずとも遠からずって所だが、俺は一応嘘をついた。

ヘレナ様には戦争の話はあまりしない方がいいと思ったからだ。



「お父様が?」



「うん、国を守るために一生懸命戦ってくれているみたいだよ。」



「そうですか・・・・・・」



少し俯きながら、ヘレナ様は答えた。

彼女としては、自分の父親に戦争をしてほしくないのだろう。

だが、各国が戦争を繰り返すこの時代、前世の日本のような平和的な思考は命取りになる。



「ほれ、これでチェックだそ、イレーナ。」



「そんなバレバレな罠に私が引っかかるわけないでしょ?」



と、自信満々にクイーンを横に滑らせるが・・・・・・

俺の狙いはそっちではない。



「引っかかったなバカめ。」



「なっ!そんな手が・・・・・・」



俺は、強引な攻めを行い、何とか話題を逸らそうと試みる。

だが、ヘレナ様はしっかりと現実を見つめようとしていた。



「レオルド様、私に詳しい戦況を教えて下さい。」



予想外の発言に困惑した俺は、イレーナに目線で助けを求めるが・・・・・・



「教えてあげなさい、ヘレナもこの国の王族の一員よ、現実をしっかりと受け止める覚悟はあるわ。」



敵に回ってしまった。

そういえばこの2人、性格は全然違うのに仲が良い。

同じ王都出身という事で、話す機会も多かったのだろう。



「お願いします、レオルド様」



ヘレナ様の、必死で可愛い頼みに俺は仕方なく折れた。



戦場からここまで、どれだけ早くて1ヶ月近くかかるので、この情報は1ヶ月前の物であるが、俺はヘレナ様に対して簡潔に説明した。

サーマルディア王国がアルバス河を突破した事、敵の首都を包囲する事はできるだろうが陥落は現段階ではほぼ不可能な事、かと言ってハーンブルク家が直接手を貸すわけにもいかない事も。



「どうして援軍を送らないのですか?」



「えっとですね・・・・・・」



「簡単な話よ、ヘレナ。ハーンブルク家は、人間は送っていないけど既に物を大量に送っているの。その上でさらに人間まで送ったとなったら、色々と不都合があるの。」



全然簡単じゃねーじゃん、というツッコミは抑えてイレーナの発言を聞く。

だが、あえて言葉を濁さずに言うならば・・・・・



「プライドの問題という事ですか?」



「えぇ、ハーンブルク家は今や王国内で最強と言っても良いほど成長しているけど、爵位は伯爵家。上には公爵、侯爵、辺境伯なんかがいるから出しゃばるわけにはいかないのよ。まぁ他にも理由はたくさんがあるけどね。」



ヘレナ様の核心を突いた質問に、イレーナは正直に同意した。

やはり親友には嘘を吐かない性格なのだろうか、俺には当たりが強いのに・・・



「ですが、教国の首都陥落が難しいなら援軍を送るべきなんじゃないですか?」



「別に必ずしも戦争に勝てば良いってわけじゃないんだよ、ヘレナ様。僕は国防軍や他の貴族がどんな形で戦争を終わらせたいのか知らないけど、国土が守れればそれで良いって考え方もあるんだよ。ただでさえ教国はアルバス河の向こう側なのだから不便ってのもあるし。」



サーマルディア王国では、王都から前線まで距離がある。そのため、例え占拠できても、すぐに奪い返される可能性が高い。

ヘレナ様は、少し考えたそぶりを見せながら頷いた。現状彼女にできる事は少ない、というよりほぼ無い。だが、この9歳の少女は一生懸命自分のできる事を考えていた。



「確かにそうですね。」



「それに、今更援軍として駆け付けても、報酬が貰えないってのもあるのよ。当然、戦況を決する攻撃よりも長く戦った貴族の方が軍部は評価するわ。そんな良い事無しの戦争に、国内一の才女と呼ばれるエリナ様がハーンブルク家の軍隊を送るはずがないのよ。」



【他にも、行軍距離の問題や費用の問題、さらにハーンブルク軍の情報漏洩の可能性もあります。】



イレーナの説明に、アイは補足を入れた。

もちろん、アイと何度か話し合って決めた事だ。既にお母様とも共有済だ。



「そんな事が・・・・・・」



「一応双方が納得する講和案を探しているけど、中々難しいんだよ、特に宗教が絡んだ話だとね。」



「お父様とお爺様は親子2代に渡ってサーマルディア王国内から宗教の排斥を行ったわ。おそらくそれが、今回の戦争が起こった原因だと思う、落とし所は簡単には見つからないわね。」



イレーナの挙げたトリアス教の排斥も今回の戦争の引き金の1つであろう。

だが、根本的な戦争の理由は、お互いを憎む気持ちだと考えている。

そして、2つの憎む国同士の末路は、どちらかが滅ぶか、共通の敵が現れて仲良くなるかの2択だろう。



「じゃあ気分を変えて、今日の午後は僕の発明品でも見に行かない?」



「発明品というのは何の事ですか?」



俺は、そろそろ戦争の話を辞めて別の話題にしようと試みる。

するとすぐに、魚が餌にかかった。もう一匹の魚も、餌を物欲しそうに見ている。



「最近やっと実用段階になった、世界に革命を引き起こすかもしれない代物をね。あ、イレーナも来て良いよ。」



「え、良いの?私が行っても・・・・・・」



イレーナは驚きの声を上げた。

将来結婚する相手であるヘレナ様はともかく、宰相の娘であるイレーナに新兵器や新アイテムの紹介は出来るだけ避けていたが、今回は大丈夫だろう。

何故なら・・・・・・



「まぁ、理解できないと思うから。」



「なら是非見てみたいわ。」



どうでも良さそうな雰囲気を装っていたが、どうやら誘われた事が嬉しかったらしく、ニヤけを必死に隠しながらイレーナは答えた。

今更かもしれないけど大丈夫だよね、アイ。



【はい、今回の件は文字通り『革命』ですので、分解などをされない限り見られても大丈夫です。】



そして昼食に、新作のミートソースパスタを食べた俺たち3人は、シュヴェリーンの北にある研究所へと向かった。

ちなみにチェスは俺が優勢だったのにうやむやにされた。
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