上 下
56 / 90
家族編

第8話 side クレア3

しおりを挟む
「前方に敵部隊を捕捉、距離およそ1500!」



「これより微速前進に切り替え、アウトレンジ戦法を行い、敵部隊を殲滅します。」



「「「了解」」」

「了解、照準、敵小型船群」



私はSHSメンバー100名、ハーンブルク軍メンバー200名の合計300名の乗組員を連れて、アルバス河を上っていた。

ギャルドラン王国を予定通り何事もなく通り抜け、トリアス教国付近に接近した頃、観測員の1人が敵部隊の発見を告げた。

私も双眼鏡を使って、敵部隊の位置を確認する。



私が指揮する『レインシリーズ』の『春雨』は、レオルド様が細かいところまで全て設計した優れ物で、私の知る限りでは最強の戦艦だ。

ちなみに『秋雨』の方はSHSのリーダーであるシェリングさんが艦長を努めている。



私が、この春雨の艦長に任命されたのはつい先日。

以前から船について学ぶようにレオルド様に言われていたが、まさか私が指揮する立場になるとはこれっぽっちも思っていなかった。

ハーンブルク領内に海戦の経験がある者はおらず出来るだけ柔軟な思考を持ち、レオルド様から信頼がある人という事で私が選ばれた。

少し嬉しい。

時間があまりなく、満足に訓練ができていなかったので、ハーンブルクから戦地まで航行する間に何度も訓練を行った。



そして今日は、いよいよこの子春雨の初陣である。

絶対にレオルド様の期待に応えると心に誓って、私は砲撃を開始した。



「撃て。」



「発射っ!」



私の合図とともに、正面にある主砲が火を吹き、1発の弾丸が飛び出した。

主砲の射程はおよそ2000m、弾丸は口径が13cmと大きく狙いを付けにくいが、命中すれば一撃で敵の船を沈める破壊力を持っている。



砲撃の反動は、艦橋にいた私にも伝わった。

弾丸は予定の軌道を逸れ、水面に着弾した。だが、弾丸が川底に着弾するのと同時に急激な揺れが発生し、敵の木造船を襲った。

外れはしたが、逆に大ダメージを与えた。



「水面に着弾を確認、誤差修正。」



「了解、誤差、修正します。」



「副砲発射よーい、撃て。」



「発射っ!」



続いて、主砲の一つ前にある副砲が火を吹いた。

『レインシリーズ』には、前方に6門、後方に2門の合計8門が配備されている。微妙な調整はできないが、銃座を回転させて照準を合わせる事ができる。

次弾装填までの所要時間はおよそ1分、前方は6門だから10秒に1発撃つ計算だ。



「め、命中っ!敵小型船を貫通しましたっ!」



「「「おぉーー!!!」」」



『春雨』の攻撃によって初めて命中弾が出た事に歓喜が上がる。



「艦長、ここは敵拠点への攻撃に切り替えるべきです。砲弾には限りがありますので、出来るだけダメージを与えるために敵拠点を攻撃すべきかと。」



「いえ、我々の目標は、あくまで陽動です。無駄に刺激せず、このまま前進しましょう。」



「了解っ!」



私たちの目標はあくまで陽動、敵の拠点を直接攻撃した結果、陽動である事がバレたら元も子もない。



そして、『春雨』の強さは圧倒的であった。10秒に1発の間隔で発射される砲弾の雨は敵にとって脅威であった。

例え直撃しなくても、水面を揺らしたりする事によって、上手くいけば撃沈させる事もできる。



もし仮に敵が、砲弾の雨を掻い潜り、近距離から攻撃しようとしても、木造船に対して大ダメージを与える事ができる小型のナパーム弾が活躍した。



「ナパーム弾命中っ!敵に大損害を与えた模様っ!」



「す、すごい・・・・・・」

「圧倒的だ・・・・・・」

「これが『春雨』か・・・・・・」



乗組員達は、『春雨』の凄さに驚きを隠せずにいた。

他の船より断然速く進む事ができる黒船もすごいと思ったが、『春雨』の強さは想像以上であった。



敵の小型船が撃沈するにつれて、艦内の士気は上がっていく。

40分ほど戦闘を継続し、『春雨』と『秋雨』はほとんどダメージを受ける事なく、敵艦隊を壊滅させた。

その日は持ってきた砲弾のうちの20%近くを消費して、停泊中であった船も含めると敵小型船を100隻近く沈めた。



「艦長、初勝利おめでとうございます。」



「ありがとうございます、ヨルクさん。」



今回、『春雨』には副艦長兼補佐役として研究部漁業部門のヨルク=アコールが同乗していた。



「いやーそれにしても強いな。レオルド様がこの船を嬢ちゃんに任せた理由も頷けるな。」



「いや、そんな、全然・・・・・・」



普段のレオルド様の護衛任務を除けば、初めての重大な任務。

当然、不安や戸惑いはあったが、今のところ全く問題ない。



「そんな謙遜するなよ、嬢ちゃん。俺たちは全員嬢ちゃんの活躍は知っているし、任せられると思ったから俺たちは船に乗っているんだ。なぁ、お前らっ!」



「「「おぅ!」」」



「ありがとうございますっ!これからも頑張りますっ!」



クレアは、また一歩レオルドの理想へと近づいた。



そして、敵の主力船団およそ300隻を完膚なきまで叩きのめすと、その間にサーマルディア王国軍本隊およそ8万が対岸に上陸、敵の首都の包囲に成功した。



陽動作戦は、成功した。

陥落も時間の問題だろう。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!

るっち
ファンタジー
 土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!

引きこもりが乙女ゲームに転生したら

おもち
ファンタジー
小中学校で信頼していた人々に裏切られ すっかり引きこもりになってしまった 女子高生マナ ある日目が覚めると大好きだった乙女ゲームの世界に転生していて⁉︎ 心機一転「こんどこそ明るい人生を!」と意気込むものの‥ 転生したキャラが思いもよらぬ人物で-- 「前世であったことに比べればなんとかなる!」前世で培った強すぎるメンタルで 男装して乙女ゲームの物語無視して突き進む これは人を信じることを諦めた少女 の突飛な行動でまわりを巻き込み愛されていく物語

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...