54 / 90
家族編
第6話 思惑
しおりを挟む
パーティーも無事終了し、少し早めに自由解散となった。商人や家臣達、サッカー組は既に帰宅しており、明日帰宅予定のハワフ共和国一行などはハーンブルク家が経営する高級ホテルに案内しておいた。
しかし、最後にもう1人、パーティーに参加したメンバーの中で最も重要な人物との会談が残っている。
日も沈み、ヘレナ様を彼女の寝室に送ったあとで最後の会談が始まった。
「それではそろそろ始めましょうか。」
「はい、わかりました。」
相手はもちろんイレーナの父親であり、サーマルディア王国の宰相であるギュスターさんだ。
ただ今回の話し合いではイレーナが向こう側ではなくこちら側に座った。
「ではまず私から、サラージア側の戦線に関しては口を出さないという約束でしたが、王国としてはトリアス戦線に参戦してほしいと考えおります。」
「それは、何故でしょうか。」
いきなりとんでもない発言がぶっ飛んできた。サッカー観戦中は、現状維持を目指すと言っていたが、おそらくこのままじゃ厳しいのだろう。
「理由は簡単で、トリアス戦線が膠着してしまったため、ハーンブルク領及び一部の地域を除くサーマルディア王国のほぼ全ての地域で人手不足となっているからです。」
考えてみれば、当たり前な話だ。
今回のトリアス戦線に投入されたサーマルディア王国軍の兵力はおよそ30万、それに対してハーンブルク領を除くサーマルディア王国の人口は200万、つまり人口の15%ほどが戦争に参加している事になる。
さらに、人口200万といってもその内のほとんどが武器を持った事のない農民で、丈夫な身体を持つ健康的な成人男性となると、ちょうど30万いるかいないか程度である。
半年近く戦争が続けば、こうなるのは当たり前だ。
「つまり、貴族の不満が爆発する前に戦争を終わらせたいという事ですか?」
「簡単に言えばそうなります。現在何とか戦線を維持できているのはハーンブルク領からの物資の補給があるからと言っても過言ではありません。」
王国側の本当の狙いとしては、今回の戦争で苦しい思いをしている貴族が反乱を起こさないために、ハーンブルク家の力を削いでおきたいと考えたのだろう。
つまり、反乱を起こす気力を失くそうという事だ。
「まずはトリアス教国と休戦するのが先ではないんですか?」
お母様は状況を理解し、適切に対応した。
「既に、休戦の提案は何度もしておりますが、教国からの提案はとても同意できるような物ではありませんでした。」
「そうですか。」
お母様は、特に驚きもせず流した。
実は、このような動きはある程度予測できた。何故なら数日前、似たような話をお母様としたからだ。
✳︎
「レオルド様、ひとつだけ妙な報告があります。」
サラージア王国との間に停戦条約が締結されてから十数日後、俺はSHSメンバーの1人から気になる報告を受けた。
「どうしたんだ?」
「はい、サラージア王国の敗北の情報は、トリアス教国中に伝わったはずですが、トリアス教国軍に動きが全くなかったのです。」
確かに変な話だ。
サラージア王国が敗北した以上、トリアス教国は二正面作戦を強いられる事になる。ならば、多少なりとも部隊を派遣してハーンブルク側の防御に回すはずだ。
しかし、そのような動きは一切見られないという。
どういう事なのか、この状況をアイはこう分析した。
【トリアス教国の真の狙いはサーマルディア王国の分断かもしれません。】
どういう事?
【国の団結力が高い教国では、宗教という土台があるので戦争が長期化しても反乱が起きる事はまずありません。しかし、王都から戦線までの距離が遠く、国土の広い王国では、戦争の長期化によって地方の貴族や国民に不満が溜まり反乱が起きる可能性が高かまります。】
でもトリアス教国って確か人口150万ほどしかいなかったよね。総人口の20%を兵士として駆り出した状態で半年は流石に厳しいんじゃない?
【その30万という兵力も実際はその半分程度しかいない可能性もあります。さらに、長期化する事を最初から狙って国境付近を流れる河の近くに畑を作り、最初から備えておけば十分戦えます。】
でもそれってハーンブルク側から攻められたら意味無くない?
【サーマルディア王国の軍部、もしくは参謀にトリアス教国と内通している人物がいる可能性があります。そしてさらに、サラージア王国も同じように内部分裂させる計画があったかもしれません。サラージア国内のおよそ30%はトリアス教の信者だという話もありますし、我々と同じように平民優遇派を味方につければ共倒れを狙えます。】
・・・・・もしそういう計画であったとしたら天才じゃん。
【はい、相当な策士である事は間違いありません。】
それほどの奴がなんで宗教国家にいるんだか・・・・・・
【早速、状況を打開するための布石を打っておきましょう。】
ならこっちも仕返しに、宗教の内部分裂を狙うとかは?
ほら、異教徒はまだ改心するかもしれないけど、異端者は許さない、みたいな話あったじゃん。
【なるほど。一理ありますね、では私が思いついた作戦とマスターの作戦の同時進行でいきましょう。】
おっけー
✳︎
という話があったのだ。
これについて、俺は既にお母様と相談してあった。敵の真の狙いがサーマルディア王国の内部分裂かもしれないという話をすると、お母様はとても驚いていたが、いつも通り丁寧に説明すると、納得してくれた。そこで俺達は、2つの布石を撃つことにしたのだ。
「お話は理解できましたが、我々としても今は動ける状況ではありません。サラージア王国とは終戦ではなく停戦ですので、いつ攻めてくるかわからないのです。そんな中、教国側に兵士を回すとなると、ここシュヴェリーンを攻撃される可能性があります。念のため教国付近にも軍を配備してありますが、こちら側から攻勢を行う予定はありません。」
もちろん嘘である。王国から派遣された国防軍およそ4000弱を教国との国境付近に展開しているのは本当だが、仮に教国と全面戦争になってもシュヴェリーンやテラトスタに危険が及ぶわけがない。
もちろん本音は、教国と戦争したくないの一点である。
「やはり、そうですか・・・・・・」
まあ当然の反応であった。
おそらくギュスターさんも、頷いてくれるとは思っていなかっただろう。
1番困るのは、ハーンブルク家を敵に回す事だ。
自分達からした提案を、自分達の都合で、裏切った結果、ハーンブルク家からの信用を失っては元も子もない。
「ですが、何もしないわけではありません。」
「っ!!!」
お母様の言葉、ギュスターさんはいち早く反応した。
「それではレオルド、説明をお願いします。」
「はい、お母様。」
待ってましたと言わんばかりに立ち上がった俺は、説明を始めた。
________________________
どうでもいい話
今回、イレーナほぼ空気。
あ、それとお陰様で☆が1000を超えました。数字より内容を優先する、とか言っていた私ですが、素直に嬉しいです。
しかし、最後にもう1人、パーティーに参加したメンバーの中で最も重要な人物との会談が残っている。
日も沈み、ヘレナ様を彼女の寝室に送ったあとで最後の会談が始まった。
「それではそろそろ始めましょうか。」
「はい、わかりました。」
相手はもちろんイレーナの父親であり、サーマルディア王国の宰相であるギュスターさんだ。
ただ今回の話し合いではイレーナが向こう側ではなくこちら側に座った。
「ではまず私から、サラージア側の戦線に関しては口を出さないという約束でしたが、王国としてはトリアス戦線に参戦してほしいと考えおります。」
「それは、何故でしょうか。」
いきなりとんでもない発言がぶっ飛んできた。サッカー観戦中は、現状維持を目指すと言っていたが、おそらくこのままじゃ厳しいのだろう。
「理由は簡単で、トリアス戦線が膠着してしまったため、ハーンブルク領及び一部の地域を除くサーマルディア王国のほぼ全ての地域で人手不足となっているからです。」
考えてみれば、当たり前な話だ。
今回のトリアス戦線に投入されたサーマルディア王国軍の兵力はおよそ30万、それに対してハーンブルク領を除くサーマルディア王国の人口は200万、つまり人口の15%ほどが戦争に参加している事になる。
さらに、人口200万といってもその内のほとんどが武器を持った事のない農民で、丈夫な身体を持つ健康的な成人男性となると、ちょうど30万いるかいないか程度である。
半年近く戦争が続けば、こうなるのは当たり前だ。
「つまり、貴族の不満が爆発する前に戦争を終わらせたいという事ですか?」
「簡単に言えばそうなります。現在何とか戦線を維持できているのはハーンブルク領からの物資の補給があるからと言っても過言ではありません。」
王国側の本当の狙いとしては、今回の戦争で苦しい思いをしている貴族が反乱を起こさないために、ハーンブルク家の力を削いでおきたいと考えたのだろう。
つまり、反乱を起こす気力を失くそうという事だ。
「まずはトリアス教国と休戦するのが先ではないんですか?」
お母様は状況を理解し、適切に対応した。
「既に、休戦の提案は何度もしておりますが、教国からの提案はとても同意できるような物ではありませんでした。」
「そうですか。」
お母様は、特に驚きもせず流した。
実は、このような動きはある程度予測できた。何故なら数日前、似たような話をお母様としたからだ。
✳︎
「レオルド様、ひとつだけ妙な報告があります。」
サラージア王国との間に停戦条約が締結されてから十数日後、俺はSHSメンバーの1人から気になる報告を受けた。
「どうしたんだ?」
「はい、サラージア王国の敗北の情報は、トリアス教国中に伝わったはずですが、トリアス教国軍に動きが全くなかったのです。」
確かに変な話だ。
サラージア王国が敗北した以上、トリアス教国は二正面作戦を強いられる事になる。ならば、多少なりとも部隊を派遣してハーンブルク側の防御に回すはずだ。
しかし、そのような動きは一切見られないという。
どういう事なのか、この状況をアイはこう分析した。
【トリアス教国の真の狙いはサーマルディア王国の分断かもしれません。】
どういう事?
【国の団結力が高い教国では、宗教という土台があるので戦争が長期化しても反乱が起きる事はまずありません。しかし、王都から戦線までの距離が遠く、国土の広い王国では、戦争の長期化によって地方の貴族や国民に不満が溜まり反乱が起きる可能性が高かまります。】
でもトリアス教国って確か人口150万ほどしかいなかったよね。総人口の20%を兵士として駆り出した状態で半年は流石に厳しいんじゃない?
【その30万という兵力も実際はその半分程度しかいない可能性もあります。さらに、長期化する事を最初から狙って国境付近を流れる河の近くに畑を作り、最初から備えておけば十分戦えます。】
でもそれってハーンブルク側から攻められたら意味無くない?
【サーマルディア王国の軍部、もしくは参謀にトリアス教国と内通している人物がいる可能性があります。そしてさらに、サラージア王国も同じように内部分裂させる計画があったかもしれません。サラージア国内のおよそ30%はトリアス教の信者だという話もありますし、我々と同じように平民優遇派を味方につければ共倒れを狙えます。】
・・・・・もしそういう計画であったとしたら天才じゃん。
【はい、相当な策士である事は間違いありません。】
それほどの奴がなんで宗教国家にいるんだか・・・・・・
【早速、状況を打開するための布石を打っておきましょう。】
ならこっちも仕返しに、宗教の内部分裂を狙うとかは?
ほら、異教徒はまだ改心するかもしれないけど、異端者は許さない、みたいな話あったじゃん。
【なるほど。一理ありますね、では私が思いついた作戦とマスターの作戦の同時進行でいきましょう。】
おっけー
✳︎
という話があったのだ。
これについて、俺は既にお母様と相談してあった。敵の真の狙いがサーマルディア王国の内部分裂かもしれないという話をすると、お母様はとても驚いていたが、いつも通り丁寧に説明すると、納得してくれた。そこで俺達は、2つの布石を撃つことにしたのだ。
「お話は理解できましたが、我々としても今は動ける状況ではありません。サラージア王国とは終戦ではなく停戦ですので、いつ攻めてくるかわからないのです。そんな中、教国側に兵士を回すとなると、ここシュヴェリーンを攻撃される可能性があります。念のため教国付近にも軍を配備してありますが、こちら側から攻勢を行う予定はありません。」
もちろん嘘である。王国から派遣された国防軍およそ4000弱を教国との国境付近に展開しているのは本当だが、仮に教国と全面戦争になってもシュヴェリーンやテラトスタに危険が及ぶわけがない。
もちろん本音は、教国と戦争したくないの一点である。
「やはり、そうですか・・・・・・」
まあ当然の反応であった。
おそらくギュスターさんも、頷いてくれるとは思っていなかっただろう。
1番困るのは、ハーンブルク家を敵に回す事だ。
自分達からした提案を、自分達の都合で、裏切った結果、ハーンブルク家からの信用を失っては元も子もない。
「ですが、何もしないわけではありません。」
「っ!!!」
お母様の言葉、ギュスターさんはいち早く反応した。
「それではレオルド、説明をお願いします。」
「はい、お母様。」
待ってましたと言わんばかりに立ち上がった俺は、説明を始めた。
________________________
どうでもいい話
今回、イレーナほぼ空気。
あ、それとお陰様で☆が1000を超えました。数字より内容を優先する、とか言っていた私ですが、素直に嬉しいです。
15
お気に入りに追加
944
あなたにおすすめの小説
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる