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家族編

第4話 祖父

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「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。私も無事8歳になる事が出来ました。これからもどうぞよろしくお願いします。」



挨拶を考えろと言われたが、考えるのが面倒だったので1分で思い付いたやつを採用した。

まぁ内容がまともなら合格だろう。



サッカーのエキシビジョンマッチが終わり、興奮冷めやまぬ中、ハーンブルク家では俺の成人祝いが行われた。



この世界では、8歳になると成人として扱われる。理由は単純で、8歳になると一定確率で魔法式を発現するからだ。

同時に、結婚が可能になり、領民なら税金を納めなければならなくなる年齢だ。

ちなみにハーンブルク領では、土地の広さによって税金が決まる。昔は年齢によって税金が決まっていたらしいが、その仕組みをお母様が強引に変えたらしい。

それによって、ハーンブルク領内の領民達の多くは都市に住んでおり小さな村などはほとんどない。これも、お母様の政策だ。人と人との距離をできるだけ近くする事によって、犯罪防止効果や助け合いの心が芽生えるからだ。



「では皆さま、どうぞお楽しみ下さい。」



俺の隣に並んだお母様とともに、頭を下げる。

今日は、多くの人々がハーンブルク家の屋敷に集まった。ファリアお姉様やお父様はもちろん、ハーンブルク家に仕える家臣やその家族、3つの民間プロチームに関わった20個ほどの商会の支配人達、先程の試合で活躍した選抜メンバー合わせて30名、宰相とその部下数人など、全員合わせたら150人以上いる。



純粋に俺の誕生日を祝いに来た人もいれば、色々な有名人とコネを作るチャンスと考えている人もいるだろう。



そしてもちろん、俺にもお目当ての人がいた。



「やぁレオルド君、少し見ない間に大きくなったね。」



「はい、お爺様もお元気そうで。」



「そして隣のお方が、ヘレナ殿下ですか?」



「はい、レオルド様の婚約者となりました、ヘレナ・フォン・サーマルディアです。」



今日は、ヘレナ様の紹介も含めているので、ヘレナ様と一緒に回った。

俺のお目当ての人物というのは、俺の母方の祖父であるグランツさんだ。

ちなみに父方の祖父母は既に亡くなっている。

俺が生まれる前に病死したらしい。



グランツお爺様は、奥さんと一緒に商会を経営している。そして実は何回か、助けてもらってもいる。

大量の火薬を集めてくれたり、ナフサを輸入してくれたりしていて、先の戦争は、そのおかげで勝利したと言っても過言ではない。

他にも、芋や稲といった新しい食材をハーンブルク領に持ち込んでくれた。



食事のレパートリーが豊富になったのはすごくありがたい。



「そうかそうか、孫の顔が見れた時もこの上なく嬉しかったが、孫のお嫁さんの顔も見れ、しかもサーマルディア王国のお姫様だとは・・・・・・人生何が起きるかわからないな。」



グランツお爺様と会える機会はあまり多くない。手紙などでやりとりはしているものの、実際に会うのは5回目ぐらいだ。

彼の商会はシュヴェリーンを拠点にしているものの、世界中を飛び回り珍しいモノを仕入れてくる。そのため、ハーンブルク領内にいない事がほとんどだからだ。



「お爺様、大量の火薬やナフサを仕入れていただき、どうもありがとうございました。」



「可愛い孫の頼みだ、困った事があればいつでも言ってくれ。」



お爺様は、久しぶりに孫に会えた事が嬉しいのか、笑みを浮かべながらそう言った。



なんかお願いする事ある?



【例の件の調査を依頼しておいて下さい。サラージア戦線が片付いた場合の新たな市場になります。】



あーなるほどね、了解っと。



「では、ガラシオル帝国の情勢を探っていただけませんか?」



「ほぉ、面白い事を言うな。海の向こうの国の情報がどうして欲しいのだ?」



「武器と食料を売り込もうと思います。あの国はよく戦争をしているので、高く買ってくれるのでは、と。」



ガラシオル帝国というのはサーマルディア王国の南側、海を挟んだ向こうにある大国で戦争ばかりしている国だ。

ハーンブルク領としては、サラージア戦線が片付いた後の事を想定しておきたいところだからだ。

俺が提案すると、お爺様はニヤっと笑って了承してらくれた。



「いいだろう、ならば向こうとの商談がまとまったら輸送船を貸してくれないか?」



「わかりました。ただし、技術を漏洩するわけにはいかないのでSHSから数十名ほど派遣しますね。」



「ふっ、やはりわしの孫じゃ、頭の回転が速い。これからもエリナを支えてやってほしい。」



「わかりました、ありがとうございます。」



商談成立だ。新たな資源地帯を獲得したので石炭の備蓄には余裕がある。



その後も、俺は誕生日パーティーを楽しんだ。









「久しぶりだな、エリナ。元気にしているか。」



「はい、お父様。」



今回のパーティーに参加した要人達への挨拶回りを終えたエリナは、最後の人物に会うためにベランダに出た。



「けっこう。子育ての方も順調なようだな。」



グランツは、ハーンブルク領内で作ったワインを口にしながら言った。



「レオルドと話したのですか?」



「あぁ、あの子はすごい。いや、凄すぎる。アレでまだ8歳とは、とんでもない子を育てあげたな。」



「はい、母である私からみても、レオルドは異常です。先の戦争の結果は、既にご存知なのですよね。」



「あぁ、聞いているとも。わずか1万の兵力で8万を撃退し、領地を倍近く迄増やしたそうだな。」



「はい、詳しい内容は軍事機密なのでお父様といえど伝える事はできませんが、それは戦争の常識を変えるものでした。」



「うむ、とても気になるが、機密情報なら聞かないでおこう。」



グランツは、少し残念そうに答えた。

いくら父親とはいえど、ハーンブルク家の重要な情報をグランツに教えるわけにはいかないからだ。



「エリナよ、レオルド君が先程、わしに何をお願いしたか聞いたか?」



「い、いえ・・・・・・」



「新たな市場の開拓をお願いしてきた。」



グランツは、先程の会話を思い出しながら答えた。

そんな相談を受けていなかったエリナは、驚きの声をあげる。



「そ、そんな事をっ!」



「あぁ、もしかしたら、歴史に名を残す、英雄になるかもしれんな。いや、もう成り始めているかもしれん。」



8歳とは思えない落ち着いた物言いと、独特の雰囲気を纏った化け物を頭に浮かべながら呟いた。



彼の呟きは、活気の溢れる夜の街の方に消えていった。
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