36 / 90
軍事編
第8話 演習
しおりを挟む
宰相が王都へと帰った3日後、ハーンブルク家が所有する軍およそ8千の内のシュヴェリーン駐留部隊およそ2千とSHSによる合同軍事演習を行う事となった。シュヴェリーンの川を挟んだ北側にある通行禁止区域に指定されている軍事演習場の中で新兵器のお披露目を行う事となった。
「放てっ!」
SHSの将校の掛け声とともに、一斉に銃を発砲した。
いつか襲いかかるであろう外敵に対して、優位に立ち回れるように開発された1つ目の兵器は、銃である。
この世界にも、もちろん銃は存在する。火薬を用いて遠距離を攻撃できる銃は、戦争において重要な役割を担っているが、火薬の消費スピードが高い点や命中率が低い点、作るのに技術が必要で大量生産ができない点からあまり注目されていなかった。
使っていても、一部の精鋭部隊のみでサーマルディア王国軍でも全体の30万の兵力の内、鉄砲隊はわずか1000名である。
それに対して、ハーンブルク家では5000丁の銃を用意していた。
『アイ』によって、現在の技術力で量産可能な最高レベルの銃が作られた。ボルトアクション式の単発銃ではあるが、この世界の水準を考えると2世代ぐらい先を進んでいる兵器だ。弾丸の方も、少しずつ量産体制に入っていっている。
この銃の製造法については、蒸気機関と同様に最高レベルの機密情報に指定されており、製造法を全て知っているのは俺とお母様のみだ。
これをSHSに1000丁、軍部に4000丁渡し、それぞれ訓練を行う事となったのだ。銃の存在は知っていたものの、最新式の銃がこれ程までに発展していた事に、軍部の兵達の多くが驚いていた。
ちなみにここでいう軍部というのはハーンブルク家当主代理であるお母様直属の部隊の事を指し、国防軍はまだ到着していない。
50mほど離れた目標を、次々と穴だらけにしていくその銃の命中率はとてつもないものであった。
「最新式の銃の調子はどうですか?」
「はっ!正直、文句の付けようがございません。命中率、次弾装填までの速さ共に最高レベルであります!」
「実戦で使えそうですか?」
「はい!中遠距離であれば、この銃に敵う者はいないでしょう。これは、これまでの戦術を大きく変えるほどの兵器であります!」
「けっこうです、ではそれぞれ練習をして、命中率精度を高めて下さい。」
SHSの方は、開発にも携わっているので、何度か試し撃ちをしていたが、軍部の方は新型の銃が開発されたらしいという噂程度で、この銃を使った訓練は初めてであった。
そして、訓練に参加した全ての兵士がこの最新式の銃の凄さを肌で感じ取った。
俺とお母様は、少し離れた所から訓練の様子を視察していた。
予想していたよりも、銃の扱い方を学ぶスピードが速いな。
【ライフリングや照準がしっかりと付いているので命中率が高く、ボルトアクション式を採用しているので弾丸の装填が従来よりもずっと楽なはずです。】
よく量産体制できたよね、本当に尊敬するわ。
【ありがとうございます。】
『アイ』は何でもないようにそう応えたが、珍しく照れている感じがした。
そんな雑談をしていると、お母様が俺に話しかけてきた。
「よくやりました、レオルド。流石私の自慢の息子です。」
「ありがとうございます。」
お母様は、とても満足そうな顔をしていた。お母様の周りにいる軍部の将校達も、最新式の銃に満足している様子であった。
「ところで、戦術ドクトリンの共有などはもうしたのですか?」
戦術ドクトリンというのは、戦術のようなもので、例えば4人1小隊制を導入したり、中隊、大隊ごとに役割を与えたりする事もその内の1つだ。
この最新の戦術ドクトリンは、これまでの戦術を大きく変えるもので、今回演習の際に軍部に伝授しようと思っていたものだ。
「いえ、まだです。今回の演習で銃の有効性を知ってもらった後に伝授しようと考えております。」
「そうですか。文字通り、戦争の戦い方がガラッと変わるのですね。」
「はい、今回の戦争では、兵士と兵士が正面から殴り合うような機会が大きく減ると考えております。既に、SHSでは剣や槍を活用する機会を大幅に減少させております。」
「剣や槍を使わない戦争ですか・・・・・・」
俺とお母様の会話を聞いていた多くの軍人は、俺の発言に驚いた顔をしていた。
これまでの戦争といったら、互いに陣形組んで正面から殴り合うものばかりだ。それが一変するという話に驚きが隠せない。
すると、それまで黙っていた将校の1人が口を開いた。
「恐れながらレオルド様、本当に剣や槍を使う機会は減るのでしょうか。私にはどうも、そのような未来が見えないのですが・・・・・・」
「剣や槍を持った兵士では、銃を持った部隊に近づく事がほぼ不可能になります。例えば銃を持った兵士100名と槍を持った兵士100名の兵士が対戦する場合、弾薬が尽きないかぎり、槍を持った兵士が勝つ可能性はほぼ0です。槍を使った兵士が攻撃可能な距離に接近するよりも断然早く、撃たれます。これは、たとえ1万人の兵士がいたとしても同じです。」
「なるほど、たしかにわざわざ接近して剣を振るうよりも、遠くから銃を撃った方が断然強いですね。」
「では、軍部側の将校も集まってきた事だし、講義を始めよう。」
「「「よろしくお願いします」」」
そして俺は、軍部の将校達に2時間に渡る講義を行った。銃を使った本格的な戦争の仕方から、行軍の仕方や野営の仕方など色々な事を伝授した。
敵が戦争の準備をしているというのに、こんなにゆっくりでいいのかよって思ったが、俺はこの世界の行軍速度の遅さを舐めていた。
サラージア王国の王都からハーンブルク領まで最短で1ヶ月、行軍となるとその2倍ほどの時間がかかる。
つまり、サラージア王国が攻めて来るのは早くても2ヶ月後の筈だ。
その間、ゆっくりと準備をし、最高の結果になるように頑張ろうと誓った。
__________________________________________
どうでもいい話
楽しんでいただけると嬉しいです
「放てっ!」
SHSの将校の掛け声とともに、一斉に銃を発砲した。
いつか襲いかかるであろう外敵に対して、優位に立ち回れるように開発された1つ目の兵器は、銃である。
この世界にも、もちろん銃は存在する。火薬を用いて遠距離を攻撃できる銃は、戦争において重要な役割を担っているが、火薬の消費スピードが高い点や命中率が低い点、作るのに技術が必要で大量生産ができない点からあまり注目されていなかった。
使っていても、一部の精鋭部隊のみでサーマルディア王国軍でも全体の30万の兵力の内、鉄砲隊はわずか1000名である。
それに対して、ハーンブルク家では5000丁の銃を用意していた。
『アイ』によって、現在の技術力で量産可能な最高レベルの銃が作られた。ボルトアクション式の単発銃ではあるが、この世界の水準を考えると2世代ぐらい先を進んでいる兵器だ。弾丸の方も、少しずつ量産体制に入っていっている。
この銃の製造法については、蒸気機関と同様に最高レベルの機密情報に指定されており、製造法を全て知っているのは俺とお母様のみだ。
これをSHSに1000丁、軍部に4000丁渡し、それぞれ訓練を行う事となったのだ。銃の存在は知っていたものの、最新式の銃がこれ程までに発展していた事に、軍部の兵達の多くが驚いていた。
ちなみにここでいう軍部というのはハーンブルク家当主代理であるお母様直属の部隊の事を指し、国防軍はまだ到着していない。
50mほど離れた目標を、次々と穴だらけにしていくその銃の命中率はとてつもないものであった。
「最新式の銃の調子はどうですか?」
「はっ!正直、文句の付けようがございません。命中率、次弾装填までの速さ共に最高レベルであります!」
「実戦で使えそうですか?」
「はい!中遠距離であれば、この銃に敵う者はいないでしょう。これは、これまでの戦術を大きく変えるほどの兵器であります!」
「けっこうです、ではそれぞれ練習をして、命中率精度を高めて下さい。」
SHSの方は、開発にも携わっているので、何度か試し撃ちをしていたが、軍部の方は新型の銃が開発されたらしいという噂程度で、この銃を使った訓練は初めてであった。
そして、訓練に参加した全ての兵士がこの最新式の銃の凄さを肌で感じ取った。
俺とお母様は、少し離れた所から訓練の様子を視察していた。
予想していたよりも、銃の扱い方を学ぶスピードが速いな。
【ライフリングや照準がしっかりと付いているので命中率が高く、ボルトアクション式を採用しているので弾丸の装填が従来よりもずっと楽なはずです。】
よく量産体制できたよね、本当に尊敬するわ。
【ありがとうございます。】
『アイ』は何でもないようにそう応えたが、珍しく照れている感じがした。
そんな雑談をしていると、お母様が俺に話しかけてきた。
「よくやりました、レオルド。流石私の自慢の息子です。」
「ありがとうございます。」
お母様は、とても満足そうな顔をしていた。お母様の周りにいる軍部の将校達も、最新式の銃に満足している様子であった。
「ところで、戦術ドクトリンの共有などはもうしたのですか?」
戦術ドクトリンというのは、戦術のようなもので、例えば4人1小隊制を導入したり、中隊、大隊ごとに役割を与えたりする事もその内の1つだ。
この最新の戦術ドクトリンは、これまでの戦術を大きく変えるもので、今回演習の際に軍部に伝授しようと思っていたものだ。
「いえ、まだです。今回の演習で銃の有効性を知ってもらった後に伝授しようと考えております。」
「そうですか。文字通り、戦争の戦い方がガラッと変わるのですね。」
「はい、今回の戦争では、兵士と兵士が正面から殴り合うような機会が大きく減ると考えております。既に、SHSでは剣や槍を活用する機会を大幅に減少させております。」
「剣や槍を使わない戦争ですか・・・・・・」
俺とお母様の会話を聞いていた多くの軍人は、俺の発言に驚いた顔をしていた。
これまでの戦争といったら、互いに陣形組んで正面から殴り合うものばかりだ。それが一変するという話に驚きが隠せない。
すると、それまで黙っていた将校の1人が口を開いた。
「恐れながらレオルド様、本当に剣や槍を使う機会は減るのでしょうか。私にはどうも、そのような未来が見えないのですが・・・・・・」
「剣や槍を持った兵士では、銃を持った部隊に近づく事がほぼ不可能になります。例えば銃を持った兵士100名と槍を持った兵士100名の兵士が対戦する場合、弾薬が尽きないかぎり、槍を持った兵士が勝つ可能性はほぼ0です。槍を使った兵士が攻撃可能な距離に接近するよりも断然早く、撃たれます。これは、たとえ1万人の兵士がいたとしても同じです。」
「なるほど、たしかにわざわざ接近して剣を振るうよりも、遠くから銃を撃った方が断然強いですね。」
「では、軍部側の将校も集まってきた事だし、講義を始めよう。」
「「「よろしくお願いします」」」
そして俺は、軍部の将校達に2時間に渡る講義を行った。銃を使った本格的な戦争の仕方から、行軍の仕方や野営の仕方など色々な事を伝授した。
敵が戦争の準備をしているというのに、こんなにゆっくりでいいのかよって思ったが、俺はこの世界の行軍速度の遅さを舐めていた。
サラージア王国の王都からハーンブルク領まで最短で1ヶ月、行軍となるとその2倍ほどの時間がかかる。
つまり、サラージア王国が攻めて来るのは早くても2ヶ月後の筈だ。
その間、ゆっくりと準備をし、最高の結果になるように頑張ろうと誓った。
__________________________________________
どうでもいい話
楽しんでいただけると嬉しいです
3
お気に入りに追加
941
あなたにおすすめの小説
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
引きこもりが乙女ゲームに転生したら
おもち
ファンタジー
小中学校で信頼していた人々に裏切られ
すっかり引きこもりになってしまった
女子高生マナ
ある日目が覚めると大好きだった乙女ゲームの世界に転生していて⁉︎
心機一転「こんどこそ明るい人生を!」と意気込むものの‥
転生したキャラが思いもよらぬ人物で--
「前世であったことに比べればなんとかなる!」前世で培った強すぎるメンタルで
男装して乙女ゲームの物語無視して突き進む
これは人を信じることを諦めた少女
の突飛な行動でまわりを巻き込み愛されていく物語
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!
るっち
ファンタジー
土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる