上 下
27 / 90
国内編

第27話 side エリナ

しおりを挟む
少し長めです。



_________________________



私は今日、すごい物を見た。



私の愛する息子であるレオルドは少し、いやだいぶ異常だ。もちろん悪い意味ではない、いい意味で常人とはかけ離れた想像力と創造力を持っている。



赤ちゃんの頃から、上の2人の姉とは一味違った。とにかく成長速度が早く、すぐに共通語を話せるようになった。

そして、小さな物から大きな物まで、数々の常識を覆すような発明を繰り返していた。

製鉄技術や蒸気機関は言うに及ばず、研究機関や海上貿易の独占など、幅広い分野でその才能を発揮していた。中でも私が評価しているのは、共通の時刻の設定である。あまり気にしていなかっただけあって、この存在はあまりにも大きい。時間のズレが少なくなった事によって、どれほど効率化された事か、まだ時計の数は少ないが、同時に開発された砂時計と共に、早くも役に立っている。



そして今度は、ハーンブルク領を代表するような領民の娯楽を作り上げた。

レオルドが作ったこのサッカーと呼ばれるスポーツ、この影響力は凄まじいものであった。

2つの巨大なサッカースタジアムの建設の許可を出した私が言うのも何だが、許可を出した当時はあまり成功するとは思えなかった。私もレオルドに薦められてサッカーをやってみたが、これが結構難しく中々上手く出来なかった。丸いボールなはずなのに、右へ左へとそれてしまい、最初のうちは真っ直ぐ蹴る事すらできなかった。そのため正直、領民の間で流行る事はないだろうと思っていた。失敗するのも経験のうちだ、と軽い気持で許可したが、結果は私の予想を大きく上回った。



結果は文句なしの大成功。1番最初に、お試し程度で使ったサッカー場には、毎日多くの子供達が訪れ、一生懸命にボールを追っていた。休日は親子でサッカーを楽しむ姿を見る事も増えた。

次第にサッカー場の数も増えていき、その勢いは止まらなくなっていった。同時に需要が急増したサッカーボールの売り上げも止まる事を知らない。正直それだけで、サッカースタジアム建設の元は取れていた。

そして、レオルドが次に行ったのはサッカーチームの設立である。ある日の夕方、訪ねて来たレオルドにこんな事を相談された。



「お母様、サッカーチームを2チーム作ろうと思います。」



「サッカーチームですか?」



「はい、子供兵舎にいる子の中から特に上手い28人を選んでチームを作ります。そして、その2チームで本物のサッカーの試合を行う予定です。」



レオルドの意見を聞きながら、私は頭の中で情報を整理する。確かにレオルドは、サッカーの事を競技だと言っていた。という事は、サッカーの本来の遊び方は、大勢でボールを追いかけ回すのではなく、別の遊び方があるのではないかと考えた。

そしてそれが、サッカー場を作るときに、その大きさを厳しく設定した事に何か繋がりがあるのではないか、と予想した。



「先日新設されたサッカースタジアムで試合を行うという事ですか?」



「はいそうです、大々的に公表して領民から観客を集い、入場費や飲食費によって利益を得るという計画です。」



『試合』と言われて、私は剣術の大会のような物を想像した。王都で開催される剣術を競い合う大会で、毎年多くの有名な貴族や騎士が参加するやつだ。

貴族夫人であるとはいえ平民出身の私は、夫が参加した大会を2、3度見たことある程度で詳しい内容などは知らない。

ただアレは、貴族と騎士及びその家族限定で、平民の出場及び観戦は出来ないルールになっている。

それを、領民向けに開催するという事だろうか。

その瞬間、私の中で全てが繋がった。レオルドは最初からこれが目的であったのだ。領民の心を掴み取り、サッカーに熱中させたところで、サッカーの試合を見せさらにその人気を加速させるという事だ。



「だいたいやりたい事がわかりました。人選はレオルドに任せます、私はサッカーの試合を行う際の警備や周囲の貴族への対応について考えます。」



他の貴族との外交などは、レオルドはまだ経験が無いので、私が担当する事にする。

しかし、肝心の集客の部分などは私よりレオルドの方が適任だろう。



「ありがとうございます、早速話を進めようと思います。」



「他にもやってほしい事があれば対応しますが、何かありますか?」



「では1つ、商店や飲食店をスタジアムの周りに集めて下さい。」



飲食店?なるほど、観客に買ってもらうつもりですか。



「観戦に来た領民が周囲の売店でお金を落とす事を期待する作戦ですか。わかりました、私の方で調節します。」



「ありがとうございます!」



「頑張って下さい、レオルド。」



「はい、お母様っ!」



そういうと、レオルドは笑顔で私の部屋を後にした。そして私も、どういう物になるのか楽しみで仕方がなかった。




✳︎




そして、月日が流れ試合当日となった。

私は私の子供であるユリウス、ファリアとヘレナ様とその護衛を連れて、スタジアムにやって来た。

選手が座っているベンチのちょうど真上あたりに特別に作るように命じた特別観覧席に座る。

私たちは、試合開始の30分ほど前に到着がすでにスタジアムはほぼ満席であった。



「人がいっぱいだね、お母様。」



「そうですね、チケットが完売した時からこうなる事は予想していましたが、すごい人数です。」



しばらく経ち、いよいよ試合が始まった。

私からみて右側にレオルドが監督を務めるRSW、左側にイレーナさんが監督を務めるFCTがそれぞれ人を貼る。

レオルドが用意したと思われるユニフォームを着て、早くも盛り上がりを見せていた。



そして会場全体の空気がガラッと変わったのはRSWのキャプテンを務めるアンさんが、豪快なシュートを決めた時であった。

先ほどまでとは比べものにならないほど大きな大声援が、スタジアムを沸かせた。

はっきり言って私も領民達と同じ気持ちであった。

この一発のゴールによって言葉では言い表せない感動を味わった。

やがてチームの応援に段々と一体感が生まれた。レオルドの用意したタオルを掲げ、レオルドが用意した旗を振り、レオルドが用意した応援歌を歌う。

いつのまにか作られていた楽器が、大きな音を出しながら会場を盛り上げた。

そしてこれは、RSWだけではない。同じような動きがFCTの方にも顕著に現れた。

私も途中からRSWを応援するようになり、ヘレナ様もRSW、ユリウスとファリアはFCTを応援していた。



一度は追いつかれたものの、試合終了直前に、華麗なドリブルで3人の敵プレイヤーを抜いたRSWのアンさんが、決勝点を決め試合は幕を下ろした。



領民達同様、私も終始ずっと興奮しっぱなしであった。

勝利が決まった直後なんか、感動で泣きそうであった。周りを見渡してみると、多く領民達も同じように感動して泣いている人が何人もいた。



そして、サッカーの影響は、試合の応援グッズの完売だけではなかった。これは後から調べてみてわかった事だが、その日の飲食店や宿の収益が倍増していた。

おそらくここまでレオルドは計算していたのだろう。



私は、我が息子ながら恐ろしさに戦慄するとともに、将来がより一層楽しみになった。



____________________________________________



どうでもいい話



第1章はこれで終わりです。

いかがだったでしょうか。各キャラクターへあまりスポットが当たらなかった今回ですが、第2章からはヒロイン達にもスポットを当てようと考えております。

お楽しみに~
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―

北京犬(英)
ファンタジー
第一章改稿版に差し替中。 暫く繋がりがおかしくなりますが、ご容赦ください。(2020.10.31) 第四章完結。第五章に入りました。 追加タグ:愛犬がチート、モフモフ、農業、奴隷、少しコメディ寄り、時々シリアス、ほのぼの  愛犬のチワワと共に異世界転生した佐々木蔵人(ささき くらんど)が、愛犬プチのユニークスキル”ここ掘れわんわん”に助けられて異世界でスローライフを満喫しようとします。 しかし転生して降り立った場所は魔物が蔓延る秘境の森。 蔵人の基本レベルは1で、持っているスキルも初期スキルのLv.1のみ。 ある日、プチの”ここ掘れわんわん”によりチート能力を得てしまいます。 しかし蔵人は自身のイメージ力の問題でチート能力を使いこなせません。 思い付きで農場をチート改造して生活に困らなくなり、奴隷を買い、なぜか全員が嫁になってハーレム生活を開始。 そして塒(ねぐら)として確保した遺跡が……。大きな陰謀に巻き込まれてしまいます。 前途多難な異世界生活を愛犬や嫁達と共に生き延びて、望みのスローライフを送れるのだろうかという物語です。 基本、生産チートでほのぼの生活が主体――のはずだったのですが、陸上戦艦の艦隊戦や戦争描写が増えています。 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。改稿版はカクヨム最新。

料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)

三園 七詩
ファンタジー
りこは気がつくと森の中にいた。 なぜ自分がそこにいたのか、ここが何処なのか何も覚えていなかった。 覚えているのは自分が「りこ」と言う名前だと言うこととと自分がいたのはこんな森では無いと言うことだけ。 他の記憶はぽっかりと抜けていた。 とりあえず誰か人がいるところに…と動こうとすると自分の体が小さいことに気がついた。 「あれ?自分ってこんなに小さかったっけ?」 思い出そうとするが頭が痛くなりそれ以上考えるなと言われているようだった。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

処理中です...