名探偵ミツコ

研田千響

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第三話

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 小学生たちの元気な通行の挨拶の声で目が覚める。いつも通りの朝。おんちゃんは既に出勤済みの模様。忙しいから朝は作らなくていいと言っているがいつもマメに小洒落た料理を拵えれくれる。
今日はムール貝の塩焼きソバ。朝だがきっちり胃袋は食欲を示した。
テレビのリモコンを手に取り電源を入れる。何気無くチャンネルを変えていると、ふと気になるニュースが映し出されていた。
『昨日午後七時頃、××通り付近でひったくりが発生しました。付近の住民には怪我がなかったものの、被害者は二十代女性でお金の入ったハンドバックを奪われたようです。ひったくり犯はいまだに逃亡中、警察は現在捜査中のようです。証言により加害者は十代から二十代の男性だと思われ中肉中背だそうです』
嗚呼、昨日のあれか。どうなったかとそこまで気にしていなかったが、かなりの腕前のようだ。真逆金があるとは思わなかっただろう。しかし腕は良くてもその上を行くのが日本の警察。必ずその首根っこを掴むだろう。
さて、仕事探しでもするか。家で。
拾ってきたタウンワークやハローワークの雑誌を片っ端から広げていく。と言っても広げて眺めてページを捲り捲り。時間は刻々過ぎていき、段々眠気が襲って来だす。将棋でもするか。スマホに入れているゲーム類で時間が潰れる。リビングの短足机でのんびりダラダラと過ごしていたら、あっという間にお昼の時間になった。
ただただ部屋が散乱して終わった。本当に、それだけだった。
毎日が無意味な気がする。しかし死ぬことは絶対に考えない。ふわふわふわふわ自分がどこを彷徨っているのか、歩いているのか、それだけがわからなくなって行って。
生きているんじゃない、死んでいないだけ。この言葉こそが自分を表していると心の底から思う。しかし脱力状態、心もニート、しまいにゃ脳死で人生ぶらり。
暖花の昼食の時間は割と遅い。大体みんなのお昼休みが終わった頃合いを見計らって食べ物を頬張る。
今日は何にしようか。精一杯その文字を脳内で反芻し冷蔵庫迄這っていく。
白い大きなデカブツに手を掛け思いっきり冷気を解放する。
だが。
そこには本来あるべきものがなかった。
「食べ物が、無い、、、」
野菜室も冷凍室も貝並べられた調味料以外は何も存在しなかった。綺麗な空っぽ。
「まるで私みたいだね」とは言ってられない。
「嗚呼、そっかああああああ、、。そう言えばおんちゃん、そんな感じのこと前に言ってたな、、」
『もうすぐ食材切れちゃいそうだから、買い足しておいてね。いつでもいいけど、切らしっぱなしはダメだよ』
彼女の凜とした声が耳に響く。
こうなれば今日の午後の仕事はそれに決まり。
買い足しに行く。
たったそれだけのことではありのだが、暖花は楽しそうに足取りを軽くした。


生活力皆無の彼女だが、作れる料理が二つだけ存在した。
焼きそばとラーメン。だがどちらもインスタント。
今迄は集君が腕を振るってくれていたがなんだか味気ない食事になってしまった。
久々にコスモスに入店し麺類のコーナーに足を運んだ。
するとそこに別世界からワープしたのではと目を疑うほどの美少女が、真剣な眼差しで値段を精査していた。
「あかん、、、今月は学校の行事で使いすぎたから出来るだけ安くせんと、、でもこの量じゃ食べれんし残すんも勿体無いし、、、」
地面につくまでの黒い長髪、狩衣を彷彿させる和テイストな服装、柔らかな関西弁。
おんちゃんのタイプだな、、、。
見惚れていては失礼だと思い隣に進み焼きそばの麺を取る。少女はそれに気づかずにぶつぶつと独り言を繰り返しているのであった。
「え。また殺された?」
独り言に混じって、そんな一言が聞こえた。
物騒なワードだったので思わず反射してしまう。
少女は以外にもそれに気づかず冷や汗をかいている。
「うん、うん、、、、。カイさんが?あの人、立派な人やったんに、、、」
目がぐるぐる回っている。相当パニックでいるようで呼吸が荒くなっているのも感じられる。だが声をかけていいものか。迷ってしまう暖花だった。
「×△町の5番地、、、、。分かった、今直ぐ行く」
カゴがどさっと音をたて地面に落ちた。何かに取り憑かれたように少女は真っ直ぐ走り出した。周囲の人々もどうしたものかと疑問符を頭につけていたが、それは一瞬で、次の瞬間には今日の夕飯何しようと同じことを考えていた。
暖花を除いては。

少女が口にした番地の名前は直ぐに分かった。少女の跡をつけ後から「なんなのおばさん」なんて言われたら若干傷つくので少しだけ後にしてから店を出た。比較的コスモスから近い場所だったので走らないで大丈夫だった。
足を運んでみると、そこには黄色い警察が持っているテープが空間を区切っていた。
殺されたというのは本当だったんだ。
その事実に目を見開き、少女の姿を探してみる。
居た。それも大粒の涙を流して。
横にはかつての同僚鶴望(つるみ)心人(あいと)が懸命に慰めていた。
アイトは暖花とも仲が良かった方で、集君と付き合うことになった時も真っ先に彼に話したのだ。優しいし気丈だし、だから優柔不断で先輩刑事からはどやされることも多々あったけれどいいやつだった。
「アイト」
久しぶりに声をかける。
すると昔と同じように、とまでは行かないが、はにかみながら「こんにちは」と頭を下げてくれた。
「彼女どしたん?」
目線で少女を指す。
「、、、事件現場にさっき来て、遺体の顔を見た瞬間泣き出しちゃって、、、」
「うう、うう、、、、、カイさん、カイさん、、、」
「カイさん?その人があの人の名前でいいのかな?」
どうやら身元確認ができていないらしい。
「うう、はい、、でも、あの人が、、何故、、」
「本名は?そんな懺悔はいいから早く喋って」
「南郷先輩!!」
暖花は事件のことになると普段のおっとりモードから逸脱する。だがそれは時には切れるナイフのように周りをグサグサ突き刺して行く。
「、、、、うう、、、玉蟲可偉(タマムシカイ)、です、、」
聞いたこともないような苗字と少女の服装が神社仏閣を想像させる。
「玉蟲さんのお知り合い?住所とか色々、署の方で聞かせてもらえないかな」
宥めるように笑顔をアイト。少女は急に冷静さを取り戻し言葉を発した。
「、、、、、可偉さんは、私の兄さんです、」
「そっか、お兄さんか、、それはショックだったね、、」
立ち上がり始める少女と車に乗せようとするアイト。すると少女は暖花をじっと見つめ驚くべき事実を言った。
「でも、貴方が思っている兄弟ではありません。私は養子です」
その瞳は真っ直ぐ暖花を捉えていた。

携帯のバイブ音が鳴る。画面をみると「アイト」の文字。
短い文面と共に送られてきた一つのメール。
『飲みに行きましょう。直ぐそこに隠れているのは分かってるんですよ』
「、、、バレたか」
前方をみるとアイトの姿があった。

「結構複雑です、今回の事件は」
居酒屋の個室に着くなり、アイトは暖花の唇を吸い取った。暖花はなんとも思っていなかった。これが今回の交渉に使ったものだからだ。
私が体を払う代わりに、事件の情報を教えてほしい。
アイトはハルミのことが好きだった。警視庁に入庁してから手取り足取り何もかもを教えてもらっていたアイトはそんなハルミに恋をした。だが告白する前にハルミは他の男のものになってしまった。失恋の音は今でも覚えている。
ハルミの服を脱がさせ乳房に手をやる。
当の本人は全く興奮しているように見えなかった。
「何が複雑なのか教えて頂戴」
「玉蟲家は代々の陰陽師だとあの少女は言い出したんです。あ、あの少女の名前は玉蟲優凪(タマムシヤサナギ)というのですけど、、。しかし戸籍をいくら探しても玉蟲家なんて存在しないしヤサナギも存在しないんです。、、、、感じてますか?」
乳首を触られるが何にも感じない。今は事件のことが気になってしょうがないようだ。
「うん、続けて」
無国籍児だろうか。だがそれならきっと警察にはきていないだろう。
「でも学校には通っていたようです。中学校も卒業して高校に進学しようかと思ったけれど、血筋的に自分は陰陽師の玉蟲家の養子に入らないといけないらしく。それで玉蟲家に入り、そこで授かった名前は優凪だと。前の名前はとっくに捨て既に覚えていないとも言ってました」
アイトは自分のズボンを下ろしハルミの膣を探る。
「最近玉蟲家の本家養子関わらず人が立て続けに死んでおり、十人いた後継者が既に六人まで減っていると嘆いていました。玉蟲甘夏、玉蟲夢野太郎、玉蟲信義、玉蟲かかり美、玉蟲可偉。この4人、、、全員男なんですけど、、、はぁ、、きつい、ですね、、、」
はるみを寝かせ挿入する。本人は興奮して頰が紅潮している。
ここは少しサービスでもしておくか。真顔ですると今度からは断られるかもしれないし。
「うん、そうだね、きついね、、」
棒読みだがアイトは嬉しかったらしく話を続ける。
「だけど、4人も殺されていないんです、最近。それでそんな事件僕は知らないよって答えたら、埋葬は玉蟲家が終わらせたと言われ、、。まあ色々法律にあたるんですけれど、それは置いといて話を続けたら、これは絶対アイツらの仕業だと言い始めたんです。敵対する陰陽師の血を引く陰陽師家の伊盧李(イロリ)家だって、、」
そこまで言うとアイトは動き始めた。ハルミの体を気遣わず、兎に角激しく出し入れした。
ハルミは事件の全容が聞けて絶頂だった。行為の後寝込んだアイトのことなど知らず、たらふく注文してハルミは帰った。

「ふうん、ちゃんとした血筋があるようね」
帰宅後、カップラーメンを作りパソコンを開きながら頬杖をつくハルミ。
玉蟲家の苗字を検索するだけで、かなりの情報が出てきた。
先ずは安倍晴明のライバルであった蘆屋道満の子孫の養子から派生していった陰陽師で、今でも陰陽術を生業として生きる珍しい血筋だそう。ただ、本家の場所は知られておらず政界や芸能界などが密かに頼る存在として知られている。流石に優凪の情報は出てこなかった。
続いて伊盧李家のことも検索する。すると先ず真っ先にホームページらしきものが現れた。玉蟲家とは異なり、こちらは一般人を相手に続けているようだ。だが値段はそうそう簡単に手が出せるものではなく、これもまた政界等等金持ち相手だと言うことがわかった。ホムペには、陰陽師紹介ページがあり、そこをクリックすると五人の陰陽師を見ることができた。玉蟲家の殺された方々は後継者ということで未だ陰陽師として働いてはいなかったのだろうか。それはわからないが、伊盧李家の紹介ページに載っている人たちは陰陽師で、後継者は後十人いると書いてあった。
「さて、どうやって調べるかね」
ネットを使って調べられた情報はここまで。後は地道に話を聞くなり聞き込みするなり収集していく。
だがとても一般人が手を出せる相手ではないとわかったし、両家の居場所もわからない。ただ、こういうことに詳しそうな知り合いが1人だけ心当たりがいた。
もうすぐ帰ってくるはずなのだが、、、、。
「ただいまー」
南郷円架。警視庁公安部に所属するハルミの実妹。
「おんちゃん!聞きたいことがあるんだけど、今、ちょっといい??」
疲労を声に滲ませながら帰ってきたオンカに対し何も考えず喋ってしまう。
機嫌が悪かったら「知るか!」、機嫌がよかったら「ここだけの話やで」。
さあどちらがくるのだろうか。
「、、、まあ、いいよ、、絶対秘密やけんな」
よかった、ここで怒号が飛んだら数日は話しかけれなかった。嬉々とした表情で夕食(カップラーメン)を取り出し、オンカを座らせた。
「あのさ、玉蟲家って知ってる?」
苦虫を噛み潰したようにオンカは「なぁんでアイツらのこと知ってんだか、、、」とため息を吐いた。
「知ってるよ、こっちがずっと前からマークしてる。テロとか反社会勢力とかじゃないよ。ただ、危ない思想なんだ」
公安からマークされるなんてよっぽどのことがない限りされるはずがない。
思想、か。確かにそういうのが、あの事件以来危険視されてマークされるようになった。
「でも、居場所っていうか、本家の場所とかわからないんでしょ?それにそんなに人いないんじゃない?その思想に憧れて入門、とかならんやろうし」
「、、、、、それがずるいんだよ。場所って案外みんなわかってるもんだぜ。ネットの掲示板とか、、、でもダークウェブだけど、そういうところには全然書かれてる。それに口コミでもわかるらしい。ねえ、もし、、、そうだなぁ、ハルミちゃんがとてもとても嫌なことがあって死んでしまいたいっていう気分になった時、近所で若干親しい人から『秘密であまり知られていない神様のお使い様がいて、その人がどんな邪気でも払ってくれるんだけど、行って見たら?』なんて言われたらどうする?」
普通だったら行かない。てか、そこまで落ち込むことがあればその元凶を滅する。
だがおんちゃんはそんな答えを求めているわけではない。
「、、、、行ってしまう?」
「そう、自分だけが知っているというお得感に騙されてみんなコロッと行っちゃうんだよ。玉蟲家は宗教じゃない。確かに陰陽術もやってはいる。だがそれだけで今の世の中食べていけるわけじゃないよ。大きな収入源はその入ってきた一般人、、、、彼らの言葉では修験者なんていうそうだが、そいつらから巻き上げていく金で生きてんだよ」
「修験者たちは何をするの?」
「それがそっちは宗教っぽいことなんだ。一日中お祈りしたり読経したり?詳しいことはわかってないけどそんなとこ。それでお金が払える人間には甘言を沢山与える。お前は玉蟲家の養子の養子だと。だけど養子の容姿ともなると全然関係ない赤の他人だよな。それでもその自分は特別感を忘れられずずっとそこにいるんだって」
「、、、でもお金を払えなくなった人とか絶対いるよね。そんな人たちはどうなるの?」
すると今迄穏やかに話してくれていたオンカが急に机をバンっと叩いた。怒りに身を任せ、という一言も添えて。
「そ、れ、が!!!!!わかってないんだよ!!!!!!!ただの宗教で未だに何も問題は起こしてない。だけどお金が払えなくなった人たちの末路がわからないもんでこっちはマークしてんだ!」
悔しい~と漫画の吹き出しが出てきそうな勢いで頭をくしゃくしゃするオンカ。
それを横目にハルミは黙々と考えていた。
「ねえ」
不敵な笑みでオンカを覗いたハルミ。
あ、こいつ今一番やばいこと考えてるな、とオンカは感じてしまった。
「その人たちがどうなったか、知りたくない?」
「やめて。一般人は巻き込めない」
「何でも屋さんでっせ」
「そんなの関係ない」
「ふうん、今の情報ネットに流していいんだ?」
「それはダメです」
オンカはこいつに話したのが間違いだったと言わんばかりに頭をテーブルにぶつける。
「なんかあったらすぐ戻ってきて、、、。危険な目には遭わないでね」
近くにあった付箋に住所を書いて手渡した。




「近くで見ると、大きいなぁ」
翌日、朝日が登る前に電車を乗り継ぎ東京の郊外の山奥に足を踏み入れた。
「あら、何か御用ですか」
箒を片手に微笑むかけてくれた長髪の男性。
「あ、私、、、」
『いいな、玄関で何か聞かれたら友人の紹介で、とだけ言っておけ。下手に内部事情知っっているやつと思われたらどうなるかわからん』
「友人の紹介でここに来ました、、」
すると男性は「まあ!」と嬉しそうな声をあげる。服装からしても下の階級にいそうな人間だった。白い袈裟を着ていた。
「ではどうぞ入ってください!修験者、ですかね?」
『修験者という言葉は内部の隠語で外の世界には漏れてない。だから話からに風を装え』
「えっとぉ、、、修行しに来たというか、出家というか??多分それですかね?」
すると男の目尻がどんどん下がっていった。多分これで内部事情を知っている人だとか敵だとかを判断しているのかもしれない。
「嗚呼、そうでしたそうでした、修験者という言葉はこの敷地内で使うものでして、、、。では修験者希望なのですね?」
「あ、はい。そうです」
箒を地面に置き、ハルミの肩を触りながら大きな木の扉を鍵で開け招き入れる。
少しだけゾッとした。

「これはこれは、どうも来てくださいました!我々玉蟲の新しい家族として迎えます。お名前を教えてくれませんか?」
何もない畳の部屋に案内され、そこで当主と思わしき人物との接触に成功した。かなり広く大広間とも呼ばれるだけあって、一面が畳で、そこにハルミと当主、、、玉蟲蜜柑船、さっきの修験者が同席していた。
『本名は教えるな。一応警察の上層部と付き合いがある噂もある。そこから姉ちゃんの家族構成調べられたら一発で終わるから』
「佐藤生明(サトウアザミ)です」
「生明さんね!しかし生明さんは今日からもう玉蟲の一族です。なので玉蟲の名を授けます。今日からその名前で生活してください。いいですね?」
細い目で笑う蜜柑船は同意を求める。
はい、と返事するほかなく、私はその後をまった。
「では、、、おい破戸、筆と紙を持って参りなさい」
修験者は短く礼をし、部屋から出た。
「生明さんはどうしてここに来たのかな?」
勿論これは病まないといけない。事前にかなり考えたので。俯きながら暗い声で滔滔と話し始めた。
「実は、、、恋人が、殺されて、、、。何かの殺人事件に巻き込まれた、とかじゃなく、それも警察は処理してくれなくて、、、、。怒りどころか悲しみで毎日何もできず生きてない、死んでいないだけの状態が毎日続き会社も解雇、そこでろくな物も食べないで歩き回ってたらここを教えてもらったんです、、、」
ちらりと蜜柑船の反応を見る。
その目は今にも泣きそうだった。
嗚呼、これで沢山の人間が落ちたんだなと感じさせた。
「当主様、お持ちしました」
修験者が和紙と筆を丁重に持ってきて、ご苦労さん、と蜜柑船は言った。
「さて、、、では貴女の名前は、、、玉蟲宇沙梨(タマムシウサリ)です。わかりましたね?ウサリ」
どうやって名前を決めるのか若干気になった。
「ではウサリ、その荷物をこちらに渡しなさい。玉蟲の修行に邪魔になるものはいらないからね?」
一応ハンドバックを持ってきてはいたが、中には財布しか入れてなかった。バカ高い金を要求されるのは御免なので貧乏アピールを兼ねて、だ。
「ふうむ、、、、そう言えば聞かされてなかったのかな?この修験者になるには入会金50万円、月額で修行代を45万お支払いする形なのですが、出来ますかね?」
財布の中身を勝手に見ておきながらなんてことを!とは言えず、、、。作戦通りまたまた俯き
「無理、、、です、、、」とか細く言ってみる。
   「ウサリ、、、。でもご安心なさい、今修験者達は百人いるけれど、その中でも払えてない人がいるからね。だけどしょうがない。」
   ため息をつく蜜柑船。だがその後急に笑顔になった。
  「そして修験者の服を着てもらわなきゃね。破戸と同じ服だから安心しなさい」
  破戸は白い袈裟を持ってくるためにまた退出。どうやらこれで玉蟲家に潜入成功したようだ。
  持ってこられた服を着て破戸に部屋を案内される。どうやら蜜柑船とはここまでのようであった。
  廊下は暗く長く、こんなに大きな敷地なのかと驚愕した。
  「ここは修行の場です。ここでは祈祷を主に行なっています」
  一番最初に見せられたのは突き当たりの部屋。そこでは暗い照明の中、一心にお祈りをしている人間の姿が見えた。ざっと二十人くらいだろうか?
  「ここは食事の場です。朝昼晩の食事を全員と共にする場です」
  さっきの大広間のように畳が一面に敷かれた部屋だった。
  「ここは、、、、、」
  と、この調子で部屋を紹介され続け、もう何が何だかわからなくなっていった。
  「最後に、ここは開かずの部屋です。蜜柑船様だけが入れる、部屋です。迷っても決して入らないように。まあ、常時鍵がかかってますけどね」
   開かずの扉。ここに玉蟲家の秘密が入っているかもしれない、いや、入っているのだろう。そういえばおんちゃんが公安の1人が潜入調査できているから、何かあればその人を頼るようにって言われたんだった。誰かは知らないんだけど、、、。
  「では、今日から祈祷はできますが、未だ慣れていないと思うので寝室の場で待機しておいてください。夕食になったら声をかけます」
  さて、ここから探索開始だ。作戦を練って玉蟲家の秘密を暴く。
無性にワクワクしたハルミだった。





   一方その頃警視庁本庁、、、。アイト達は、、、。
   「ここが玉蟲家か。意外な場所にあるもんだな」
   アイトは眼前に聳え立つ大豪邸と、その延長線上にある広大な海を目で行ったり来たりしていた。
   「流石公安、抜かりないねぇ」
   アイトの同僚、またハルミの同僚でもあった坂城碧路(サカキアオミチ)が苦笑しながらチャイムを押す。
   「何でもあのお嬢ちゃんの証言でやっとグレーなところがわかったなんてな。しかもお遊び探偵してるハルちゃんにはこの情報伝わってねえってんだから可哀想にな」
   アオミチはハルミと大学時代から同期でハルミのことをハルちゃんと呼んでいる。
   呼ばれる本人は別になんとも思っていないようだったが、アオミチのルックスからかなりの女子から反感を買いまくったとアイトは聞かされている。
   「どうする?あの中に本庁の人もう1人いんだろ?でも突入も無理だし、どうやって助け出すのかがわからんね」
   「そりゃ本件には関わり無かったけど、あっちはあっちで臭いんだよ。だから無駄にはならねえし、オウムみたいなことになったら洒落にならんしな」
   その時ちょうど玄関が開いた。
   昨日帰された優凪が黒衣のまま立っていた。
   「、、、、、犯罪、ですか」
   きっと身内の葬儀を勝手に済ませてしまったことを言っているのだろう。
   「死亡届を出していなかったら刑法ではない法律に違反してしまって罰金を払わなくちゃいけない。それに殺人事件だったらしいから、運悪けりゃ証拠隠滅としてこちらが起訴しかねない」
   「おい青路、よせ」
   アオミチは兎に角厳格という言葉が似合う人で、法律違反者は完全に捻り潰さないと気が済まない。だから例え体が弱い人であろうと、絶世の美男美女であろうと、徹底的に法の盾、、いや剣で攻撃する。
   すると優凪はわかっていた、というように力無く頷いた。
   「すいません、うちだけ平安時代からトリップしてきたような家で、、、、。一応現場写真?は取ってありますんで、それをお持ち帰りいただければ、と、、、」
   招き入れられて、2人とも玉蟲の敷地に入った。
   凛とした雰囲気は、どことなく緊張感を持たせた。
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