名探偵ミツコ

研田千響

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第一話

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名探偵ミツコ
                                  
桜は私を見ると、いつも笑う。そして無慈悲にも思い出したくもない心中を抉り出してくる。『彼との出会い方は間違っていたんだよ』と一言添えて。
 
 陽が照っている。花が微笑んでいる。すれ違う人々は生気を失っている。
 どうしてこうも溜息の似合う町人達だろうか?こんなにも外は清々しいのに。
 ベージュ色の服装に身を包むのは南郷暖花(なんごうはるみ)。私立探偵。と、言っても無収入。だが貯金が尽きても妹に泣きつけば他の職が見つかる迄世話代を融資してくれる。なので、どちらかと言うとニート寄りの探偵である。ペーペーなので依頼は全く無く、ただでさえ暖花の性質の90パーセントは、ぼんやり・おっとりしているので、家でゲームや職探しが出来る訳が無い。(いや、しようとしない。)
 だから毎日、町中の至る所で歩いたり人間や植物を観察したり居眠りしたりを幾度も繰り返していたところであった。今も真昼の商店街の散歩中である。
 不意に店のガラスに、自分の姿が映る。珍しいことではないのに、刹那、暖花の心臓の鼓動は止まった。
 以前は、横に彼が居た。
 彼が消えてしまったという事実を再認識し、息苦しくなる。
 暖花が無職になった理由。それは彼が、原因だった。
 
 
 
 彼との初めましては、5年前。暖花の前職は刑事だった。刑事になった理由は本人は覚えていない。親が公務員一族では無いし、大学卒業後、目にとまった警察学校入学試験より入学した所は記憶にあった。その後、無事警察学校を卒業、警視庁に配属されて、1年目のことであった。職場にも大分慣れ、捜査一課の名に恥じない程度になった頃の出来事だった。
 
 『こら!待ちなさい!』
 残業処理が終わり、無事退庁、今日は待ちに待った金曜日♪夕陽がビアガーデンの金色のグラスを照らし、居酒屋は日頃以上の盛り上がりを見せている。朝まで呑んでも咎められない怒られない。犯罪者の顔も忘れて月曜まで潰れよう!オラ、わくわくすっぞ!と、かなりのハイテンションで、ハシゴしていた時のこと。次の店へ突撃ー!と扉を開き歩みだした。そしてこういう時に限って自分を欲す、誰かが現る。
 『ひったくりだ!』
 一部の単語に暖花の脳内検問が引っかかってしまった。本来ならばガン無視、どうせ、お釈迦様は自分のことは見てないんだと、そっぽを向く。しかし暖花は自分が天下の警視庁捜査一課という自負が有ったっため、気づいたときには無我夢中に、ひったくり犯と見られる人物の後を追っていた。
 叫べど叫べど止まってくれない、ひったくり犯。
 ただでさえ、こっちの気分を害したんだ、職権乱用で2000万円奪ってやる。今の暖花では言わないような暴言を、当時は平然と口に出していた。
 陰鬱とした路地に潜り込んだひったくり犯。『逃がすかぁ!』と呂律の回らない口調で叫ぶ。しかしアルコールの入った頭脳には、反撃されるという考えが無かった。
 ひったくりは光るナイフを盾に暖花に襲い掛かった。慣れない手つきで空中を切っている。日中の暖花なら得意の合気で軽々と翻し相手の力を利用し抑え込めるが、勿論飲んだくれ状態では無理。
 若しかしたら今から死ぬかも。
 よくわからないネガティブ精神を発揮し受け身になった時。
 『お嬢さん、足が止まっていますよ』
 可憐な薔薇の如く颯爽と登場した男性。暖花の前に立ち、ファイティングポーズをとる。それも束の間、ひったくりの動脈を瞬時に抉る。一瞬の喜劇。たった一撃で、ひったくりは唾を垂らし気絶した。
 『怪我有りません?』
 呆然と立ち尽くす暖花にウインクを投げる。首から提げている翡翠色のループタイも近くの街灯によって光ってみえた。よく見るとイケメン。透き通る色白肌、ふわさらの黒髪で目が細い。グレーのベストも着こなし背も高く、二次元世界から飛び出てきたような相好だ。
 『い、いや、全然、大丈夫......それよりも、警察......』
 思わず見とれてしまっていたが表の喧騒が耳に入り現実に戻る。
 しかし男の次の一言は度肝を抜かれた。
 『警察なら居るじゃないですか、ハルミさん?』
 男は当然と言わんばかりに暖花を指さした。
 い、今此奴、あーしの名前を言った!?そして職業を当てた!?男の指と表情を交互に見る暖花。その表情からは自信が読み取れる。当の本人は全く正反対、困惑状態だが。
 『......言ってなくないですか?あーしが警察って......しかも名前まで!!何でそれを?』
 警察学校時代こんな奴いたっけ?それとも違う部署?しかし記憶の底を辿っても男の顔は思い出せない。チッチッチと人差し指をメトロノーム代わりにする男。愉快そうに口を開いた。
 『簡単ですよ。昼間スーツ姿の貴女を見かけましてね。交番の警察官の方と随分親しそうにされてて......その、おまわりさんと幼馴染や親友という線も有りましたが警察手帳を取り出していたので警察官だと分かりました。そして、交番の警察官の方がハルミと呼んでらしたので……異議は?』
 特に無い。推理、ではない。ただの状況証拠。しかし事実であることに違いは無い。
 『何者?さっきの体術と言い、推理といい......普通じゃないでしょ』
 暖花は小動物が威嚇するような態度をとってしまう。若しコイツが悪い組織の人間だったら敵わない。奥歯を噛みしめ眉間に皺を寄せる。冷気が頬を撫でる、空は刻刻と色を無くす。沈黙は続く、無言の攻防戦は延長戦状態。
 『そりゃ、普通じゃないですよ。僕はプライベートアイ……』
  紳士探偵ですよ?
 これが彼との珍奇な出会いだった。
 
 
 
 懐かしいな。あの頃はホントに気障で余裕かまして鼻について嫌な奴としか思えなかった。てか紳士探偵って、どんだけ自意識過剰だよ!でも段々集君のことで頭がいっぱいになってきた時は、お互い優しさで溢れていたよね。何回でも言える。懐かしいな。
 喫茶店の前で立ち止まっていた私に、店長が「大丈夫?」と顔を覗いてきた。私は愛想笑いを残し前を向く。そしてまた、甘い思い出をなぞり始める。
 
 『探偵、ってことは私に興味有ったりする?』 
  生の探偵が初めてだったことと、酔った勢いで意地悪な態度をとった暖花。胸に手を当てニンマリ微笑む。
 『勿論ですよ!僕も生の警察初めてです。あっ、よかったら繋がりません?私立探偵って安定した公務員と違って毎日食い繋げるか考えるだけで精一杯なんですよ。警察が抱えている難事件やハルミさんの御友人や知り合いの方から依頼が有れば、相当嬉しいですし』
 結局、自分の食い物かい!!真剣すぎる彼の瞳とのギャップで、ついつい笑みが零れてしまう。
 『いいよ~。よろしくね』
父母と妹、職場仲間の味気ない名前しか載っていないメルアド帳に、初めての異性友達のアドレス。心臓の鼓動音は、いつも通りだったが、ラヴの予感は意識して当然。年齢イコール彼氏居ない歴だが、乙女チックな少女は、暖花の中で生きていたようで、周囲の方々は後々安心したそうだ。
 『今日は遅いですけど、送っていきましょうか?』
 大通りの向かい側に有る駐車場を親指で指す集。
 そういや、今日バスで来たわ。 
 ただでさえ安月給なので、ここは御言葉に甘えさせてもらう、と暖花はコクリと頷いた。ひったくりはこのままに出来ないので警察を呼ぶ。パトカーのサイレン音を合図に、青色のマツダ ロードスターを発進させる。
 『金持ちの道楽人種かね?』
 『いいえ。中古を友人に譲ってもらったんです』
 帰り道の会話は、興味の無い話から始まったのを未だに覚えている。
 
 それからちょくちょく彼……集と暖花は電話やメールを送りあうようになった。世間一般からデートと認められる行為はしたことなく、喫茶店止まり。彼の名前は茶屋町集(ちゃやまち つどい)と言った。どうやら暖花と同じ年では無く、彼の方が年下であることが車内にて判明した。外国の有名大学の出身のようで久しぶりに来日した初日に暖花び出会ったという。紳士探偵と名乗る程気障だと思っていたが、常に優しさで満ちていて、一緒に居て安心することが出来た。
 
 水曜日、暖花は、帰りの空白だらけの電車の中、癒しを求めて携帯電話の電話機能を使った。その日は報告書整理が夜遅く迄有り、電話を掛けたのも夜九時。こんな夜中に迷惑かなとは思ったものの、集の声が無性に聞きたくなったので、構わず電話した。コール音は三回で鳴り止み『もしもし、ハルミさん』と疲労漂う声がした。
 『ごめん、疲れてた?』
 『いえいえ、ちょっと今日は精神的に参ってて。依頼が最近減ってきているのが少し……』
 『えー、もしかして今月ピンチ?』
 『大丈夫ですよ、学生時代の貯金は有るので』
 それにしても、やっぱり心配だ。映画の約束も結ぼうかもと考えていたが、それは諦めようと、暖花も溜息を吐いた。
 『ハルミさん、今週のシン……土曜日、新作の映画見に行きません?』
 『ええ!私も今、同じこと考えてた!』
 電話越しに笑い声が漏れる。
 『ホントですか?嬉しいです。詳細はメールでいいですか?』
 今迄軽く喫茶店にしか行ったことしかなかったので、本格的なデートだぁと、一日の疲れが吹っ飛んだ。
 バイバイと電話が切られ通話が終了した。胸はドクドク脈うっている。
 
 そして約束土曜日、約束の時間に二人は再開出来た。集はジャケットコーディネート
 、暖花は花柄のワンピース。時間設定は夕方にしていたが土曜日というだけであって人混みができている。お互いが相手を認識出来る迄、五分ほど時間が犠牲になった。
 『ごめんなさい、遅れっちゃって……』
 息を切らしている暖花。うっすら汗が額にしみていて笑顔を作るのが精一杯な様子だ。
 『全然、それよりもハルミさんが僕を見つけて下さって、それが一番嬉しいです!ハルミさんって何だかんだで、いっつも予定時間の五分イネイには待ち合わせ場所に居るんで、こちらも感謝してもしきれません!』
 久し振りに目の当たりにした集は少々やつれていた。目の下には睡眠不足とストレスを物語るクマが在り、ジャケットコーディネートも皺が目立っていた。
 『どうしたんです?行きましょうよ』
 先にチケットを買ってくれていたのか、優しく促してくれる彼。
 『……うん、そだね……』
 今日はフルマラソン走る訳でもないし、気休めに映画を見るだけでいい。心配心を押し殺し、劇場へ足を向けた。映画館内では集はぐっすり眠りこけていた。入館してから十五分も経っていなかっただろう。相当ヤバい案件を抱えているんだなと、集の手に上からそっと、被せて体温を移した。
 
 
 『僕達もう、恋人みたいですね』
 知り合ってから1年後、お互い似合わないねと笑い合い入店したフランスレストラン。あれから何でもないことも、事件の依頼も交し合う内に休日ぐらいは遊ぶ仲迄発展出来た。最初は他人行儀で黙りこける時間もあったが、回数を重ねるにつれ、お互いがお互い専用の扉を作った気がした。
 『......案外、こっちは付き合っている気になってたりしたりして?』
 嘘じゃなかった。本心だった。ただ、素直じゃないのが逆に恥ずかしかった。言葉として放った瞬間、口に含んでいたカベルネの味が複雑になって分からなくなった。
 『僕も。お互い同じこと考えてるんですね』
 安心しましたと彼は笑った。十七時五分、ハルミさんの心逮捕完了、とウインク。やってて恥ずかしくないのだろうかと考えると笑みが零れた。
 窓外のネオン管のレトロな雰囲気、虫が群がる街路灯。車の赤いヘッドランプさえキラキラ輝いて見えた。足元がフワフワする。ここ数年で、最高に気分のいい日だと暖花は呟いた。
 
 次の日から同棲は始まった。家賃半分家事半分、幸せ二倍の三拍子の元、集の方から暖花のお城へ越してきた。元々仕事一本で自分の葬式は職場仲間のみが集まるムサ苦しくなることを想像していたので二人で住むには少々狭い。だけど、その分、集君との距離を感じることが出来て、心嬉しかった。
 集君は家事担当。特に料理が最高だった。中でも豚の角煮は絶品中の絶品。見事に綺麗な赤いタレ、ぷりぷりの肉。これ見てるだけで白飯三杯は余裕、下手すりゃ十杯はいけると感嘆した。実際の角煮は料金が発生しそうなぐらい本場の中国料理店よりも舌も喉も蕩ける美味しさ。『美味しい』の連呼だけだったが気持ちは伝わったのだろう。『じゃあ昇進したら作りますね!』と照れながらの約束だった。暖花は治安担当だと自称していたが、集にとっては癒し担当。一緒にデート出来れば、それだけで、この先一年何もしなくても明るい日常になる勢いだった。
 全てが順風満帆だった。空気を肺に取り込むごとに生きてて良かったと思えれた。幸せを毎日体感した。血色が良い日が何日も続いた。仕事で嫌なことなど忘却能力が働かずとも思い出で消せた。写真も一杯撮った。おススメの映画や小説も紹介しあった。お互いがお互い、居なくてはならない存在へと成り果てた。
 何回でも叫べる。
 幸せだった。
 
 だが、あの日。
 集君が死んだ日。
 あの日から私の生命線も枯れてしまった。
 
 
 
 
 『集君、遅いな……』
 その日は希でもない雨の日だった。しとしと甘雨が大地に恵みを与え、窓に張り付くカタツムリが愛おしく見えた。暖花はリビングの四角い冬は炬燵になるテーブルで、久々の仕事だと家を早朝出て行った集の帰宅を待っていた。時計に目を移す。午後五時五分。すると携帯電話のバイブ音が小さく響いた。暖花は急いで画面のチェックをする。案の定、集からだった為、安堵の溜息を吐く。メールだった為、いつも通り受信ボックスを開けた。
 件名『南郷 暖花さん へ』
 初対面の時からハルミさん呼びだった彼がいきなりのフルネーム。心臓の早鐘が耳の奥底から聞こえる。熱い指でスクロールする。嫌な予感は的中しませんように。だが嫌な予感の見当など思い当たらない。本文は、こう書かれてあった。
 『ハルミさん、僕は貴女に会えて、幸せでした。きっと僕が居なくても十分正念場を越えていき、一人で生死彷徨わず生きれます。唯 一の心残りは....
 
 
 
 ps僕が死んでもハルミさんは生きてください。さようなら』
 意味が解らない。何でこんなこと言ってるの?どうして永遠の別れみたいなこと言うの?
 暖花は、一瞬、パニック状態へと陥った。普通は『何言ってんねん』と誰もが鼻で笑うような出来事だろう。しかし、今の集には人生が暗くなる予兆など何処にも無かった。むしろ、幸せな瞬間が向こうから歩いてきているぐらいだった。来月に控えた結婚式。今年で恋人としての人生がスタートして4年、遂に結ばれることになったのだ。気障ではあるが、紳士なので嘘は決して吐かない。泥沼にはまった気分になった。ドッキリの可能性は?あの集君が、そんなことする訳がない。朝は仕事モードの表情だった。嘘じゃない。じゃあ何、何でこんな意味深なメール送ってきたの?最悪な想像だけが脳裏を掠める。
 こうなったら待つのは止めだ。直接、本人の口から真意を割り出そう。
 暖花は、集にもしもの時、とスマホで随時お互いのgpsが分かるように設定していた。メールフォルダを閉じ確認する。場所は盛具町(もるぐ)にある廃ビル。位置情報が虹彩に映し出された時には、玄関の鍵を閉め終わっていた。冷や汗が伝う、眼前の景色が灰色に染まる、昨日の笑顔で『ドッキリ大成功』と唄う彼を気休めに想像する。階段を滑る、焦り過ぎだと自分を笑う。足をとにかく前に出す。
 家から出て5分経った頃だろうか。
 あった、廃ビル!
 集が居るとされる廃ビルの頭角が視界に端に現れた。目的地は目と鼻の先。一心に駆けた。
 息を切らしている暇も無く、暖花は到着すると開きかけのシャッターをくぐった。真新しい埃が散った跡の発見。足跡からして、二人。近くに武器になるような物は愚か、無機質な埃以外何も無い。電気も通っていないのだろうか、薄暗い。夜目を利かして手探り作業のように階段を駆けた。
 集君、無事で居て。
 心の中で叫んだ、張り付く喉を強制無視した、最悪な結末など一蹴した。
 最低な乾いた、銃声が耳に入り込む迄は。
 
 『つど……い……くん?』
 
 銃声によって身がすくんでしまった。足が止まる。今、何階?前方から僅かに光が差し込む。屋上か。あの扉を開けば、集君が……
 行き着いた先は雨垂れる屋上。そこには深紅の液体に倒れ込み、生気が失せた彼が居た。他に人は居ない。ただ、彼が独り。無造作に仰向けになっているだけ。 
 『彼の恋人かしら?』
 背後から妖艶な美声がする。暖花はゆっくりと声主の元を振り向く。両手を挙げながら。
 同じ黄色人種とは思えない美肌、純日本人を彷彿させる顔の整い方、しかし腰迄有る金髪、ストレートヘアー。紫色のバレッタを横に差している。女性にしては長身で格闘したら蹴り一発で全人類がノックアウトされそうなスタイルだ。
 『……あんたが集君を殺したの?』
 だがそんなことどうでもいい。暖花の血は怒りによって煮えたぎっていた。悲哀に突如襲われ涙すら流れない。全毛穴から噴き出す憎悪。
 『だったら、悪い?』
 サラリと息を吐くように言われ愕然。暖花は脳の血さえも沸騰した気分になり、今此処で重犯罪を犯しても正当化される気分になった。
 『何で、こん』
 暖花のタイミングと重なり、背後から爆発音が降ってきた。振り向くと屋上は業火に包まれていた。不幸中の幸いで火の粉は直接来なかったものの、集の肉体は一瞬で消えてしまった。目の前から。一瞬で。一瞬で。一瞬で……
 『貴女も帰らないと巻き添えを喰らうわよ』
 涼し気な表情で階段を降りて行った女はサングラスを取り出し不敵に微笑んだ。
 『そうそう、貴女、彼の恋人って言ってたわね。大丈夫、一般人にワタシ達は危害は加えないわ』
 『私達って、他にもこんなことする人間が居んの?』
 すると女は『んー』と顎に指を当て、暖花に向き直り口を開いた。
 
 『銀華(ぎんか)。警察もワタシ達の影しか掴めていない、裏社会の組織』
 
 
 
 「銀華……ね」
 女は警察も影しか掴めていないと零していたものの、上司に探りを入れても収穫は無かった。それに、痛感したのだ。空っぽの無力感。一番間守りたい者を守れなかった。自分よりも大切な人を守れずに、名前も知らない被害者を、心の底から助けようとは思えなくなった。だから警察官と名乗ることはもう出来ないと辞職した。
 
 ふう、と暖花は意味も無く溜息を吐いた。彼が居る空を愛おしく眺める。 
 猛火の復讐心を秘めながら。
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