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第一章 ホールデンにて

ユイさん

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さて、あれから更に数日が経過して、タゴスともタメで話すようになった頃、新たなる問題がやって来た。

「よ!」

「…こんにちわ…」

目の前にいる男性が軽い調子でやって来て片手をあげてご挨拶。

勇者仲間のスーツ侍さんことユイです。といってももうスーツじゃなくてこの国の位の高そうな人が着てるのと同じ服装だけど。ちなみに自分は装飾のついたお高そうな服は嫌いなので一般兵士と同じ服装す。

で、そのユイだが。

最近の日課になっている打ち合いをタゴスとしているとユイが左手に木剣を引きずってやって来たのだ。オレとしてはまたあのシンゴの時のように模擬戦にならないかという不安でタゴスの背後へゆっくりと移動。盾にしてすまんが少しの間オレを守ってくれ。

「いやいやいや、俺は別にお前と力比べをしたい訳じゃないから。頼むからそんなに警戒しないでくれよ、苛めていると思われるだろ」

「いきなり攻撃してこないですか?」

「しないよ、あの中二勇者じゃないし」

「…そうですか」

言質ゲンチを取ったのでタゴスの背後から出る。攻撃してこないならいいんだ、攻撃してこないなら。

「それで…、なんのご用ですかねユイ勇者様」

オレの行動でなにかを察したらしいタゴスがやや警戒しながらユイへ質問する。

(てかこの人ユイさんっていうのか。最初に聞いた気がするけどすっかり忘れてたわ)

そんなタゴスの様子にどうしたもんかと頭をかくユイが左手に持っていた木剣を離した。カランと木剣が地面に転がるのを目で追って、再びユイに視線を戻すと手はホールドアップ状態にしていた。

「これで信じてくれないかな?俺はただ君たちと仲良くしたいだけなんだ」

「………」

タゴスは戸惑ったように視線をさ迷わせる。そしてオレを見てユイを見るとタゴスは警戒を解いた。

「その、すみませんでした。ユイ勇者様…」

「いいよ、いいよ。気にしてない」

あっけらかんと笑うとユイが両手を下ろす。

立ち話もなんなので訓練所の隅にあるベンチに腰掛けた。

「それにしても、なんでユイさんはオレ達と仲良くなりたいと?」

「前の模擬戦の時に君に興味がわいたのと、そんな君と打ち合いしている君にも興味がわいたから」

タゴスが俺も!?と驚いた顔をしている。ユイが頷く。

「アマツくん…だっけ?君の戦い方が凄く面白かった。よくもあの暴力バカ勇者に対抗できたなってさ。君のいたところでそんな戦い方がメインだったのかい?」

メインもなにも。

「木剣で戦うこと自体が初めてですよ。剣道部でもないんで…。あの時はこいつだけは一発やり返さなきゃ気が済まなかっただけです」

正直頭に来てたからな。
じゃなければ戦おうとすらしないだろう。

そんなオレの返答に何がおかしかったのかユイが笑い出した。

「なんかおかしかったですか?」

「いや、すまん。ど素人であんな策を思い付けて、なおかつ実行できるとはな!あんたなかなか才能あるな!」

バシバシと背中を叩くユイ。超痛いっす。

しかし、才能…あるのか?オレ。
首を傾ける。頭の中に兵士一同が憧れる隊長が浮かび上がり一気に鬼の形相で攻撃してくるところまで想像して首を振る。
違う、才能あるっているのは隊長的な人達の事を指す言葉だ。

「君もなかなか面白いよな。えーと…」

「タゴスです。ユイ勇者様」

「タゴスくんか。君の事もノノハラにまとわり付いてた頃から見てたよ。よくもあのノノハラの攻撃受けて今まで生きてこられたものだ」

気まずそうにタゴスが顔を逸らす。
そういやオレの前に女軍師に付いてて何度かマジで斬られてたんだったな。 

「オレは怪我の治りが早いので」

「ふーん、それは羨ましい能力だ」

「?」

何故かタゴスとユイの纏う空気がピリピリし始める。二人の様子を見るとユイは爽やか笑顔をしつつも何やら警戒し、タゴスは無表情でユイさんを見てる。正直、怖い。なに?どうしたの?

「ところで、ずっとアマツくんに訊きたいことがあったんだ」

「なんですか?」

ユイはこちらを向くと口を開く。

「なんで合同訓練来ないんだ?」

答えずらい質問きた。
あれこれ言っても良いんだっけ?
別に言っても良いんだけど、これ言って噂に尾びれ背びれついて大変なことにならないか心配だ。

ユイはまだこちらを見ている。

記憶を探ってウロが言ってた注意事項に呪い関連があったかどうかを探って…、うん、ないな。言ってもいいや。

「えーと、誰にも言いませんか?」

「言わない」

「タゴスも言わない?」

頷くタゴス。じゃあ言っても良いだろう。

「実はオレ、呪われてまして。しかも魔法も使えないレベルなんです」

「…は?」

真顔で、は?と言われてしまった。
地味に傷付いた。

背後から凄まじい視線を感じる。タゴスだ。まて、タゴス。

「いや、まてまて。うん、整理しよう」

ユイは額に手をやり深呼吸すると再びこちらを見た。

「いつ呪いに掛かったんだい?」

「こちらへ召喚される前には呪われていたらしいです」

「まじかよ。ちなみに何の呪いだ?」

「反転の呪いです」

ユイが憐れみの視線を寄越してきた。
やめろ、そんな目でオレを見るな。

小さくなんでよりにもよってその呪いにとか呟いている。オレだって掛かりたくて掛かったわけじゃないんですよ。

「ライハだって不本意だ」

タゴスの助け船。ありがとうタゴス。

「だから訓練に来れなかったんですよ。遊んでいたわけじゃないです。解呪の儀式すると負担が凄まじくて動けなくなるので…」

ちなみに解呪の内容はエスカレートし、最近は双方とも諦めモードになりつつある。この呪いとうまく付き合う方法を考えないといけない頃合いになってきてしまっていた。

「そうだったのか…。いや、なんか悪かったな」

「いえいえ。なので、唯一残されてる剣術を伸ばそうとタゴスにも手伝って貰っているんですよ。こいつ強いし」

いつもサンキューの意味を込めて視線を送ると照れたように頭の後ろを掻きながら下を向いた。

「ライハだって吸収するの早いし、その内うちの副隊長程には強くなれる。もともと運動神経は良いから」

「おいおい、誉めても何も出ないぞ」

しかも副隊長って、あの戦闘狂いパート2ほどになれるとか持ち上げすぎだ。前に訓練見たけど動きが人間じゃなかった。
あ、戦闘狂いパート1はもちろん隊長です。

「よし!」

隣でユイが膝を叩いて立ち上がった。
なにがよし?

「なんか面白そうだから、オレもお前の戦闘指導してやるぜ」

「えっ!?」

その笑顔はとても良い笑顔で、オレの声は無視された。













「それで、ユイ勇者様のご指導の途中タゴスとの意見違いから大喧嘩に発展してそれに巻き込まれたと」

「はい。死ぬかと思いました」

解呪の儀式の為やって来たウロにまたかという目をされながら手当てされた。

二人とも戦闘能力おかしすぎて、反撃するどころか逃げ回ることしか出来なかった。何故かタゴスはキレてるし。

タゴスの言葉を思い出して、思いっきり床に叩き付けた。なにがその内副隊長ほどだ。お前にすら勝てる気がしないぞ。
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