上 下
76 / 116
四章・四精獣を知りまして

『腕試し大会⑤』

しおりを挟む
 なんとかここまで勝ち上がってきた。
 全てはターリャがティアラを欲しがったからである。

「……でもちょっと疲れたなぁ……」

 幸い今は決勝戦に向けての準備があるとかで二時間休憩時間が与えられている。
 しかも十分に休めるようにと個室まで与えられた。

 食事は軽く、ジャーキーでも噛っておこう。
 ここでしっかり食べたら後で後悔するから。

 最終決戦の相手は、開会式に見たオーモダズィというTHE・騎士みたいな風貌の男だった。
 周りの会話から推測すると、どうやら衛兵達を育てる教官みたいな人なんだとか。
 恐らく強いんだろう。

「…………暇だな。ターリャの所行きたいな」

 しかし参加者があまり出歩くのは良くないらしい。
 ちょっと前に知った事だけど、待機室すぐ上のスペースに出て試合の観戦や物を買うことはできるけど、それ以外は禁止。
 理由としては、反則行為禁止の為。
 部外者と接触して、大会前に登録した武器、防具情報には載ってない物を持ち込ませない為。
 アイリスにはあまり見かけなかったけど、ウンドラには呪具といわれる厄介な代物が存在する。
 魔法と似ているけど、それよりも陰湿で人間の呪怨を煮詰めた性能を相手に掛ける、いわゆる呪いの道具だ。
 厄介な点の一つとして、解除するのが非常に難しいというのがある。
 それに会場全体に危害を及ぼすものもあるので、職員は警戒しているのだ。

 テロとかあるらしいしな。
 傍迷惑すぎる。
 ま、オーモダズィとやらはそんなことしなさそうな男ではあるけど。

 セドナと違ってな。

 目をつぶって集中するとターリャの位置と状態が伝わってくる。
 盾特有のスキル的なものなんだろうけど、結構便利。
 有事の際に飛んでいけるからな。

「……ん?」

 なんだ?一瞬不安げな気持ちみたいなものが流れてきた。

 目を開けてターリャの位置に集中した。
 不安げな気持ちがまだ流れてくるが、それは次第に薄くなり消えた。

 後でハバナを問い詰めないとな。












「わあ!」

 ターリャは目の前の料理に思わず声をあげて喜んだ。
 特別に用意された昼食はとても可愛らしかったからだ。
 プレートの上には色とりどりのおかずが少量ずつ乗っていて、ターリャの好きな卵菓子まであった。
 いつもの奴と違って色が白っぽいけど味は変わらない。

「トキ様にお聞きして調達しました。これを作った料理人が面白い発想だとべた褒めしてましたよ」
「これはトキがこうしろって言ったの?」
「そうです」
「へー!食べちゃうの勿体ないなぁ」

 そう言いつつもターリャはスプーンを手にとって食べ始めた。

 そんなターリャを見てハバナは感心していた。
 先の試合でもそうだったけど、鬼神のごとき戦いぶりにハバナは戦慄していた。
 実はハバナはトキの事を少し調べていた。

 これはあまり知られてない情報だけど、職員は冒険者の履歴を追跡することができる。
 それは犯罪組織関連との繋がりを阻止するためや、大規模な依頼の時の編成を組み立てる際の冒険者のステータスの傾向などを把握するためである。
 ギルドに国境はない。
 妖魔に国境がないのと同じように、それを対なす存在も国境が障害になってはならないからだ。

 だから、ギルドでは他国の冒険者情報を調べることができる。


 トキナリ・ホクジョウは北境戦線(※ウンドラでのロングスタ含む戦線の呼び名)で恐れられた名前付きネームドの一人だ。
 “フリモ”という。
 恐怖をもたらす存在って意味だ。
 臆すること無く突っ込んできては敵を薙ぎ倒していく。

 ニュトゥヴァ・アイニロ《空喰い》(※ガルア)も恐怖の対象だったけど、一般歩兵はこちらのフリモが何よりも恐ろしかったと聞いていた。
 終戦して十年近くたっても、いまだに子供の間ではフリモ倒しという遊びが流行っているほど、ウンドラ人にとっての“恐ろしい者”なのだ。


 そんな恐怖の対象としてのフリモ、トキ様だったけど、実際に会うと印象が大分違う。
 確かに背が高くて体格も良いが、ターリャさんを見る目付きや仕草を見れば誰もこの人がフリモだなんて思いもしないだろう。
 現にハバナだって、フリモ関連の怖い話なんて戦場が見せた幻覚、あるいは話に尻尾や角が付いた(※話に尾びれ背びれと同じ意。)ものだろうと思っていた。
 だけど、そうではなかった。

 試験の記録を見せてもらっていたけど。

「はぁ……、想像以上でした……」

 前までもご贔屓の冒険者さんでしたけど、これからは推しになりそうです。

「どうしたの?ハバナさん」

 もう少しで完食しそうなターリャさんが首を傾げて訊ねてきた。

「いいえ、何でもありませんよ」

 次の試合ではどういう戦いを見せてくれるのか、とても楽しみです。








 楽しそうな顔でハバナさんがパンを食べている。
 なんだか解らないけど、楽しそうで良かった。

 ご飯を食べ終えて「ごちそうさま」をすると、意識を集中させた。

 こうするとトキの居場所がわかる。
 いつの間にかできるようになっていたこれは、ターリャをすごく安心させた。

 さっきとは違う場所にいるけど、トキなら大丈夫だ。

 プレートを下げられ、窓から景色を眺めようと近付き、人混みにアレを見付けてしまった。

「!」

 慌てて後ろに下がり椅子の後ろに隠れた。

「どうされました?」

 ハバナが訊ねてきたが、ターリャは答える事ができなかった。
 心臓がバクバクしている。

 黒ずくめのカラスの人達。

 前にターリャが浚われた時、鍵を閉めていたのに侵入してきた人達だ。
 それが三人。
 何かを探すように辺りを見回していた。
 ターリャを探している?

「…………ターリャさん?」
「しっ…」

 静かにと合図をすると、ハバナさんは口をつぐんでくれた。

 それからしばらくジッと身を潜め、もう一度そろりそろりと外を見ると、もうカラス達はいなくなっていた。
 ホッと息を吐く。

「何かいたのですか?」
「……うん。怖い人達…。私の事を探していたらどうしよう……」
「……大丈夫ですよ。今ターリャさんはその魔法具を着けてますから」
「あ…」

 首に下げた魔法具が揺れる。
 そうだ。
 これがあれば見付からない。
 しかも今は二つも(※一つはトキのを預かってる)持っている。

 これ、怖がる必要ないね!
 でも大会終わったらトキに報告しないとね!!

「よし!」

 椅子に腰掛けた。

「何も恐れることはない!ターリャは頑張るトキを応援するのに集中する!」
「最後ですものね。応援頑張りましょう!」
「うん!」









 職員の後に着いて舞台に向かう。
 扉から出れば、今までで一番の歓声に包まれた。

 反対方向からは最後の対戦相手のオーモダズィが現れた。

 手には剣。
 笑みを浮かべて俺を見ている。

 さぁ、やるぞ!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...