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三章・三人集いまして

『迷子のオッサンを保護しました』

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「ターリャはここで待機」
「あい」

 ルシーの上にターリャを待機させて、俺だけ様子を見にオッサンへと近づいていく。
 たまにこんな感じで転がってて、近付いたら襲ってくる当たり屋 (?)みたいなのがいるって聞いたから慎重に。

 格好は村人と言うよりも冒険者。
 しかも結構使い込んでいる装備だ。
 歳は、後ろから見た感じ40~50程。
 正直ここの世界の人老けるの早いから判別しにくい。

 ターリャとの鍛練用の模造剣でつついてみた。

「……う”ーん」

 生きてる。
 死体ではないとホッとした瞬間に、盛大に鳴り響く腹の音。
 思わずターリャの方を向いて俺じゃないぞと手を振った。
 勿論俺ではないとすると目の前のこのオッサンの腹の音だろう。

 なんだか警戒するのも馬鹿馬鹿しくなって、しゃがみこんで声をかけた。

「もしもし、大丈夫ですか?」
「…………腹が減って動けない……」

 返事と共にまたしても腹の音。
 これは嘘ではなさそうだ。







 俺の食糧を物凄い勢いでオッサンが頬張っている。
 食べながら話を聞くに、護衛の仕事を終えて戻ろうとしたのだけれど、ちょっとしたトラブルで馬が逃げ、その馬に荷物を積んでいたのでこんなだだっ広な荒野に食糧もなく一人残されたらしい。
 仕方なく歩いて帰ろうとしていたのだけれど、あまりの空腹で動けなくなってしまったらしい。

「ちなみに何日ほど」
「3日、飲まず食わずだ。水があればもう少し頑張れたんだが…」

 人間。
 7日までは食べなくてもなんとかなるが、水は3日でアウトだ。
 ギリギリだったらしい。

「ねぇ、ターリャの飴玉食べる?」
「いいのか?これはありがたい」

 ターリャお気に入りのべっこう飴を一つ摘まんで口のなかに放り込む。
 とたんにオッサンの周りに花の幻覚。
 わかるよ。
 極限の空腹で甘味は極楽気分にさせてくれる。

 俺の二日分をペロリと平らげ、ようやく腹心地がついたらしい。

「ふう。助かった。…そういえば自己紹介してなかったな。オレはガルア。ガルア・クラフトだ」
「…、よろしくガルアさん。俺はトキ、こっちは」
「ターリャです!」

 頭をペコリ。
 最近更に社交性が増している。

「よろしく。ところで、質問があるんだが、いいかな?」
「なんでしょう」
「ここが何処だか分かるものを持っていないかい?」

 地図を渡して現在地を教えると、盛大に顔をしかめた。

 ガルアは盛大な迷子になっていたようだった。
 元々いた地点から行きたい街へと近付いているどころか、Uターンして明後日の方向へと進んでいた。
 なんで途中で気が付かなかったのか。

「うげぇ、やっぱりあの道を右だったか…」

 地図をくるくる回しながら呟いている。
 というか、地図を見るときそんなに回すか?

「トキの地図の見方と違うね」
「俺は方向音痴じゃないからな」

 地図さえあれば何処にでも到達できる。
 ちなみにターリャも方向音痴ではなかった。

「……いけると思ったんだがなぁ」

 凄まじい程の方向音痴の友人も、ガルアとまったく同じ事を言っていた。
 おそらくこのまま放っておけば、この人また迷子になって、今度こそ野垂れ死ぬ可能性が高い。
 仕方ないか。

「ガルアさん」
「んん?」

 ガルアが地図から視線を外してこちらを見る。

「もしよろしければなのですが、一緒に行きますか?」
「本当か!?」

 心底嬉しそうな顔だ。
 俺よりも年上(想定)だろうに、表情がターリャそっくりだ。

「ええ。ちょうど、貴方の目的地近くを通過する予定でしたので」

 幸いにも、そこはガルアさんの目的地である国境近くの街だった。
 アイリス国とウンドラ国の国境。

 現在俺達はアイリス国の南部にいる。
 これから俺達はターリャのいう聖域へ向かうために国境を超えてウンドラ国へと入国しないといけないのだ。

 ちなみに戦争が終わったからといってすぐに国境が開かれた訳じゃない。
 いまだに両国とも厳戒態勢がしかれているし、国境は固く閉じられたまま。
 とするなら不法入国するしかない。

 というわけで、俺達はその街を横目に国境を跨ぐアオギ山脈を登り、こっそりと入国するつもりだったのだ。
 この際だ。
 その街まで一人増えても特に問題ないだろう。

「いやぁ、助かる!じゃあ途中の宿代はオレが持つぞ!これで公平だな!」
「……? 荷物ごと逃げていったのでは?」
「なーに」

 含み笑いしながら、ガルアが上着を裏返す。
 すると、服の裏側に謎の袋。
 その中は魔石が詰まっていた。

「へそくりくらいなら常に持ち歩いているさ」

 この人やりおる。






 野宿の準備の為、ターリャと共に薪になりそうな木の枝や枯れ葉、トゥレント(木に似た妖魔)の死骸を拾い集めている最中、ターリャがこちらへやってきた。

「ねぇ、トキ」
「なんだ?」
「あの人と何かあったの?」
「え」

 思わずターリャを見た。

「なんでそう思うんだ?」
「んー、なんか…お名前聞いたときに変な顔してた。こう、なんだろう?ビックリしたとも違うな。何て言うのか分からないけど、変な感じだったよ」
「……そうか」

 顔に出さないようにしていたんだけど、分かるものなんだな。

「……ガルア・クラフト。この名前は俺達戦場帰りの連中は勿論、そこらにいる奴らにも有名な名前なんだ。戦時中での“英雄”の名前だな。本当かどうかは知らないが、飛竜部隊の半数を討ち取ったっていう話もあった」

 飛竜部隊は当時ウンドラ国の最終兵器とも言われていた最強部隊だった。
 アイリス国は魔法があったが、魔法が間に合わない程の速度で上空を飛び回り、槍の雨を降らせてくるのはまさしく恐怖の象徴。
 それをその英雄は一人で壊滅させた。
 なんのスキルなのか知らないが、戦場で英雄の武勲を聞くたびに仲間たちが盛り上がっていたのを覚えている。

 と、同時に俺は嫌な思い出も甦る。
 セドナの顔だ。
 セドナ・クラフト。
 英雄の甥。
 その英雄の名前でよく脅されていたから、いざ本人目の前にすると複雑な感情が沸き上がってくる。

 だが、そこは大人だ。
 口にはしない。

 それに同名の他人かもしれないしな。

(そもそも英雄が方向音痴なんて話は聞いたことがないんだよなぁ)

「へえ!凄いね!」
「でも同じ名前の他人だったりすることもあるから、今回は確信があるまでは普通に接するんだぞ」
「はーい」

 日が落ちる直前に仕留めたアシグロウサギをガルアが解体し、それを焚き火で焼いて食べる。
 近くの町に着くまでは狩りを積極的にしないとな。

「近くの町に寄ったら旅道具一式買っていいか?」
「どうぞ」
「ターリャも飴買いたい」
「あったらな」

 ルシーが地面を前足で引っ掻いてなにかを催促している。

「ルシーのエサもだな」

 さて、一気に騒がしくなったぞ。

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