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一章・二人が出会いまして

『魔術師さん』

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「本当にここか?」

 ボロ屋だった。
 看板なんにもない。
 なんなら蔦類の植物に侵食され掛けている。

 もう一度地図を見直してみるけど、グンジさんは魔術師さんの店の周囲だけやたらこと細かく描かれているから間違いようがない。
 というかグンジさん絵が上手いな。
 もしやあの魔物辞典も自作か?
 ターリャが服を引っ張る。

「扉みつけたよ?」
「ほんとだ、って、半分埋まってるじゃん…」

 開くのかこれ。
 半分以上が苔で埋まった扉。
 幸いドアノブは無事だけど、これで開かなかったらどうしよう。
 そんなことを考えながらドアノブを回すと、扉はあっさり開いた。

「え」

 ふわりと花の香りに包まれる。

「トキ、外から見たのと中と違うよ!これが魔法なの?」
「あ、ああ。多分…」

 なんだこれ。
 明らかに建物の大きさと内部の広さが合ってない。

「んー、どちら様?」

 フードのいかにもな魔術師的な女の人が何故か机の下から起き上がった。
 そして、こちらを見て『ああはいはい』と座り直す。

「うちは一見お断りなんだよ。出直しな」

 まさかのお断り。

「あの、紹介状ならあるのですが」
「あ?」
「これです」

 グンジさんから渡された紹介状を手渡そうとすると、勝手に紹介状が浮かんで魔術師の元へと飛んでいった。

「おお!」

 喜ぶターリャ。
 俺も少し興奮した。
 魔法は何度も見ているけど、魔力を込める様子も詠唱もなしで使うのは格好いい。

 紹介状を開いて流し読みすると、魔術師はため息を吐きながら手招きした。

「はい確かに。じゃあ特別で取引だね。ん!」

 寄越せと腕を伸ばされ催促。

「なにしてんだい。さっさと石寄越しな」

 ターリャと手を繋いで近くに行くと、鞄から宝石が詰まった袋を渡そうとして、『うえ!?』っと引かれた。

「ばっちい!!その袋はいらん!石だけ出せ!ほら!」
「……、では」

 袋をひっくり返すと、ガラガラと色とりどりの宝石が机の上に転がり出た。
 それを一つずつ摘まんで眺める魔術師は『ほお?』と声を漏らす。

「へぇー、なかなかの品質だね。しかも“ハグレ”が多い。良いねぇ」

 ターリャが袖を引っ張ってきた。

「ハグレってなに?」
「グリーンウォルフみたいに本当なら群れで行動している妖魔がまれに一匹だけで行動している個体のことをいうんだ。ハグレは同一の妖魔とは少し変わった魔石を持ってるんだよ」
「ふーん?」

 返事はしたけどわかってなさそう。
 ま、初めはそんなもんだ。
 俺もこんなだったし。

「うんうん。よし、私の欲しいのがちょいちょいあるのが好評価だ。サービスしてあげよう」

 色別に魔石を箱に仕分けすると、袋に無造作にお金を詰め込み始めた。
 ええ、なにその詰め方。
 大雑把すぎない?
 しかも見えているのが一万ネル紙幣ばっかりで、違う意味で冷や汗が出てきた。
 そしてパンパンになったその袋を投げて寄越してきた。

「うわっとと」
「こんなもんだ。良かったなぁ、軽く一年は質素な暮らしをしていれば働かなくても済むぞ」

 ええ!?そんなに!!?
 何気なく袋の中を見たら、見たことのない大金が…。
 軽くめまい。

 これは体に良くないな。
 仕舞っておこう。

 何とかして鞄に押し込んでいると、魔術師が眉を潜め始めた。

「お前、格好からして冒険者じゃないのか?」
「“元”冒険者ですね。また申請しようとしてますけど」

 お金の問題で申請拒否されてるけど。

「マジックバッグはどうした?修理中か?」
「いえ、持ってません」
「は?」
「え?」

 んん??

「まさか冒険者の癖に持ってないのか!?」
「??? え?? だってあれすごく高いんじゃ???」
「だいたいお前らが持ってくる素材で作れるわ!!」
「なんですと!?」

 これはまた騙されてたパターンか!!!?
 ちっくしょうもう許さないぞ糞セドナ!!!!

「…………、相談があるのですが…」

 無理やり押し込んだお金を差し出す。

「作ってくれませんでしょうか…?2つほど…」
「……まぁ、さっき換金したやつでそこそこな容量のものは二日もあれば作れる」
「お願いします」

 提示されたお金を払った。
 これで二日後に念願のバッグが手に入る。
 さて、ここらで宿でも見付けるかと出ようとした時、

「ああ、ちょい待ち」
「はい?」

 魔術師に呼び止められた。

「一つ、言っておかないといけないことがある」
「何でしょうか」

 魔術師がターリャの方に視線をやる。

「その子は大事にしてやれ」
「? 勿論ですとも」

 ちゃんと安心安全な所が見つかるまで、しっかり保護するのが俺の役目だからな。






 店を出た。

「良かったね!作ってもらえるって!」
「ああ!これで物を出すときに時間が掛からずに済むぞ!」

 毎回あれで手間取ってたからな。
 あと、資金もめちゃくちゃ出来たし。
 いくら残っているのか数えてないから分からないけど、これならなら余裕で払えるし、なんなら贅沢が出来る。
 お高い宿も止まれるし、三食美味しいもの三昧できるし、ターリャに服をたくさん買ってあげられる。

 だけど、そこはやらない。
 俺のこの世界で過ごした経験上、調子に乗るとだいたい地獄に落ちるのだ。

 でもプリンとかは食べさせたい。

 ターリャは子供だ。
 少しくらい良い思いさせたってバチは当たらないだろう。

「あの店にいってご飯食べたら、宿探そうか」
「ごはん!ターリャあのお魚好き!」
「プリンもあれば食べよう」
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