22 / 28
その22 魔王のゆめ
しおりを挟む
森のなかを歩いている。
ああ懐かしい。これは昔の夢だ。
父が死んで、悲しみのあまり城から逃げ出して迷子になったときの記憶。
どうしようもなく虚しくて、いっそのことそのまま野垂れ死んでしまおうかと思っていた。
だから大量の魔力抑制薬を服用して、ふらついているところに熊に出くわした。
本来ならば、一睨みで即死させられるのだけど。
「まぁ、こんな終わりもあり、かな…」
自暴自棄になっており、更に薬で力も出せない状態。
もう、どうでもいい。
熊の爪が迫ってくるのを、ただ突っ立って見ていた。
「早く逃げて!!!」
突然小さい影が熊との間に滑り込んできて、爪をスコップで受け止めたのだ。
信じられなかった。
同じ背丈の人間の男の子が、生物として頂点に立つ私を助けるなんて。
男の子は何度か爪を防いだが、やはり体格の差もあって何度も吹っ飛ばされては木に叩きつけられ、地面に転がされた。
それでも私の方に行かせまいと精一杯大声を張り上げて、諦めることなく熊に立ち向かっていった。
感動で涙が出た。
立場上、守られる事は当たり前のことだった。
でも、やっぱり次期魔王として、良くしていれば己の利益になるとして自分に接していたのは嫌でもわかっていた。
だからこんな風に、純粋にただの女の子として守られたことに衝撃を受けたのだ。
ああ、あんなに弱い人間なのに。
あんなに怪我をしていても、私を守ろうとしてくれている。
だけど、この子がどんなに勇猛でも熊に敵わない。
死んでしまう。
初めて私を女の子として扱ってくれたこの子を助けなければ!!!
気付けば男の子は熊を折れたスコップで倒していた。
だけども男の子もボロボロで立っているのもやっとの状態。
なのに、それなのに、この子は私を見て「無事でよかった」と笑い。「大丈夫?立てる?」と手を差し伸べてくれた。
手を取りたい。
だけど、いくら薬で抑制してても手を取れば私が死なせてしまう。
そう躊躇していると、男の子の体がぐらりと傾き倒れてしまった。
「嫌!!嫌よ!!死なないで!!!」
ボロボロと涙を流しながらどうにかして助けようとしていると、部下のラキがやってきた。
「魔王さま!!ここにおられたのですか!!ああ…服もドロドロで…、早く城に戻りましょう」
「ラキ!!まって!!」
抱き上げたラキを止める。
このまま城に戻されたらこの子は…。
「お願い!!この子に回復させてあげて!!」
「しかし、こいつは人間ですよ?この人間に…あり得ないことですが…酷い目に遭わされていたのでは?」
「違うの!私はこの子に助けられたのよ!!」
信じられないと言いたげな顔のラキ。
そうだ。私は魔王なのだ。
だけど助けられたのは真実。
「……魔王様が嘘をつくはすもありませんし。わかりました」
血濡れの男の子の体に触れ、魔力を流し込む。
うまくいくかの保証はなかったけど、それしか助ける道はなかった。
「これで、もうじき目が覚めるでしょう」
結果は成功。
血濡れはそのままだけど、大きな傷は全てふさがり、小さな傷も血が止まっていた。
「さ、行きましょう。人間の大人に見付かれば面と臭いことになります」
「うん…」
そうして、男の子を残したまま城に戻った。
何もかも元に戻ったはずだった。
たったひとつを除いて。
「…………」
頭にちらつく男の子の姿。
それを思い出す度に胸の奥がギュウとくすぐったくなるのだ。
もう一度会いたい。
会って、お話しして、仲良くなって。
そして…。
その時に気付いた。
私はあの人間に恋をしているのだと。
自覚してしまえばもう終わりだった。
顔が熱く、心が抑えきれなくなった。
手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい私だけのモノにしたい、そして…
そこでハッとした。
私はあの子の名前を知らない。
あの子も私の名前を知らない。
知っているのは顔と気配。
ああ、だけど。
私は大人になるまでは人間と同じスピードで成長してしまう。
きっと、大人になって出会ってもあの子は私に気付かない。
悲しかった。
魔王という理由だけで拒絶されるのが。
いやだ。嫌われたくない。
あの子が気付いてくれるよう変わりたくない。
叶うはずもない願いを抱いていたせいなのか、体の成長が止まってしまった。
驚きと、恋の力に感動した。
周りはすごく心配したし、私も困惑したけど、次の目標を抱いたお陰でそれがなに?と一蹴できた。
大丈夫。
そうよ!そうだわ!
力のある私が世界中を支配して探せばいいのよ!!
きっと見付けられるわ!!
そうして、オレツと出会えたのだった。
残念なことにオレツはすっかり忘れちゃっていたけど。
目が覚める。
清々しい朝。
傍らの熊のぬいぐるみに抱き付いて小さく笑う。
今とっても幸せだもの。
ああ懐かしい。これは昔の夢だ。
父が死んで、悲しみのあまり城から逃げ出して迷子になったときの記憶。
どうしようもなく虚しくて、いっそのことそのまま野垂れ死んでしまおうかと思っていた。
だから大量の魔力抑制薬を服用して、ふらついているところに熊に出くわした。
本来ならば、一睨みで即死させられるのだけど。
「まぁ、こんな終わりもあり、かな…」
自暴自棄になっており、更に薬で力も出せない状態。
もう、どうでもいい。
熊の爪が迫ってくるのを、ただ突っ立って見ていた。
「早く逃げて!!!」
突然小さい影が熊との間に滑り込んできて、爪をスコップで受け止めたのだ。
信じられなかった。
同じ背丈の人間の男の子が、生物として頂点に立つ私を助けるなんて。
男の子は何度か爪を防いだが、やはり体格の差もあって何度も吹っ飛ばされては木に叩きつけられ、地面に転がされた。
それでも私の方に行かせまいと精一杯大声を張り上げて、諦めることなく熊に立ち向かっていった。
感動で涙が出た。
立場上、守られる事は当たり前のことだった。
でも、やっぱり次期魔王として、良くしていれば己の利益になるとして自分に接していたのは嫌でもわかっていた。
だからこんな風に、純粋にただの女の子として守られたことに衝撃を受けたのだ。
ああ、あんなに弱い人間なのに。
あんなに怪我をしていても、私を守ろうとしてくれている。
だけど、この子がどんなに勇猛でも熊に敵わない。
死んでしまう。
初めて私を女の子として扱ってくれたこの子を助けなければ!!!
気付けば男の子は熊を折れたスコップで倒していた。
だけども男の子もボロボロで立っているのもやっとの状態。
なのに、それなのに、この子は私を見て「無事でよかった」と笑い。「大丈夫?立てる?」と手を差し伸べてくれた。
手を取りたい。
だけど、いくら薬で抑制してても手を取れば私が死なせてしまう。
そう躊躇していると、男の子の体がぐらりと傾き倒れてしまった。
「嫌!!嫌よ!!死なないで!!!」
ボロボロと涙を流しながらどうにかして助けようとしていると、部下のラキがやってきた。
「魔王さま!!ここにおられたのですか!!ああ…服もドロドロで…、早く城に戻りましょう」
「ラキ!!まって!!」
抱き上げたラキを止める。
このまま城に戻されたらこの子は…。
「お願い!!この子に回復させてあげて!!」
「しかし、こいつは人間ですよ?この人間に…あり得ないことですが…酷い目に遭わされていたのでは?」
「違うの!私はこの子に助けられたのよ!!」
信じられないと言いたげな顔のラキ。
そうだ。私は魔王なのだ。
だけど助けられたのは真実。
「……魔王様が嘘をつくはすもありませんし。わかりました」
血濡れの男の子の体に触れ、魔力を流し込む。
うまくいくかの保証はなかったけど、それしか助ける道はなかった。
「これで、もうじき目が覚めるでしょう」
結果は成功。
血濡れはそのままだけど、大きな傷は全てふさがり、小さな傷も血が止まっていた。
「さ、行きましょう。人間の大人に見付かれば面と臭いことになります」
「うん…」
そうして、男の子を残したまま城に戻った。
何もかも元に戻ったはずだった。
たったひとつを除いて。
「…………」
頭にちらつく男の子の姿。
それを思い出す度に胸の奥がギュウとくすぐったくなるのだ。
もう一度会いたい。
会って、お話しして、仲良くなって。
そして…。
その時に気付いた。
私はあの人間に恋をしているのだと。
自覚してしまえばもう終わりだった。
顔が熱く、心が抑えきれなくなった。
手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい手に入れたい私だけのモノにしたい、そして…
そこでハッとした。
私はあの子の名前を知らない。
あの子も私の名前を知らない。
知っているのは顔と気配。
ああ、だけど。
私は大人になるまでは人間と同じスピードで成長してしまう。
きっと、大人になって出会ってもあの子は私に気付かない。
悲しかった。
魔王という理由だけで拒絶されるのが。
いやだ。嫌われたくない。
あの子が気付いてくれるよう変わりたくない。
叶うはずもない願いを抱いていたせいなのか、体の成長が止まってしまった。
驚きと、恋の力に感動した。
周りはすごく心配したし、私も困惑したけど、次の目標を抱いたお陰でそれがなに?と一蹴できた。
大丈夫。
そうよ!そうだわ!
力のある私が世界中を支配して探せばいいのよ!!
きっと見付けられるわ!!
そうして、オレツと出会えたのだった。
残念なことにオレツはすっかり忘れちゃっていたけど。
目が覚める。
清々しい朝。
傍らの熊のぬいぐるみに抱き付いて小さく笑う。
今とっても幸せだもの。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
離縁の脅威、恐怖の日々
月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。
※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。
※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる