12 / 28
その12 オレツの探し物.5
しおりを挟む
懐かしの野山に足を踏み入れれば、あっという間に山の道が見え始めた。この山はギミー、いや、オレツにとっては庭のようなもの。
ギミーの姿がブレ、オレツの姿へと変わっていく。制服のボタンを開けて風を中に送った。暑い。
オレツの故郷は比較的暑い地域で、この制服は通気性が悪すぎて堪えられない。
すぐさま制服を脱ぎ捨て、いつもの服装へと戻る。何重にも魔法を掛けたこの服は、どんな環境だって堪えられる優れもので、それこそマグマでも燃えず、冬山でも凍らない。
オレツ特性でお墨付きだ。
何てたって、こうでもしないとすぐに体調を崩したからだ。勇者の装備が高性能だなんて誰がいった?全部カスタマイズだ。
「さて、俺の教えた通りに動いていると仮定すれば…」
見渡してみてオレツは嬉しそうに目を細めた。
獣道。それがくねくねと曲がって山へと上っていく。一見すれば何の変哲のないそれは、子供の頃にオレツが見付けて人に合わせての形を変えないように登る道だった。
意識を集中させれば、獣ではない足跡がうっすらと残っている。
大人と子供と、慣れてるものも慣れてないものも出来るだけ固まって歩いて、最後のがバレないように細工をしている。
よし、行くか。足をほんの少し浮かせて獣道を行く。その後ろから馴染むように草が生えて獣道を完全に覆い隠した。
秘密基地にしていた洞窟で身を寄せあってこの先どうするかを考えた。
味方はいない。何故なら弟が人族を裏切って魔族がわについてしまったから。そうなった理由も何となく分かってはいた。オレツは優しいのだ。見も知らぬ女の子を熊から守って怪我をした時も、バレないように隠していた。
そんなオレツが勇者だと分かった途端に家の両親はオレツを売ったのだ。
何も言ってあげることができなかった。
まさか、弟が教会に両親と出掛けて戻ってきたら売られてきたなんて誰が想像できただろうか?少なくとも私にはできなかった。
ああ可愛そうなオレツ。
両親は即言い訳をしに行って火炙りにされてしまったが、お前の分まで何とかしてこの姉が村人を守りきるかーー
「ねーちゃん!久しぶり!」
ーーら?
今、ねーちゃんと呼ばれたような?
そんなはずはない。私をねーちゃんと呼ぶのはオレツだけなのだから!
「ガンマねーちゃん、無視されるの辛いんだけど」
「ガンマって呼ばないでっていつもーー、!!」
そこでようやく辺りがざわめき立っているのに気が付いた。
顔を上げ、あまりにも信じられなくてガンマは思わず口許を手で覆った。
「うそ、オレツなの?」
「そうだよねーちゃん。にーちゃん達も久しぶり」
そこには、昔売られていって人族の裏切り者となった弟の姿があった。
前よりもムキムキになったガンマねーちゃんが瞳をウルウルさせてこちらを見ていた。ガンマねーちゃんはからだは男だが心は乙女な人だから、不思議な感覚になるのは仕方無いっちゃあ仕方がない。
それでもにーちゃんも他のねーちゃんもみんな元気そうで安心した。
子供もいるみたいで、賑やかそうだった。
「はっ!待って!なんでオレツちゃんここにいるの!?ダメよこんなところにいたら!!早く逃げなさい!!」
「そ、そうだ!火炙りにされてしまうぞ!」
「兵隊がもう近くまで来ているのよ!」
口々に村人がそう言う。
何故だか知らないが、悪く言うやつはいなかった。
俺は所謂人族の裏切り者なのに。
「良いの?俺は魔族側なんだよ?」
何となくそう言ったら、瞳を吊り上げて激怒された。
「バカを言うな!!!!!裏切り者だかなんだか知らねーが!!弟なのは代わりない!!!それに何かしら理由があんのかも知れねーし!!噂だけで判断するほど俺たちはバカじゃねーわい!!!お前よか頭悪いけどバカじゃないんだぞ!!バーーーーカ!!!!」
「兄ちゃんそれバカって言う方が…」
「ハッ!!今のなし!!今のなし!!」
兄ちゃん達があまりにも変わらなくて嬉しくなった。
勇者として売られ一度も会いに来られなかった。
来て良かった。心からそう思う。
「いやいや、俺は皆を助けに来たのに」
「いくらオレツでもこう山を囲まれたらどうすることも出来ないだろう?」
「ご心配なく。モクちゃん」
名前を呼ぶと、『グモッ?』と鳴き声を上げて姿を現した。こいつ鳴くんだ可愛いな。
「ツマさんに繋げてくれる?」
『グモグモ』と鳴くと、モクちゃんはからだを変形させて球体になり、口を大きく開けた。
ーー オレツ?どうしたの!?怪我したの!?
途端にツマンティーヌの可愛らしい声が飛び出してきた。
「ちょーっと相談があるんだけど良いかな?」
ーー 内容によるけど、なに?
ギミーの姿がブレ、オレツの姿へと変わっていく。制服のボタンを開けて風を中に送った。暑い。
オレツの故郷は比較的暑い地域で、この制服は通気性が悪すぎて堪えられない。
すぐさま制服を脱ぎ捨て、いつもの服装へと戻る。何重にも魔法を掛けたこの服は、どんな環境だって堪えられる優れもので、それこそマグマでも燃えず、冬山でも凍らない。
オレツ特性でお墨付きだ。
何てたって、こうでもしないとすぐに体調を崩したからだ。勇者の装備が高性能だなんて誰がいった?全部カスタマイズだ。
「さて、俺の教えた通りに動いていると仮定すれば…」
見渡してみてオレツは嬉しそうに目を細めた。
獣道。それがくねくねと曲がって山へと上っていく。一見すれば何の変哲のないそれは、子供の頃にオレツが見付けて人に合わせての形を変えないように登る道だった。
意識を集中させれば、獣ではない足跡がうっすらと残っている。
大人と子供と、慣れてるものも慣れてないものも出来るだけ固まって歩いて、最後のがバレないように細工をしている。
よし、行くか。足をほんの少し浮かせて獣道を行く。その後ろから馴染むように草が生えて獣道を完全に覆い隠した。
秘密基地にしていた洞窟で身を寄せあってこの先どうするかを考えた。
味方はいない。何故なら弟が人族を裏切って魔族がわについてしまったから。そうなった理由も何となく分かってはいた。オレツは優しいのだ。見も知らぬ女の子を熊から守って怪我をした時も、バレないように隠していた。
そんなオレツが勇者だと分かった途端に家の両親はオレツを売ったのだ。
何も言ってあげることができなかった。
まさか、弟が教会に両親と出掛けて戻ってきたら売られてきたなんて誰が想像できただろうか?少なくとも私にはできなかった。
ああ可愛そうなオレツ。
両親は即言い訳をしに行って火炙りにされてしまったが、お前の分まで何とかしてこの姉が村人を守りきるかーー
「ねーちゃん!久しぶり!」
ーーら?
今、ねーちゃんと呼ばれたような?
そんなはずはない。私をねーちゃんと呼ぶのはオレツだけなのだから!
「ガンマねーちゃん、無視されるの辛いんだけど」
「ガンマって呼ばないでっていつもーー、!!」
そこでようやく辺りがざわめき立っているのに気が付いた。
顔を上げ、あまりにも信じられなくてガンマは思わず口許を手で覆った。
「うそ、オレツなの?」
「そうだよねーちゃん。にーちゃん達も久しぶり」
そこには、昔売られていって人族の裏切り者となった弟の姿があった。
前よりもムキムキになったガンマねーちゃんが瞳をウルウルさせてこちらを見ていた。ガンマねーちゃんはからだは男だが心は乙女な人だから、不思議な感覚になるのは仕方無いっちゃあ仕方がない。
それでもにーちゃんも他のねーちゃんもみんな元気そうで安心した。
子供もいるみたいで、賑やかそうだった。
「はっ!待って!なんでオレツちゃんここにいるの!?ダメよこんなところにいたら!!早く逃げなさい!!」
「そ、そうだ!火炙りにされてしまうぞ!」
「兵隊がもう近くまで来ているのよ!」
口々に村人がそう言う。
何故だか知らないが、悪く言うやつはいなかった。
俺は所謂人族の裏切り者なのに。
「良いの?俺は魔族側なんだよ?」
何となくそう言ったら、瞳を吊り上げて激怒された。
「バカを言うな!!!!!裏切り者だかなんだか知らねーが!!弟なのは代わりない!!!それに何かしら理由があんのかも知れねーし!!噂だけで判断するほど俺たちはバカじゃねーわい!!!お前よか頭悪いけどバカじゃないんだぞ!!バーーーーカ!!!!」
「兄ちゃんそれバカって言う方が…」
「ハッ!!今のなし!!今のなし!!」
兄ちゃん達があまりにも変わらなくて嬉しくなった。
勇者として売られ一度も会いに来られなかった。
来て良かった。心からそう思う。
「いやいや、俺は皆を助けに来たのに」
「いくらオレツでもこう山を囲まれたらどうすることも出来ないだろう?」
「ご心配なく。モクちゃん」
名前を呼ぶと、『グモッ?』と鳴き声を上げて姿を現した。こいつ鳴くんだ可愛いな。
「ツマさんに繋げてくれる?」
『グモグモ』と鳴くと、モクちゃんはからだを変形させて球体になり、口を大きく開けた。
ーー オレツ?どうしたの!?怪我したの!?
途端にツマンティーヌの可愛らしい声が飛び出してきた。
「ちょーっと相談があるんだけど良いかな?」
ーー 内容によるけど、なに?
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる