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その12 オレツの探し物.5

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懐かしの野山に足を踏み入れれば、あっという間に山の道が見え始めた。この山はギミー、いや、オレツにとっては庭のようなもの。
ギミーの姿がブレ、オレツの姿へと変わっていく。制服のボタンを開けて風を中に送った。暑い。
オレツの故郷は比較的暑い地域で、この制服は通気性が悪すぎて堪えられない。
すぐさま制服を脱ぎ捨て、いつもの服装へと戻る。何重にも魔法を掛けたこの服は、どんな環境だって堪えられる優れもので、それこそマグマでも燃えず、冬山でも凍らない。
オレツ特性でお墨付きだ。
何てたって、こうでもしないとすぐに体調を崩したからだ。勇者の装備が高性能だなんて誰がいった?全部カスタマイズだ。

「さて、俺の教えた通りに動いていると仮定すれば…」

見渡してみてオレツは嬉しそうに目を細めた。

獣道。それがくねくねと曲がって山へと上っていく。一見すれば何の変哲のないそれは、子供の頃にオレツが見付けて人に合わせての形を変えないように登る道だった。

意識を集中させれば、獣ではない足跡がうっすらと残っている。
大人と子供と、慣れてるものも慣れてないものも出来るだけ固まって歩いて、最後のがバレないように細工をしている。

よし、行くか。足をほんの少し浮かせて獣道を行く。その後ろから馴染むように草が生えて獣道を完全に覆い隠した。








秘密基地にしていた洞窟で身を寄せあってこの先どうするかを考えた。

味方はいない。何故なら弟が人族を裏切って魔族がわについてしまったから。そうなった理由も何となく分かってはいた。オレツは優しいのだ。見も知らぬ女の子を熊から守って怪我をした時も、バレないように隠していた。
そんなオレツが勇者だと分かった途端に家の両親はオレツを売ったのだ。

何も言ってあげることができなかった。
まさか、弟が教会に両親と出掛けて戻ってきたら売られてきたなんて誰が想像できただろうか?少なくとも私にはできなかった。
ああ可愛そうなオレツ。
両親は即言い訳をしに行って火炙りにされてしまったが、お前の分まで何とかしてこの姉が村人を守りきるかーー

「ねーちゃん!久しぶり!」

ーーら?

今、ねーちゃんと呼ばれたような?
そんなはずはない。私をねーちゃんと呼ぶのはオレツだけなのだから!

「ガンマねーちゃん、無視されるの辛いんだけど」
「ガンマって呼ばないでっていつもーー、!!」

そこでようやく辺りがざわめき立っているのに気が付いた。
顔を上げ、あまりにも信じられなくてガンマは思わず口許を手で覆った。

「うそ、オレツなの?」
「そうだよねーちゃん。にーちゃん達も久しぶり」

そこには、昔売られていって人族の裏切り者となった弟の姿があった。










前よりもムキムキになったガンマねーちゃんが瞳をウルウルさせてこちらを見ていた。ガンマねーちゃんはからだは男だが心は乙女な人だから、不思議な感覚になるのは仕方無いっちゃあ仕方がない。
それでもにーちゃんも他のねーちゃんもみんな元気そうで安心した。
子供もいるみたいで、賑やかそうだった。

「はっ!待って!なんでオレツちゃんここにいるの!?ダメよこんなところにいたら!!早く逃げなさい!!」
「そ、そうだ!火炙りにされてしまうぞ!」
「兵隊がもう近くまで来ているのよ!」

口々に村人がそう言う。
何故だか知らないが、悪く言うやつはいなかった。
俺は所謂人族の裏切り者なのに。

「良いの?俺は魔族側なんだよ?」

何となくそう言ったら、瞳を吊り上げて激怒された。

「バカを言うな!!!!!裏切り者だかなんだか知らねーが!!弟なのは代わりない!!!それに何かしら理由があんのかも知れねーし!!噂だけで判断するほど俺たちはバカじゃねーわい!!!お前よか頭悪いけどバカじゃないんだぞ!!バーーーーカ!!!!」
「兄ちゃんそれバカって言う方が…」
「ハッ!!今のなし!!今のなし!!」

兄ちゃん達があまりにも変わらなくて嬉しくなった。
勇者として売られ一度も会いに来られなかった。
来て良かった。心からそう思う。

「いやいや、俺は皆を助けに来たのに」
「いくらオレツでもこう山を囲まれたらどうすることも出来ないだろう?」
「ご心配なく。モクちゃん」

名前を呼ぶと、『グモッ?』と鳴き声を上げて姿を現した。こいつ鳴くんだ可愛いな。

「ツマさんに繋げてくれる?」

『グモグモ』と鳴くと、モクちゃんはからだを変形させて球体になり、口を大きく開けた。

ーー オレツ?どうしたの!?怪我したの!?

途端にツマンティーヌの可愛らしい声が飛び出してきた。

「ちょーっと相談があるんだけど良いかな?」

ーー 内容によるけど、なに?
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