76 / 100
幕間
77話
しおりを挟む
「そこで僕は言ったのさ! ここは僕に任せて君は逃げるんだ! 転移魔導士が敵う相手じゃない! でも彼は目の前の功績に目が眩んだみたいだった。 最弱の転移魔導士にも関わらず地竜に挑んだよ。 そしてあっけなく死んでしまったんだ! 僕はギルドからの依頼通り、魔物の情報を持ち帰るために、こうして――」
人だかりの向こう側。総合ギルドを劇場に変えたアルステットは、唐突に話を打ち切ってしまった。
なぜか。それはアルステット英雄物語の中で死んだはずの登場人物である、無能で無謀な転移魔導士と、こうしてばっちり目が合ったからだろう。
「こうして、なんだ? 続きを聞かせてくれよ」
迫真の演技とセリフを織り交ぜた話は、なかなか聞きごたえがある。
唯一の欠点としては、その話の中で俺が死ぬこと、だろうか。
次第に周囲の冒険者やギルドの職員が俺の存在に気付き始め、アルステットの周囲から去っていく。
中には飲み終わった瓶や木のジョッキをアルステットに投げつける者もおり、銀色の鎧にあたって甲高い金属音を奏でていた。
「き、君、生きていたのか! それは良かった!」
大げさなリアクションと共に駆け寄ってきたアルステットは、無理やり俺の手を握って握手を交わした。
今さらなフォローに思わず笑い声を上げそうになったが、ここはぐっと我慢だ。
「あぁ、無事になんとか戻ってこれた。 聖騎士様が、ここは僕に任せて君は逃げるんだ!って俺に言ってくれたからな。 あの時は涙があふれて――」
「わかった、わかったよ! 僕が悪かった! これでいいんだろ!?」
先ほどとは打って変わって、アルステットは小声で話し始めた。
それに合わせるよう、俺も周りに話の内容が聞こえないように声を落とす。
「いいや、駄目だ。 一つだけ俺の言う事を聞いてもらう」
「な、なんだ!? 僕を脅そうっていうのか!?」
「ただ言う事を聞いてくれればいい。 簡単な話だし、やり様によってはお前はこの街の英雄になれる。 どうする? ここで俺を手伝えば、お前は勇敢に戦ったとギルドに報告してもいい」
俺はまだ今回の調査結果をギルドに報告していない。
ここで、偶然にも同じ地域での依頼を受けていたアルステットが善意で俺の依頼を手伝ってくれた、と報告すればギルドも彼を高く評価するだろう。ただ俺の報告の仕方次第では、その真逆の評価をアルステットに付けることもできる。
なにより先ほどの一人芝居をギルドの職員もばっちりと目撃している。
俺の報告を受けて、ギルドの職員が地竜の確認に向かえばどちらが真実を語っているかなど、すぐに判明する。
自分の首を自分で締めた聖騎士は、俺からの取引にガシャガシャと音を立てながら、首を縦に振ったのだった。
◆
「らっしゃい! ここはカセンの街で最高の工房! ルガルドの鍛冶屋だ!」
鉄を打つ音と炎が燃え盛る音と共に出迎えたのは、まだ若手の鍛冶師だった。
どうやら彼がルガルドその人らしく、手には本人とは違い年季の入ったハンマーを握っている。
陳列されている商品に目を通しても、そうとうに高品質な装備を提供していることが窺えた。
ルガルドの鍛冶屋は、カセンの街のどこからでも見える巨大な煙突な目印の大工房だ。
これほど大規模な鍛冶屋をこの年齢で経営できるのだから、商売人としての腕も相当なのだろう。
「この街で唯一、魔鉄鉱を扱ってると聞いてきたんだが、本当なのか?」
「あぁ、本当だとも! 魔鉄鉱の加工ができるのは、カセンの街じゃあこのルガルドだけよ! 実物を見るかい? 最高級品を揃えてるぜ!」
「是非とも、見てみたい。 命を預ける物だからな。 この目で確かめてみたいんだ」
「構わないぜ! 少し待ってな!」
ルガルドの言葉からは自信が溢れていた。
自分の商品がどれほど高い品質かを理解しているのだろう。
実際に魔鉄鉱の装備は、高価な値段で取引されている。
鉄製品よりも強度が高く、かつ精錬された魔鉄鉱は魔法への耐性も高い。
防具や武器は、冒険者にとって半身でもあり、命を預ける相棒でもある。
そこに高い性能を求めれば、値段も比例して高くなるのは当然だ。
事実、ルガルドが持ってきた剣の値段は非常に高価だった。
さすがにワイバーンウェポンほどではないが、それに迫る金額だ。
無駄な装飾など飾り物が無い分、性能で勝負と言ったところだろう。
「魔鉄鉱の入手経路も限られてるのに、よく商品を揃えられたな。 加工も大変だっただろ」
ただ魔鉄鉱の装備が高くなる理由は、高い性能の他にも理由があった。
それは素材となる魔鉄鉱の加工に失敗したときのリスクだ。
魔鉄鉱はその有用さ故に重宝されるが、加工に失敗すれば瞬く間に有害な物質へと変化する。
元々は魔力を豊富に含む鉱石だ。
多少なりとも魔法的な力が加われば、どうなるかは想像するまでもない。
そしてジョブが一般化して人々の暮らしに普及したこの時代。
スキルや魔法に頼らず加工ができるのは、相当に経験を積んだ熟練の鍛冶師だけだ。
目の前のルガルドがその熟練者であれば、なにも問題はなかったのだが。
「そりゃ企業秘密よ! だがこの街で魔鉄鉱を取り扱うのは、この鍛冶屋ただ一軒! ここで逃したら、他じゃ手に入んないぜ? どうするんだい?」
ルガルドは商品を売るつもりで言った言葉なのだろう。
それが最後の一押しとなる事も知らずに。
「いいや、探してたものは見つかった。 色々とありがとう。 これで証言は取れた」
「なんだ?」
「ちょっとした依頼のついでに山奥の渓谷を見たんだが、加工に失敗した魔鉄鉱が大量に破棄されている現場を見つけてな。 確か魔鉄鉱を取り扱う鍛冶屋は、ここ一軒だったか。 この状況でその売り文句は失敗だったな」
魔鉄鉱を加工するには魔法に頼らず高温を保てる巨大な炉心が必要になる。
そんな施設を持っているのはカセンの街中を探してもこのルガルドの鍛冶屋だけだ。
そしてそのルガルド本人が、自分達しか魔鉄鉱を扱ってないと豪語している。
これ以上の追及は不要なほどに、状況証拠は揃っていた。
事情を知らなければ称賛していたであろう出来の剣を、ルガルドへ突き返す。
剣を受け取ったルガルドの表情からは、先ほどまでの愛想のいい笑顔が消えていた。
「おいおい、お客さん。 なにを言い出すかと思えば、そんないちゃもんを付けるためにここへきたのかい?」
「いちゃもんか? 今は冒険者ギルドが捜索に向かってるから、すぐにでも結果は出る」
ゴールド級冒険者の言葉は、俺の想像以上に効力を持っていた。
簡単な報告であってもカセンの冒険者ギルドは俺への協力を約束してくれた。
今頃はすでに冒険者ギルドの職員と雇われの冒険者が確認に向かっている頃だ。
だがそれを聞いてもルガルドは侮蔑の表情を浮かべたまま、ため息を付いた。
「そんな作り話を確かめるためにギルドも動いてるのかい? あの周辺には凶暴な地竜がいるってのに、大変なこった」
「はは、なるほどな」
「なにがおかしいんだ?」
「いやなに、ギルドには冒険者達から正体不明の魔物だと報告が入っていたらしい。 地竜かもしれない、という情報もあったが、なぜアンタは地竜だと断言できたんだ?」
「常連の冒険者達から聞いたからさ。 それより商品を買わないなら、帰ってくれないか? 商売の邪魔に――」
それまで不機嫌そうに喋っていたルガルドは、唐突に言葉を失った。
その視線は俺の右手の小さなポーチに向けられている。俺が山奥で見つけた、使い込まれたポーチだ。
同業者であれば、これが冒険者の持ち物だという事は一目でわかる。
問題はその持ち主だ。
そしてルガルドはこのポーチの持ち主を知っている。
「見覚えがあるか? リデルという冒険者のポーチだ。 中にはいくつかの手紙が入っていた。 お前が装備を格安で譲る代わりに、加工に失敗した魔鉄鉱の廃棄をその常連の冒険者達に依頼してたことがな」
しかし、リデルは魔鉄鉱の処分の最中に地竜に襲われた。
探してみれば酒場にいた冒険者の様に、ルガルドと癒着した冒険者が少なからず見つかるはずだ。
彼らを捕まえて詳細を聞けば、全てが白日の下に晒されるだろう。
仕組みは簡単だった。
加工に失敗した魔鉄鉱の処分には膨大な費用が掛かる。
限られた魔術師だけが使える『ディスペル』というスキルが無ければ、普通なら処分できないからだ。
だが渓谷に投げ捨てるだけなら非常に低コストで事がすむ。
「だがまさか地竜を使って破棄場所を隠すなんて良く考えたな」
毒素に汚染された地竜は住処を追われ、その脅威で薬草の供給が滞った。
だがルガルドにとっては都合が良かった。
地竜が暴れてくれればあの場所に近づく者が少なくなる。
そうなれば廃棄した魔鉄鉱が発見されなくなる。
「兄さん、なにが望みだ?」
もはや隠し通せないと判断したのか。
ルガルドは唸るような声で尋ねてきた。
それに対しての答えは、最初から決まっているが。
「この鍛冶屋が大人しく憲兵団の裁きを受けることだな。 少なくとも、アンタらのせいで破産の一歩手前まで追い込まれている人間がいるんでな」
「そりゃ、あの草を乾しただけの商品を売る、くだらない商人たちのことか? 発展したこの街でいつまでも古臭い商売に縋りついて、みっともない連中だ。 俺が潰さなくても、いずれ潰れるだろ」
「いずれ潰れる店の心配はしなくて結構だ。 その代わりにお前はこの瞬間にも店をたたむ準備を進めたほうが良い。 すぐに憲兵団がやってきてお前を牢獄にぶち込むからな」
今ごろ、アルステットが憲兵団の本部へ駆け込んでいる頃だろう。
後は適当に時間を稼いで、ギルドが証拠を持ち帰るのを待てば、全て解決だ。
だが、しかし。
「まぁいい。 前に何人か消してるんだ。 今さら増えた所で問題はないだろう」
相手はゆっくりと待つ気はなさそうだった。
店の奥からは数人の武装した男たちが姿を現す。
その全員が魔鉄鉱の武器や防具を纏っている。
とは言え、恐怖は一切感じない。
「それはこっちのセリフだ。 お前達の様な連中がどれだけ増えようと、俺には問題じゃない」
これまでの戦闘の経験からか。
相手がどの程度かすぐに見抜けるようになっていた。
少なくとも、もはやこの事件は解決に向かっている。
すぐにでも、終わらせることができる程に。
人だかりの向こう側。総合ギルドを劇場に変えたアルステットは、唐突に話を打ち切ってしまった。
なぜか。それはアルステット英雄物語の中で死んだはずの登場人物である、無能で無謀な転移魔導士と、こうしてばっちり目が合ったからだろう。
「こうして、なんだ? 続きを聞かせてくれよ」
迫真の演技とセリフを織り交ぜた話は、なかなか聞きごたえがある。
唯一の欠点としては、その話の中で俺が死ぬこと、だろうか。
次第に周囲の冒険者やギルドの職員が俺の存在に気付き始め、アルステットの周囲から去っていく。
中には飲み終わった瓶や木のジョッキをアルステットに投げつける者もおり、銀色の鎧にあたって甲高い金属音を奏でていた。
「き、君、生きていたのか! それは良かった!」
大げさなリアクションと共に駆け寄ってきたアルステットは、無理やり俺の手を握って握手を交わした。
今さらなフォローに思わず笑い声を上げそうになったが、ここはぐっと我慢だ。
「あぁ、無事になんとか戻ってこれた。 聖騎士様が、ここは僕に任せて君は逃げるんだ!って俺に言ってくれたからな。 あの時は涙があふれて――」
「わかった、わかったよ! 僕が悪かった! これでいいんだろ!?」
先ほどとは打って変わって、アルステットは小声で話し始めた。
それに合わせるよう、俺も周りに話の内容が聞こえないように声を落とす。
「いいや、駄目だ。 一つだけ俺の言う事を聞いてもらう」
「な、なんだ!? 僕を脅そうっていうのか!?」
「ただ言う事を聞いてくれればいい。 簡単な話だし、やり様によってはお前はこの街の英雄になれる。 どうする? ここで俺を手伝えば、お前は勇敢に戦ったとギルドに報告してもいい」
俺はまだ今回の調査結果をギルドに報告していない。
ここで、偶然にも同じ地域での依頼を受けていたアルステットが善意で俺の依頼を手伝ってくれた、と報告すればギルドも彼を高く評価するだろう。ただ俺の報告の仕方次第では、その真逆の評価をアルステットに付けることもできる。
なにより先ほどの一人芝居をギルドの職員もばっちりと目撃している。
俺の報告を受けて、ギルドの職員が地竜の確認に向かえばどちらが真実を語っているかなど、すぐに判明する。
自分の首を自分で締めた聖騎士は、俺からの取引にガシャガシャと音を立てながら、首を縦に振ったのだった。
◆
「らっしゃい! ここはカセンの街で最高の工房! ルガルドの鍛冶屋だ!」
鉄を打つ音と炎が燃え盛る音と共に出迎えたのは、まだ若手の鍛冶師だった。
どうやら彼がルガルドその人らしく、手には本人とは違い年季の入ったハンマーを握っている。
陳列されている商品に目を通しても、そうとうに高品質な装備を提供していることが窺えた。
ルガルドの鍛冶屋は、カセンの街のどこからでも見える巨大な煙突な目印の大工房だ。
これほど大規模な鍛冶屋をこの年齢で経営できるのだから、商売人としての腕も相当なのだろう。
「この街で唯一、魔鉄鉱を扱ってると聞いてきたんだが、本当なのか?」
「あぁ、本当だとも! 魔鉄鉱の加工ができるのは、カセンの街じゃあこのルガルドだけよ! 実物を見るかい? 最高級品を揃えてるぜ!」
「是非とも、見てみたい。 命を預ける物だからな。 この目で確かめてみたいんだ」
「構わないぜ! 少し待ってな!」
ルガルドの言葉からは自信が溢れていた。
自分の商品がどれほど高い品質かを理解しているのだろう。
実際に魔鉄鉱の装備は、高価な値段で取引されている。
鉄製品よりも強度が高く、かつ精錬された魔鉄鉱は魔法への耐性も高い。
防具や武器は、冒険者にとって半身でもあり、命を預ける相棒でもある。
そこに高い性能を求めれば、値段も比例して高くなるのは当然だ。
事実、ルガルドが持ってきた剣の値段は非常に高価だった。
さすがにワイバーンウェポンほどではないが、それに迫る金額だ。
無駄な装飾など飾り物が無い分、性能で勝負と言ったところだろう。
「魔鉄鉱の入手経路も限られてるのに、よく商品を揃えられたな。 加工も大変だっただろ」
ただ魔鉄鉱の装備が高くなる理由は、高い性能の他にも理由があった。
それは素材となる魔鉄鉱の加工に失敗したときのリスクだ。
魔鉄鉱はその有用さ故に重宝されるが、加工に失敗すれば瞬く間に有害な物質へと変化する。
元々は魔力を豊富に含む鉱石だ。
多少なりとも魔法的な力が加われば、どうなるかは想像するまでもない。
そしてジョブが一般化して人々の暮らしに普及したこの時代。
スキルや魔法に頼らず加工ができるのは、相当に経験を積んだ熟練の鍛冶師だけだ。
目の前のルガルドがその熟練者であれば、なにも問題はなかったのだが。
「そりゃ企業秘密よ! だがこの街で魔鉄鉱を取り扱うのは、この鍛冶屋ただ一軒! ここで逃したら、他じゃ手に入んないぜ? どうするんだい?」
ルガルドは商品を売るつもりで言った言葉なのだろう。
それが最後の一押しとなる事も知らずに。
「いいや、探してたものは見つかった。 色々とありがとう。 これで証言は取れた」
「なんだ?」
「ちょっとした依頼のついでに山奥の渓谷を見たんだが、加工に失敗した魔鉄鉱が大量に破棄されている現場を見つけてな。 確か魔鉄鉱を取り扱う鍛冶屋は、ここ一軒だったか。 この状況でその売り文句は失敗だったな」
魔鉄鉱を加工するには魔法に頼らず高温を保てる巨大な炉心が必要になる。
そんな施設を持っているのはカセンの街中を探してもこのルガルドの鍛冶屋だけだ。
そしてそのルガルド本人が、自分達しか魔鉄鉱を扱ってないと豪語している。
これ以上の追及は不要なほどに、状況証拠は揃っていた。
事情を知らなければ称賛していたであろう出来の剣を、ルガルドへ突き返す。
剣を受け取ったルガルドの表情からは、先ほどまでの愛想のいい笑顔が消えていた。
「おいおい、お客さん。 なにを言い出すかと思えば、そんないちゃもんを付けるためにここへきたのかい?」
「いちゃもんか? 今は冒険者ギルドが捜索に向かってるから、すぐにでも結果は出る」
ゴールド級冒険者の言葉は、俺の想像以上に効力を持っていた。
簡単な報告であってもカセンの冒険者ギルドは俺への協力を約束してくれた。
今頃はすでに冒険者ギルドの職員と雇われの冒険者が確認に向かっている頃だ。
だがそれを聞いてもルガルドは侮蔑の表情を浮かべたまま、ため息を付いた。
「そんな作り話を確かめるためにギルドも動いてるのかい? あの周辺には凶暴な地竜がいるってのに、大変なこった」
「はは、なるほどな」
「なにがおかしいんだ?」
「いやなに、ギルドには冒険者達から正体不明の魔物だと報告が入っていたらしい。 地竜かもしれない、という情報もあったが、なぜアンタは地竜だと断言できたんだ?」
「常連の冒険者達から聞いたからさ。 それより商品を買わないなら、帰ってくれないか? 商売の邪魔に――」
それまで不機嫌そうに喋っていたルガルドは、唐突に言葉を失った。
その視線は俺の右手の小さなポーチに向けられている。俺が山奥で見つけた、使い込まれたポーチだ。
同業者であれば、これが冒険者の持ち物だという事は一目でわかる。
問題はその持ち主だ。
そしてルガルドはこのポーチの持ち主を知っている。
「見覚えがあるか? リデルという冒険者のポーチだ。 中にはいくつかの手紙が入っていた。 お前が装備を格安で譲る代わりに、加工に失敗した魔鉄鉱の廃棄をその常連の冒険者達に依頼してたことがな」
しかし、リデルは魔鉄鉱の処分の最中に地竜に襲われた。
探してみれば酒場にいた冒険者の様に、ルガルドと癒着した冒険者が少なからず見つかるはずだ。
彼らを捕まえて詳細を聞けば、全てが白日の下に晒されるだろう。
仕組みは簡単だった。
加工に失敗した魔鉄鉱の処分には膨大な費用が掛かる。
限られた魔術師だけが使える『ディスペル』というスキルが無ければ、普通なら処分できないからだ。
だが渓谷に投げ捨てるだけなら非常に低コストで事がすむ。
「だがまさか地竜を使って破棄場所を隠すなんて良く考えたな」
毒素に汚染された地竜は住処を追われ、その脅威で薬草の供給が滞った。
だがルガルドにとっては都合が良かった。
地竜が暴れてくれればあの場所に近づく者が少なくなる。
そうなれば廃棄した魔鉄鉱が発見されなくなる。
「兄さん、なにが望みだ?」
もはや隠し通せないと判断したのか。
ルガルドは唸るような声で尋ねてきた。
それに対しての答えは、最初から決まっているが。
「この鍛冶屋が大人しく憲兵団の裁きを受けることだな。 少なくとも、アンタらのせいで破産の一歩手前まで追い込まれている人間がいるんでな」
「そりゃ、あの草を乾しただけの商品を売る、くだらない商人たちのことか? 発展したこの街でいつまでも古臭い商売に縋りついて、みっともない連中だ。 俺が潰さなくても、いずれ潰れるだろ」
「いずれ潰れる店の心配はしなくて結構だ。 その代わりにお前はこの瞬間にも店をたたむ準備を進めたほうが良い。 すぐに憲兵団がやってきてお前を牢獄にぶち込むからな」
今ごろ、アルステットが憲兵団の本部へ駆け込んでいる頃だろう。
後は適当に時間を稼いで、ギルドが証拠を持ち帰るのを待てば、全て解決だ。
だが、しかし。
「まぁいい。 前に何人か消してるんだ。 今さら増えた所で問題はないだろう」
相手はゆっくりと待つ気はなさそうだった。
店の奥からは数人の武装した男たちが姿を現す。
その全員が魔鉄鉱の武器や防具を纏っている。
とは言え、恐怖は一切感じない。
「それはこっちのセリフだ。 お前達の様な連中がどれだけ増えようと、俺には問題じゃない」
これまでの戦闘の経験からか。
相手がどの程度かすぐに見抜けるようになっていた。
少なくとも、もはやこの事件は解決に向かっている。
すぐにでも、終わらせることができる程に。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる